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【第十章前編 クリスマス】隣に越してきたクールさんの世話を焼いたら、実は甘えたがりな彼女との甘々な半同棲生活が始まった  作者: バランスやじろべー
第八章後編 二人の両親

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【番外編、及びカレンダー】第433話 大人の女子会

【番外編】

 夏の夜風が街路樹の葉をかすかに揺らしている。

 そんな蒸し暑い空気の中、仕事を終えた望は駅前の居酒屋の扉を開けて中へと入る。

 今夜は久しぶりに、学生来の友人である瑠華との二人飲みだ。

 店内に入ると焼き鳥の香ばしい香りや人々の喧騒。

 夏の夜らしく、仕事帰りや友人同士の客で賑わっている。

 その中、奥の小さなテーブル席に既に一人、肩の力を抜いて座る瑠華の姿があった。

 ジョッキを両手で抱えながら少し疲れた様子を見せている。

 そんな瑠華が丁度入って来た望を発見して声を上げた。


「おっそーい! 望、あたしもう喉カラカラで死ぬところだったんだから!」


「……何が喉カラカラよ。しっかり飲んでるじゃないの」


 テーブルの上には既に空になったジョッキが置かれている。

 もしかしたら既に片付けられた物もあるのかもしれない。

 苦笑しながら、向かいに腰を下ろす望。

 注文を済ませると冷えたジョッキが並び、乾杯の後、二人の小さな愚痴大会が始まった。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 しばらくした後、瑠華は肩の力を抜き、テーブルに突っ伏して深いため息をつく。


「はぁ……夏休みって、教師にとっちゃ関係ないんだよねー」


「それはお疲れ様。洋菓子店ウチも似たようなもんだけど」


「まったくもーっ! 部活とかで学校にくる生徒達も恋愛ばっかりしてるみたいだし! 勉強はどうした勉強はーっ!」


 追加で運ばれてきたジョッキを片手で持ちながら、もう片方の手で枝豆をつまむ。

 目は既にキマっているようで、それでいて焦点が定まっていない。

 はっきり言って、かなりヤバい人だ。


「あたしなんて、約二十五年生きてきて、まだ彼氏いないのに……! それなのに年下の分際で生徒達は楽しそうに海だの花火大会だの! 青春まっしぐらしやがってーっ! ちっくしょーっ!!」


 嫉妬から叫び声を上げる瑠華。

 ここが居酒屋でなかったら警察を呼ばれてもおかしくない。


「学生が青春するんなら、それはそれで良いんじゃないの?」


「ダメ! 先生あたしより先に恋人作るなんて、絶対に、ぜーったいに、許せないんだから!」


 望は苦笑しつつ、箸で唐揚げを摘まんだ。

 瑠華の勢いに飲まれそうになるが、内心では思わず懐かしい気持ちも芽生えていた。

 学生時代からの友人なのに、こうして大人になっても互いに愚痴を言い合える関係というのは、案外貴重なものだ。


「そして、極めつけが我が愚妹よ!」


 瑠華は悔しそうに口を食いしばり、ダンッとジョッキを置いた。

 実の妹にここまで憎悪を向けるとは果たして大丈夫なのだろうか。


「愚妹って……」


「らいちゃん、あたしのこと挑発するみたいに、彼氏と夏休みに旅行行った写真を送ってきたの! しかもメッセージに『高校二年生の夏! もう二度と体験することのできない最高の青春!』って! もう、腹立たしいったらない!」


「……それは、なかなか煽り力高いわね」


 同情しながらだし巻き卵を口に運ぶ。

 瑠華は更にビールを煽りながら目を細める。


「ほんと、妹の分際でリア充街道まっしぐらとか! お姉ちゃんは未だに独りで、こうして学生の為に身を粉にして働いてるのに!!」


 そう言いながら、ジョッキに残ったビールを一気に飲み込む瑠華。

 望は瑠華の熱弁を聞きながら、目の端で店内の賑わいを眺める。

 耳に届く小さな笑い声、グラスがぶつかる音、焼き鳥を串から外す音。

 今の瑠華に比べれば何と平和な事だろうか。


「でもね!」


 急に身を乗り出してくる瑠華。


「少なくともれーくんは大丈夫! 真面目だし、あたしの言いつけをちゃんと守ってるはず! 恋愛なんてせずに、今も勉強第一で頑張ってるに違いない!」


「…………」


 望の口元が引きつった。

 つい本日、その怜から恋人ができたということを聞いた(聞き出した)ばかりだというのに。

 緊張のあまり思わずグラスを手に取り、誤魔化すように水を飲む。


(……いや、その怜君、あなたの知らないところでとっくに彼女いるんだけど……)


 もちろん、そんなことを言えるはずがない。

 瑠華が知ったら、怜の生活が修羅場になるのは目に見えている。


「……うん、そうね。怜君はきっと、真面目にやってるわよ」


 それだけ言うのが精一杯だ。

 それを聞いた瑠華がうんうんと頷きながら、更に身を乗り出してくる。


「でしょ!? さすがあたしの弟分! そう、れーくんは良い子なの! うちの愚妹や他の生徒達と違って、先生との約束をちゃんと守ってるに違いない! 恋愛なんかに現を抜かすことなく、勉強に打ち込む子よ、ほんとに!」


(……怜君、あなたの目の届かないところで、しっかり青春してるんだけど)


 望は瑠華が空にしたビールのジョッキに視線を落としながら、乾いた笑いを浮かべるしかなかった。


(もしこの事実がバレる日が来たら、その場に自分が居合わせませんように)


 そんなことを思いながら、望は軽くグラスを傾けた。


【カレンダー】西暦は2023年です


8月10日(木)第399~401話

8月11日(金)第402話

8月12日(土)第403~405話

8月13日(日)第406~409話

8月14日(月)第410~412話

8月15日(火)第413話

8月16日(水)第414~417話

8月17日(木)第418~420話

8月18日(金)第421~427話

8月19日(土)第428話

8月20日(日)第428話

8月21日(月)

8月22日(火)第430~433話

8月23日(水)

8月24日(木)

8月25日(金)

8月26日(土)

8月27日(日)

8月28日(月)

8月29日(火)

8月30日(水)

8月31日(木)第429話

 次回投稿は月曜日を予定しています

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