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【第十章前編 クリスマス】隣に越してきたクールさんの世話を焼いたら、実は甘えたがりな彼女との甘々な半同棲生活が始まった  作者: バランスやじろべー
第八章後編 二人の両親

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【番外編】第430話 初めてのアルバイト①

 これは番外編となります。

 時系列では第428話と429話の間になります。

 書いてはみたものの、428話からそのまま429話に移行した方が話の展開が綺麗でしたので、ここで番外編として書かせていただきます。

 リュミエールの女性用更衣室の中。

 桜彩の隣では既に制服姿に着替えた望がニヤニヤとしながら、桜彩が着替え終えるのを待っている。

 先日、両親にアルバイトの許可を貰って面接をしたところ、『面接なんて形だけだから』とのことでわずか数分でアルバイトが正式に決定した。

 そして本日はアルバイト初日。

 怜と共にリュミエールを訪れた桜彩は、早速制服へと着替えることになった。

 普段から望や他のスタッフが着用している制服。

 初めてそれに袖を通し、エプロンを結ぶ指先が緊張で少し震えている。


「……こ、こうですか?」


 おそるおそる結び目を作ろうとしたところで、背後から明るい声がかかった。


「んー、ちょっと待った! それじゃ結び目が下がりすぎちゃうから」


 振り返ると、笑顔を浮かべた女性スタッフ、関根が近づいてきて、桜彩の結び目を直した。


「はい、ここでキュッと。そうそう、もっと高い位置の方が可愛いんだから」


「うんうん」


 望も笑いながら腕を組む。


「この方が桜彩ちゃんには合ってるわね」


「えっ……、そ、そうでしょうか?」


 姿見を覗き込み、少し不安げに首を傾ける。

 そこには二人と同じように制服を着用した自分の姿が映っていた。


(なんだか……普段の私じゃないみたい)


 いつもとは違う服装に若干の戸惑いを覚えてしまう。


「うんうん! ほら、やっぱり可愛い」


 そんな桜彩をの肩を、関根がにやりと笑いながら親し気にぽんと叩いた。


「こりゃあ怜君が惚れ直すわね」


「えっ!? そ、そんな……」


 桜彩は耳まで真っ赤になり、両手で頬を押さえる。

 どうやら怜の言っていたように、自分との関係は店中に知れ渡っているらしい。


「や、やめてください、そんなこと言われたら……」


「ふふっ。恥ずかしさで死んじゃいそう?」


 望も楽しそうにからかってくる。


「じゃあ、もう準備はばっちりね。ほら、怜君のところに行ってあげなさい」


「……は、はい」


 緊張と恥ずかしさで心臓が跳ね上がるのを感じながら、桜彩はゆっくり更衣室の扉を開けた。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 休憩室にて一足先に着替えを終えて待っていた怜が振り返る。

 ガチャリと扉が開く音がして、そこから桜彩が姿を現した。

 一瞬、時間が止まった気がした。

 それほどまでに、リュミエールの制服を着用した桜彩に目を奪われる。

 白と黒のシンプルな制服が、桜彩の清楚で凛とした雰囲気と絶妙に合っている。

 胸が大きく鳴ったまま見とれてしまう。


「え、えっと……」


 見つめられて恥ずかしそうに、そして少し不安そうに視線を逸らしながら、小さな声で問いかけてくる。


「ど、どうかな……? 変じゃない?」


「……変なわけないだろ、似合ってる。凄く可愛いって」


「っ……」


 桜彩は真っ赤になり、裾をぎゅっと握りしめた。


「そ、そんなこと言われたら……余計に緊張しちゃうよ……。でも、嬉しいな」


 恥ずかしがりながらもにこりと笑いかけてくれる。


「いや、本当に。リュミエールの制服ってこんなに華やかなんだなって……」


「う、うん……。ありがとね……」


 二人でえへへ、と笑い合う。


「ねえちょっとー、イチャイチャするのは後にしてくれないかなあ」


「うんうん。これからお仕事だからねー」


 すると望と関根も更衣室から出てきて、二人のやり取りをくすくすと笑う。

 そして望は桜彩の肩に手を載せてニヤニヤと笑いかける。


「ほらね、言ったとおりでしょ。怜君の目が完全に釘付けだもん」


「いやあ、いいわねぇ。いつもの怜君と違う姿も見れて。桜彩ちゃん、愛されてるねえ」


「ちょ、ちょっと……」


 桜彩は顔を覆い隠しながら、小さく抗議の声をあげる。

 しかし望は桜彩の肩に手を置いたまま、今度は怜の方をニヤニヤと見て


「ねえ、怜君。桜彩ちゃんの制服姿、見れて良かったでしょ?」


「当然でしょー。さっき顔真っ赤にして『似合ってる』って言った時なんて、もう完全に見とれちゃってたし」


 桜彩から視線を外して、望と関根の二人を見る。

 二人が着用しているのは当たり前だがリュミエールの制服。

 今桜彩が着ている物と同じデザインだが――

 そして再び桜彩を見る。

 やはり先ほどと同じでとても魅力的だ。

 そしてまた二人の方を向く。


「怜君?」


「…………あっ、やっぱりいつもの制服か。桜彩が着ると、なんだか普段の制服も凄く魅力的で……」


「えっ……、そ、そうなんだ……」


 再び照れる桜彩。

 今日のリュミエールの制服がいつもよりも華やかに見えたのは、やはり桜彩が着ていたからだ。

 着る人によって見え方が大きく違ってくる。


「……ちょっと怜君、それどういう意味かなー?」


「仕事が終わったら、ちょっと店の裏で話そっか?」


 桜彩の後ろで額に青筋を浮かべながら圧を掛けてくる二人。

 つい口から漏れた言葉がどうやら耳へと届いてしまっていたようだ。


「いやー、それよりも仕事仕事。桜彩、前に言った通り俺が教えるから」


 そう言って怜は望と関根から逃げるように、桜彩と共に休憩室を出て現場へと向かった。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 朝の店内はまだ静かで、ショーケースの中のケーキは眠っているかのように煌めいている。

 そのショーケースの内側で、制服に身を包んだ桜彩が緊張した面持ちで怜の隣に立つ。


「まずは、開店前の準備から確認しよう」


 優しく声をかけ、桜彩の手元を一緒に見ながら手順を説明する。


「皿の位置、トングの扱い方、ケーキの出し方……。ここまでは昨日までの練習と同じだな」


「うん。大丈夫だと思う」


 リュミエールでのアルバイトの話を持ち掛けてから、怜の部屋を見せに見立ててこの日までに何度も練習を重ねた。

 時には陸翔と蕾華にお客の役をお願いしたりして、練習ではほぼ完ぺきともいえる姿を見せていた。


(昨日の練習では完璧だった……。でも、俺の部屋とリュミエールはやっぱ違うし、実際のお客さんがいるときっと緊張するんだろうな)


 現に今の桜彩は練習の時よりも緊張している。


「焦らなくていいぞ。落ち着けば絶対大丈夫だから」


 そう声をかけると、桜彩は胸を撫でて大きく深呼吸をする。


「うん、ありがとね」


「よし。それじゃあ実際にやってみるか」



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 そして最終チェックということで晴臣に来てもらう。

 晴臣に客の役をやってもらい、怜と望で確認するという流れだ。


「じゃあ、最終チェックとしてお客さん役を始めるぞ」


「……わ、分かりました」


 真面目そうな笑顔を見せた晴臣が入口へと向かう。

 桜彩は深呼吸して、すぐに晴臣が入って来るであろう入口へと真剣な目を向ける。

 すぐにアンティークベルの綺麗な音色が耳に届き、客役の晴臣が入って来た。


「いらっしゃいませ!」


 まずは元気よく挨拶。

 怜も後ろで微笑み、軽く頷く。


「本日はお持ち帰りでしょうか?」


「いや、ここで食べます」


「ありがとうございます。では、本日のケーキやドリンクはいかがなさいますか?」


 桜彩の問いに晴臣は少し悩んだ(ふりをした)後


「この季節のタルトを一つ、それと紅茶も」


 紅茶には何種類かあるが、あえて種類を言わずに注文する晴臣。

 だがそのケースも想定して練習している。


「かしこまりました。紅茶の種類はいかがいたしますか?」


 桜彩は慌てることなく(緊張はしているが)練習通りにメニュー表を指差しながら尋ねる。


「アールグレイでお願いします。あと、ホットで」


「ありがとうございます。アールグレイのホットですね」


 皿にケーキを載せ、紅茶の準備を始める。


「お支払いは現金でよろしいでしょうか?」


「カードでお願いします。タッチ決済で」


「ありがとうございます。カードで承りますね」


 そう言って桜彩がレジを操作してカード決済を選択する。

 ちなみに先日、QRコード決済にも対応する為にレジは新しいものが導入された。

 現金での場合も直接手渡しするのではなく、指定箇所に現金を投入するシステムで釣銭も自動で出てくる物だ。

 これも桜彩にとっては嬉しい変更だろう。

 決済を終え、先ほど準備した紅茶とケーキ、それとデトックスウォーターをトレーに載せて差し出す。


「ありがとうございました。ごゆっくりどうぞ」


 差し出されたそれを晴臣は受け取り、イートインスペースの方へと歩いていく。

 一通りの流れを終えると、桜彩が一息ついて後ろを振り返る。


「落ち着いてるぞ。手元も丁寧だ。練習の成果が出たな」


「うん。ありがと」


 怜の言葉に桜彩が安心したように笑い、胸を撫でる。


「ほら、最初から上手にできてるじゃない。緊張しすぎないで」


「そうだな。客側の意見としても、特に問題はなかったと思うぞ」


「ありがとうございます」


 望と晴臣からの評価も上々のようで何よりだ。


「怜君、ちゃんと見てあげなさいよ」


 怜の後ろに移動した望が肘でちょいちょい、と突いてくる。

 望の言葉に怜は照れくさそうにしつつ、桜彩と目を合わせて微笑み合う。


「後は実際にお客さんが来たら、か。私、ちゃんとできるかな……?」


 不安そうに呟く桜彩。

 怜はその背中を軽く撫でて、優しく微笑みながら答える。


「大丈夫だって。いざってときは俺が側にいるし。だから安心してくれ」


 そう告げると桜彩は顔を少し赤らめ、目をそらしながら小さく笑った。


「……怜がそう言ってくれると、少し勇気が出るよ」


 目が合う瞬間、互いに微笑みを交わす。


「それじゃあそろそろ開店時刻ね。二人共、お願いね」


「はい。分かりました」


「が、頑張ります……!」


 厨房の方へと戻って行く皆を尻目に、怜は桜彩へと声をかける。


「じゃあ、そろそろ開店だ。さっきも言った通り緊張するかもしれないけど、俺がついてるからな」


「うん……ありがとう」


 そして怜は表の表示を『Close』から『Open』に変える為に外へと向かおうと――したところで、服の裾を握られる。


「桜彩……?」


「あの、ね……。最後にさ、緊張をほぐす為に、手をぎゅってしてもらえる?」


 おずおずと問いかけてくる桜彩。

 そんな桜彩の両手を、怜は優しく包み込む。


「ああ。それじゃあ頑張っていこう」


「うんっ!」


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