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【第十章前編 クリスマス】隣に越してきたクールさんの世話を焼いたら、実は甘えたがりな彼女との甘々な半同棲生活が始まった  作者: バランスやじろべー
第六章後編 将来の夢と夏休みに向けて

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第332話 七夕① ~笹団子を食べさせ合おう~

 七月七日。

 この日付を聞いた日本人が一番最初に思い浮かべるのはずばり『七夕』だろう。

 中国の神話に由来しており、機織りの織女と牛飼いの牛郎という二人の恋人のロマンチックな伝説を祝うものだ。

 天の川により引き離された恋人二人。

 彼らは年に一度、七月七日にのみ会うことを許されている。

 もちろん厳密に言えば新暦ではなく旧暦と関係していたりと色々とあるのだが、基本的には今日この日だ。

 そんなわけで、怜の部屋のテーブルにはいつもとは少し違うラインナップが陸翔と蕾華の分を含めて四人分並んでいる。


「は~っ、そうめん、美味し~い」


 夕食のそうめんを特製の汁につけて一口すすると、桜彩の口からいつも通りにお褒めの言葉が零れ落ちる。

 桜彩の感想を聞いた怜の口元が緩む。

 やはりいつも通りこうして美味しいと言ってくれるのはとても嬉しい。


「それじゃあ俺も」


 喜ぶ桜彩を見ながらテーブルの中央に置かれた大皿から麺を一掬いして、怜もそうめんを口に運ぶ。

 時間を掛けて出汁をとった鶏ガラスープをベースにし、そこにオリーブオイルやニンニクなどでコクを付けた汁の味がたまらない。


「うん。良い味出てる」


「だよね~っ。幸せ~っ」


 そうめんの味にうっとりと呟く桜彩。

 この姿を見ることが出来ただけで、これを作るのにかかった手間暇が報われる。


「だよなあ。トッピングも美味いし」


「そうだよねえ。この鶏肉も柔らかくて美味しいよね」


 陸翔と蕾華も蒸し鶏を少し汁につけて口に運ぶ。


「今度はネギと一緒に……美味しいなあ……」


「桜彩、トマトも合うぞ」


「えっ、本当? ……うん、確かにこれも美味しいよね~」


 幸せそうに頬を押さえて舌鼓を打つ桜彩を見ると、怜としてもここまで褒められると恥ずかしい。

 そして自分の作った料理を幸せそうに食べる桜彩は、なんというか可愛い。


(好きな人に料理を作って喜んで貰えるのって、こんなにも幸せなんだな……)


 フィクションなどで、彼女が彼氏の為に弁当を作る、というシチュエーションは珍しくもないだろう。

 現に蕾華も陸翔に対してお弁当を作りたいと言って、怜に料理を学んでいた。

 その時の蕾華の喜びはこういうものだったのかと納得する。


「怜、どうしたの?」


 食事の手を止めて桜彩の食べる姿を見ていると、それに気が付いた桜彩がきょとんと不思議そうに怜を見返す。


「いや、何でもないって。ただ、桜彩が美味しそうに食べてくれるのって嬉しいなって」


「あ……。ふふっ、私の方こそ嬉しいよ。いつも美味しいご飯をありがとね。こんなに美味しい物を毎日食べられるなんて、本当に私は幸せだよ」


「桜彩も手伝ってくれてるだろ? それにさ、自分の作ったのを毎日美味しいって喜んでくれる姿を見る方が幸せなんだよ」


「ううん、私の方が幸せだよ」


「いや、俺の方だ」


「…………ふふっ」


「…………ははっ」


 何とも言えない幸せ自慢合戦の後、互いに笑い合う。


「ってことは、二人共幸せってことで」


「そうだな。二人共幸せだ」


「それじゃあもっと食べて、もっと幸せになろっか。……美味し~い!」


「ああ、もっと食べてくれ。……うん、美味しいな」


 そんなことを考えながら、二人はお互いを眺めながらそうめんを口に運んだ。

 もちろん、この場にいるのは怜と桜彩の二人だけではない。

 良い雰囲気になったところで、忘れかけられていた親友二人が半ば呆れながら口を開く。


「……二人でって、アタシ達は?」


「……オレらの存在忘れてないか?」


「えっ、わ、忘れてないよ……!」


「そ、そうだって! もちろん二人が美味しいって言ってくれるのも嬉しいぞ」


 自分達の世界に入っていた怜と桜彩が、親友二人のツッコミに慌てて顔を赤くしながら言い訳をする。

 もちろん蕾華も陸翔も本気で怒っているわけではなく、むしろこの二人のいちゃつきを見るのは最近の楽しみでもある。


「いやでもこれ本当に美味しいって。いいなあ、サーヤ。毎日こんなに美味しいの食べられて」


「うんっ! さっきも言ったけど、本当に私は幸せ者だよ」


 蕾華の言葉に桜彩が満足そうに頷きながら怜を見る。

 その表情からは『ほら、私が言った通りでしょ?』と言っている気がする。


「怜としても、こうやって美味しいっていつも言ってくれると作り甲斐があるんじゃないか?」


「そりゃあもちろん。去年はほとんど自分一人の為に作ってたからな。やっぱりこうやって美味しいって言ってくれるのは嬉しいし、作り甲斐あるよ」


 昨年は、陸翔や蕾華、瑠華がたまに訪れた時くらいしか、自分の料理をふるまう機会が無かった。

 自分で食べるだけではなく、こうして美味しいと言ってくれる相手がいるというのは本当に嬉しい。


「怜もさやっちもお互いがいてくれて本当に良かったってことだよな」


「もちろん」


「うん。当然だよ」


 陸翔の言葉に怜と桜彩が即座に反応する。


「これからも、俺の作った料理を桜彩には食べて欲しいしな」


「うん。これからも美味しいご飯を食べさせてね」



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「…………ねえりっくん。これってある意味『俺の為に毎日味噌汁を作ってくれ』ってやつだよね」


「…………むしろその亜種で『俺の作った味噌汁を毎日食べてくれ』って感じだな」


「二人共その意味に全く気が付いてないけどね」


「まあ、それを相手に伝えるのは、本人達も言ってたようにもっとロマンチックなシチュでだろ?」


 再び二人の世界に入ってしまった怜と桜彩を見て、蕾華と陸翔は再び呆れるように小声でそっと話し合った。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 食後の甘味は笹団子。

 当然ながらこれも市販品ではなく手作りだ。

 せっかく七夕ということで笹にちなんだお菓子を作ってみた。

 大皿に笹の葉を敷き詰め、冷蔵庫から自家製の団子を取り出してその上に載せる。

 更にその上に笹の葉を載せると、葉の間からくるまれた緑色の団子が可愛らしくこっそりと姿を見せている。

 笹の葉で包むまではしなかったのだが、それはそれで良いだろう。


「「「「いただきます」」」」


 思い思いに団子に手を伸ばして口へと運ぶ。


「う~んっ! これ美味し~い!」


 例のごとく笹団子を幸せそうに桜彩が頬張る。


「本当にこれも美味しいよ。固すぎず柔らかすぎず」


「これも桜彩っちが手伝ったのか?」


「うん。生地をこねたり餡子を丸めたりしたよ」


「ああ。桜彩にも色々と手伝ってもらったよ」


 昨日から桜彩と共に準備した笹団子。

 餡子の量が均等にならなかったり上手に丸めることが出来なかったりもしたのだが、何はともあれこうしてちゃんと形にすることは出来た。

 そしてこの二人にもこうして喜んでもらえたのだから充分に成功と言って良いだろう。


「でもさ、怜が和菓子を作るのって珍しいよね」


 笹団子を食べながら、ふと桜彩が思いついたことを口にする。


「まあな。光さんって洋菓子のスペシャリストがすぐ側にいるから、俺のレパートリーもどうしても洋菓子に傾いちゃうんだよな」


 怜は和菓子に関しても小さい時から母に学んでいたし、簡単なレシピなら初見でもそれなりの物を作ることは出来る。

 しかし洋菓子に関しては、光という超が付くほどの上級者の元で色々と学ぶ機会がある為に、プライベートでも復習をかねて洋菓子を作る機会が増えた。


「でもこれもすっごく美味しいって」


「褒めすぎだって」


 これに関しては、基本に忠実に作っただけ。

 桜彩にそう言ってもらえるとなんだかむず痒い。

 しかし桜彩は怜の言葉に首を振って


「私にとっての一番は怜の作る料理だからさ。だから何だって美味しいよ。それこそリュミエールのケーキよりも怜の作るスイーツの方が好きなんだから」


 その言葉にドキリと怜の心臓の鼓動が一際大きく跳ね上がる。

 大好きな人にそう言ってもらえる。

 あまりの恥ずかしさに顔を真っ赤にして俯いてしまう。


(それは、嬉しすぎるって……)


 何とか平静を装って顔を上げると、ドヤ顔で笹団子を頬張る桜彩が目に映る。


(もう……本当に可愛すぎるって……!)


 すると桜彩も顔を赤くした怜に気が付く。

 そしてからかうように


「ふふっ、怜、照れてるの?」


「う……そ、そりゃあな……」


「あははっ。でも本当のことだからねっ」


「ッ!!」


 追い打ちをかけるような言葉に再び俯いてしまう。


(だからそれが…………!)


 何かを言い返そうと頭を動かすのだが、この桜彩の可愛らしさに何も言えなくなってしまう。

 それを見た桜彩がくすくすと笑いながら、団子を一つ摘まんで差し出してくる。


「はい、怜。あーん」


「ん。あーん」 


 差し出された笹団子に口を寄せて食べさせてもらう。

 先ほど自分で食べた時よりも美味しいと思うのは気のせいではないだろう。


「はい、桜彩。お返し。あーん」


「あーん……んっ……!」


「あっ……!」


 団子を直に指で摘まんで桜彩へと差し出したのだが、桜彩が食べる際に怜の指に唇がわずかに触れてしまった。


(い、今、桜彩の唇が俺の指に……)


 これまでにも似たようなシチュエーションは何度もある。

 しかし恋心を自覚した今となっては、これまで以上にそれに強い想いを持ってしまう、


(こ、これって考えようによっては、桜彩が俺の指にキスしたってことじゃ……)


 慌てて桜彩の方を見ると、桜彩も顔を真っ赤にしている。

 どうやら桜彩も気付いてしまったようだ。


「え、えっと……ま、まあ以前にもあったしね……!」


「そ、そうだな……! い、以前にもあったしな……!」


「そ、そうだよね! き、気にすることないよね! じゃ、じゃあはい、またお返し! あーん……!」


 恥ずかしさを隠すように大きな声を出しながら桜彩が団子を差し出してくる。

 とはいえ二人共冷静さを取り戻したわけではない。

 動揺して指が震えている桜彩と顔が震えている怜。

 当然ながら、今度は怜の唇が桜彩の指へと触れてしまう。


「あっ……ま、まあ……その……」


「う、うん……。ま、前にもあったからね……」


 以前、まだ恋心を自覚していない時期に、相手の唇に触れた指を無意識に自分の唇へと近づけて行ったことがあった。

 二人共、自分の指が唇に当たる直前、正気を取り戻して未遂で済んだのだが。


(で、でもさすがにそれをやるのはマズいよな……)


(さ、さすがにダメだよね……)


 お互いに、相手の唇に触れた指を見て固まってしまう。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「…………この笹団子よりこの二人の方が甘くね?」


「…………だよねえ。まあこういった素直な所がサーヤの良いとこなんだけどさ」


「…………ま、こうやって照れる怜も結構可愛いよな」


「…………うん。いやとっとと付き合えって感じだけどね」


 そんなことを思いながら、四人は笹団子を完食した。

次回投稿は月曜日を予定しています

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