第313話 パンケーキとラテアート
「お待たせー」
「お、お待たせ」
サラダをテーブルへと運びながら陸翔と蕾華へと声を掛けると、なにやら内緒話をしていた二人がテーブルの方へと移動して来る。
「おっ、完成か!」
「ありがとー。手伝えなくてごめんね。その分洗い物はアタシとりっくんで頑張るから!」
「ははっ。頼りにしてるよ」
そう言って陸翔と蕾華が席に着いたところで桜彩が四人分の飲み物をお盆に載せて持って来る。
「コーヒー、持ってきたよ」
そう言って桜彩がソーサラーと共にコーヒーカップをそれぞれの前に置いて行く。
「あ、サーヤ、ありがと……あっ!」
「サンキュー、さやっち……わっ!」
桜彩が用意したコーヒーカップを見て陸翔と蕾華が目を見開く。
てっきりただのコーヒーだと思っていたのだが、そこにはフォームミルクで絵が描かれていた。
昨夜、怜にプレゼントしたラテアート。
それを今日は陸翔と蕾華の分も含めて四人分作ったのだ。
「凄いなこれ! 初めて見た!」
「何これ! 凄い可愛い!」
それを見て興奮する二人。
陸翔のカップには犬が、蕾華のカップには猫がそれぞれミルクで描かれている。
「え、えっと、ラテアートだよ。昨日怜に作ってみたんだけど、二人はどうかな……?」
反応が気になっておそるおそる尋ねる桜彩。
それに対する親友二人の答えはもちろん決まっている。
「もう最ッ高! サーヤ、ありがとね!」
「いいなこれ! ありがとな!」
蕾華も陸翔も満面の笑みでカップに描かれた絵を眺め、スマホを取り出して写真に収めていく。
誰が見ても気に入ったと分かる反応に桜彩は表情を緩める。
「それじゃあ次はこれだな」
そう言って今度は怜がパンケーキをテーブルへと置く。
「わっ……! なにこれ! こっちも凄く可愛い!」
「ホントだ! これもさやっちが作ったのか!?」
出来立てのパンケーキには猫と犬の絵が描かれている。
絵心の無い怜にこれは描けないので、二人共当然桜彩の作品だと即座に気が付く。
「う、うん。どうかな?」
「もう最高に決まってるじゃん! パンケーキにラテアート! まさかこんなサプライズがあるなんて思わなかったよ!」
「そうそう! 食べるのがもったいないくらいだって!」
先ほどのラテアートを見た時と同様に目を輝かせる二人。
今度はラテアートとパンケーキをセットで写真に収めていく。
嬉しそうに写真を撮るその反応を見ながら、怜と桜彩も笑顔を浮かべて席へと座る。
「でも食べないのはもったいないからな。やっぱり食事ってのは食べてこそだ」
怜がそう言うと、隣の桜彩がクスリと笑う。
「桜彩?」
「あ、ごめんね。でもさ、昨日は怜も同じような事言ってたなって思い出してね」
「う……」
桜彩の淹れてくれたラテアート。
それがとても素晴らしくて飲み始めるまでに時間が掛かったことを思い出してしまう。
「へー。怜もそうだったんだな」
「れーくん可愛い!」
「うん! 怜は可愛いよね!」
「ちょ……」
三人がかりでからかわれて顔を赤くしてしまう。
「と、とにかく食べよう! いただきます」
「おう。いただきます」
「ふふっ、いただきます」
「いただきまーす!」
恥ずかしさをごまかすように怜が大きな声を上げると、他の三人もそれに同調してパンケーキへと手を付ける。
「美味しっ!」
「うん! すっごく美味しい!」
早速パンケーキを口へと運びご満悦な笑みを浮かべる蕾華と桜彩。
やはりこうして喜んでくれる姿を見るだけで作った側としてはとても嬉しく感じる。
「本当にこれ美味いよな。メイプルシロップ掛けると更に美味い」
「ありがと。この自家製クリームチーズもトッピングしてみてくれ」
そう言って怜が小瓶に入ったクリームチーズを差し出すと、桜彩がさっそくそれをトッピングする。
「ん~っ! これも美味しいね。すっごい滑らか!」
「うんうん! 甘いパンケーキとシロップにこの微妙なしょっぱさが絶妙に合うって言うか!」
「このラテも美味いな。さやっちこういうの作れたんだな」
「うん。実家でたまに作ってたんだ」
四人で仲良く食事を続けていく。
パンケーキの味やそこに描かれた絵、ラテアート、はては桜彩の実家のことなど話題には事欠かない。
「あ、そうだ。バターもあるんだった」
そう言って怜が一度立ち上がり、冷蔵庫からバターを持って戻って来る。
「あれ? それもれーくんの自家製?」
市販の容器ではなく、明らかに手作りであろうそのバターに蕾華が目を丸くする。
怜はタッパーに入ったバターを切り分けながら
「ああ。フルーツバター。数種類のドライフルーツを詰め込んでみた。フルーツ自体がパンケーキに合うから、これもきっと合うと思うぞ」
そう言って小さくカットしたフルーツバターをこれまた小さく切り分けたパンケーキの上にちょこんと載せてからフォークで刺し
「ほら、桜彩。あーん」
そう桜彩の方へと差し出した。
「えっ……。あ、あーん……」
少しばかり恥ずかしがりながらも差し出されたそれをすぐに口に含む。
「もぐ……。うん、これもすっごく美味しい!」
「桜彩が気に言ってくれて良かったよ」
「こんなの気に入らないわけじゃないって。はい、お返し。あーん」
今度は満面の笑みの桜彩が怜にパンケーキを差し出してくる。
当然怜としてもこれを断る理由はない。
「もぐ……。うん、美味しく出来てる」
「でしょ? 怜の作る物は何だって美味しいんだから!」
何故か作った怜に対して桜彩がドヤ顔でそう宣言する。
とはいえそう思ってくれるのは怜も嬉しい。
「それじゃあ次はシナモンとメイプルシロップで……。はい、あーん」
「あーん……。うん、これも美味しいね。それじゃあ怜も。あーん」
いつの間にか自分の皿に載っているパンケーキは自分ではなく相手の口へと運ばれていく。
(……うん。こうして桜彩と食べさせてあうのって、やっぱり幸せだな)
(……ふふっ。怜と一緒にあーんで食べさせ合うのって、とっても幸せ)
大好きな相手とこうして食べさせ合うことに幸せを感じる二人。
「アタシ達も負けてられないよね。それじゃありっくん。あーん」
「あーん。……次は蕾華だな。あーん」
当然ながらもう一組のカップルもそれを見ているだけではない。
負けじとお互いに食べさせ合う。
そんな二組のバカップルは昨夜のバースデーケーキと同様に、それ以降は一口たりとも自分の口にケーキを運ぶこと無く昼食を食べ終えた。




