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【第十章前編 クリスマス】隣に越してきたクールさんの世話を焼いたら、実は甘えたがりな彼女との甘々な半同棲生活が始まった  作者: バランスやじろべー
第五章後編 ダブルデートと恋心の自覚

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第282話 ホラーハウスの中で

 入口のスタッフに四人同時に入れるか確認したところ問題ないとのことだったので四人で一緒に足を踏み入れる。

 このホラーハウスは廃病院というこれまた鉄板であろう設定だ。

 というか、この場合はホラーハウスではなくホラーホスピタルではないかとどうでもいいことを考えてしまう。

 当然というか室内は薄暗くわずかな明かりがぽつぽつと通路を照らしており、それがまた雰囲気を出している。

 先ほどは一時的に怖さを忘れていた桜彩だったのだが、室内に入ると再び恐怖が蘇ったのか緊張した面持ちで怜の腕を強く掴んでいる。


「な、何が出て来るのかな……」


 まだ入ったばかりで最初の仕掛けすら出ていない。


「まあさすがにまだ予想は出来ないよな」


「だね。とりあえず進もっか」


 このまま入口で立ち止まっているわけにもいかず、四人で前へと進んでいく。

 まずは順路通り細い廊下。

 明かりの光量が弱いのででかろうじて前方が見える程度ではあるが、目を凝らしてみると病院らしくいくつかの部屋のドアが存在する。


「あれ? あそこだけドア開いてない?」


 蕾華が指差した先を見ると、一部屋だけこれ見よがしにドアが開いていた。

 まだ距離はあるので中の様子は見えない。


「まあ、絶対に何か飛び出してくるよな……」


「だ、だよね…………」


 あからさまなトラップだが、さすがに何か来ると分かればそれなりに心の準備は出来る。

 とはいえ怖さが完全に消えるわけでもないが。

 ゆっくりとその扉の前へと近づいていくと、怜の腕を掴む桜彩の手により力が込められるのが分かる。


「うぅ……」


「大丈夫だって。所詮は作り物だし」


「う、うん。そ、そうだよね……」


「それに何かあっても隣に俺がいるからさ」


「うん。ありがと。頼りにしてるね」


 安心させるようにそう告げると、多少なりとも緊張が消えた桜彩が安心したように微笑を向ける。

 そして意を決してドアの方へと近づいてき


「りっくーん! アタシ怖いーっ!」


「任せろって! 何かあったら俺が守ってやるから!」


「……………………」


 後ろから聞こえてきた声には気が付かなかったことにした。

 思い切り楽しそうな声色であり、明らかに怖がっていない。

 むしろこれを機に二人でイチャイチャとすることが目的なのだろう。

 振り向かずとも、二人の顔には恐怖とは無縁の笑顔が広がっていることは想像に難しくない。

 後ろでいちゃついているバカップルとは対照的に緊張しながらその扉の前に立ち中を覗いてみる。

 部屋の両脇は本や資料や器具が散乱しており奥にはデスク、その上には時代錯誤な黒電話がぽつりと置かれていた。


「……これ、中に入るんだよね……」


「だよな……」


 とりあえず四人で指示通りに中へと入る。


 ジリリリリリリリリリ


 するといきなり黒電話の音が鳴り響いた。


「うわっ!」


「ひゃあっ!」


 思わず声を上げてしまう怜と桜彩。

 ただ音が鳴っているだけなのだがこの雰囲気も相まってさすがに怖い。


「……どうする?」


「とりあえず取るべきじゃね?」


 全く怖がっていないバカップルに確認するとそのような返事が返ってくる。

 というか、自分達で取るという選択肢は無いらしい。


「怜…………」


 桜彩は怜の手を掴みながらブルブルと震えている。

 この状態の桜彩に受話器を取れというのは流石に酷だろう。

 こうなったら自分が取るしかないか、と覚悟を決めて怜は受話器を取って耳に当てる。


「もしもし……」


「――――廊下に出ろ」


 感情のこもっていない冷たい声が受話器から響いて来る。

 そのまましばらく耳に受話器を当てていたが、それ以降声が聞こえることはなかった。


「……怜?」


 腕を強く掴みながら、桜彩がそっと見上げてくる。


「何て言われたんだ?」


「廊下に出ろって」


「廊下に?」


「ああ」


 受話器を置いて背後へと視線を向けるが、扉の向こうは見える範囲では特に変わった物は無い。


「部屋から出たらゾンビとか遺体とかが倒れてるとか?」


「ひっ……!」


 蕾華の予想を聞いた桜彩が悲鳴を上げて、より怜の腕へと力を込めてくる。


「とはいえこのままここでじっとしてるわけにもいかないし、とりあえず出てみるか」


「う、うん……」


 震えながら桜彩が頷く。

 一方で陸翔と蕾華はまだ平気そうな顔をしている。

 このあたりは怜や桜彩に比べてホラー耐性が高いということか。

 そして部屋の出入り口へと四人で歩いて行くと、


 ガタッ


 部屋の端からそんな物音が聞こえて来た。

 そちらの方へと視線を向けると同時に、散乱している本の向こうから白衣を着た人影が立ち上がった。


「うわっ!」


 怜としてもこれは流石に驚いた。

 怖くはないが、さすがに予想外の事態に対しては心の準備が出来ていない。


「きゃああああああああああっ!!」


 一方で桜彩の方は予想外からの仕掛けに悲鳴を上げて腕どころか全身で怜に抱きついて来る。


「グ……グ……ゥ……………………」


 人影はホラー映画の中のゾンビのように両腕を突き出してこちらの方へとゆっくりと近づいて来る。


「れ……れ……怜…………」


「は、早く出よう!」


「う、うん……!」


 あまりの恐怖にコクコクと頷く桜彩。

 そのまま怜は桜彩と共に廊下へと速足で去って行く。

 部屋を出て一息つくと陸翔と蕾華も後に続いて部屋を出て来る。


「こ、こわかったぁ…………」


 桜彩に見えないように部屋の中を覗いてみると、ゾンビ役のスタッフは元の位置へと戻っている所だった。

 このまま部屋の外まで追いかけてくるというわけではないらしい。


「桜彩。とりあえずあのゾンビはもう元の位置に戻ったから大丈夫だぞ」


「う、うん……ありがと……」


 お礼を言って桜彩が離れようとするが、足はまだ震えており怜の腕を離すことは無い。


「あ、あの、怜……。ごめん、もう少しだけこうしてて良いかな……?」


 すがるような目で桜彩が見上げてくる。


「ああ。言っただろ? 俺が隣に俺がいるって」


「うん。ありがとね、怜」


「だから気にするなっての」


「うん」


 安心するように空いた手で桜彩の頭を撫でると、それで少し緊張が和らいだのか嬉しそうな笑みを浮かべる。

 そして先ほどよりも強く腕を抱きしめてくる。

 当然ながら、桜彩の柔らかなふくらみが腕に思い切り押し付けられるわけだが。

 とりあえずこれで一安心。

 そう思って一息ついたのだが一難去ってまた一難。

 今のゾンビに意識を持って行かれた四人は廊下の先に気を配ることを忘れていた。

次回投稿は月曜日を予定しています

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