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【第十章前編 クリスマス】隣に越してきたクールさんの世話を焼いたら、実は甘えたがりな彼女との甘々な半同棲生活が始まった  作者: バランスやじろべー
第一章中編 少しぎこちない半同棲生活の始まり

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第27話 怜の部活は?

「渡良瀬、今日の夕食は少し遅れるかもしれない」


 朝食を食べながら怜は桜彩へとそう連絡する。


「分かりました」


「悪いな。なるべく早く帰れるようにはするから」


「いえ、光瀬さんにも予定があるでしょうし、私は気にしませんよ。そもそも私は教わる立場ですし」


 本当に気にしていないという顔でそう答える桜彩。


「ところで夕食のメニューはもう決めているのですか?」


「いや、食材は日によって値段が変わるからな。特売品とかその日に売っている物を見て決めると財布にも優しくなるぞ」


「なるほど、そうなのですね。ですがそれは光瀬さんのようにレパートリーが広い方にしか言えませんね」


「そうかな? 結構みんなそんな感じだと思うけど」


 他の家庭については詳しく知らない為断言はできないが。


「まあ、とりあえずは渡良瀬にも作りやすいメニューにしようと思う」


「私としてはありがたいのですが、よろしいのですか?」


「ああ。構わないぞ」


「ありがとうございます」


 複雑な工程の料理が美味しい料理というわけではない。

 作り易くても美味しい料理というものも多数存在する。


「渡良瀬は何か作ってみたい料理とかはあるのか?」


「いえ。ですがゴールデンウィークには一度実家へと帰るつもりですので、それまでに一品くらいは料理ができるようになると嬉しいですね。姉もそのタイミングで戻るそうですので、そうなれば姉も少しは安心してくれるでしょうし」


「それじゃあ目標はそれまでに一人で簡単な料理が出来できるようになるってところだな」


「はい。今は姉を心配させない為に毎食食べた料理の写真を送っているのですが、目の前で作ることができたらより安心してくれると思います」


「ゴールデンウィーク……。ってことは、後二、三週間ってところか。よし、頑張ろう」


「はい。光瀬さん、よろしくお願いします」


 これまでの話を聞く限りでは、桜彩の姉はかなり桜彩のことを大切にしているようだ。

 一人暮らしをすることになった際に一緒に住むと言っていたことからも、桜彩の生活を心配しているのだろう。

 それであれば、野菜炒めすらできなかった桜彩がまともに料理を作れるところを見せれば桜彩の言う通り少しは安心してくれるかもしれない。


「そうだ。先ほど帰りは遅くなる、と言っていましたが理由はあまり話せない事なのでしょうか?」


「いや、まあ話せないというわけではないけれど、部活の関係でな。詳しいことはあまり知られたくないというか……」


 いつもと違って歯切れの悪い言い方をすると、桜彩は不思議そうな顔をする。


「まあ、いつかは分かることかもしれないけど、とりあえず今は聞かないでくれると嬉しい」


「はい」


 少し残念そうな桜彩だが怜の言葉に頷いて味噌汁をすする。


「うん。美味しいです」


 怜としてはこのことは多くの人間が知っていることなので別に桜彩にばれたところで大した問題はないのだが、できる事ならあまり知られたくはない。

 笑顔で美味しいと言ってくれる桜彩に、怜は隠し事をしていることを少し申し訳なく思った。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「おはよう、二人共」


「おはよー、れーくん」


「おっす」


 いつもとは違って少し遅い時間に登校してきた怜が親友二人と挨拶を交わす。


「お、きょーかん、おはよー。今日は遅いね」


 そこに蕾華と桜彩と共に話をしていた奏も怜に片手を上げて言葉を掛けてくる。


「おはよう、宮前。それに渡良瀬も」


「はい、おはようございます」


 それだけ言って、桜彩は再び視線を怜から外して二人の方を向く。

 怜と二人の時とは違い、今は完全にクールな転入生モードだ。

 それを見ていた陸翔が笑いながら前の席から身を乗り出して女性陣に聞こえないくらいの声で話してくる。


「お、フツーに挨拶返してくれたな」


「そりゃあ挨拶されたら返すだろ。ていうか、初日からそうだったし」


「まあでも雰囲気は変わったと思わねえか? あの時よりは若干空気が柔らかくなったっつうかさ」


「まあそれはな」


 陸翔の言う通り、桜彩は転入初日のような周りを寄せ付けない空気が和らいできた気がする。

 蕾華や奏のようにテンション高く積極的に他人に絡んでいく感じではないのだが、二人以外の女子とも普通に話はするし、昨日は昼食を一緒に食べていた。

 桜彩を誘った相手もダメ元だったのだが、桜彩が一緒に食べることを了承した時は『クーちゃんオッケーだってー!』と結構喜んでいた。

 ちなみにクーちゃんと呼ばれたことについて、桜彩は少し複雑そうな表情をしていたが。

 今の桜彩なら初日の頃とは違ってそこそこクラスに溶け込んでいるといって問題ないだろう。

 あくまでも相手が女子に限り、男子相手では完全に塩対応なのは変わってはいないが。

 怜や陸翔に対してはこれでも比較的対応は柔らかい方だ。


「それできょーかん、今日はいったいなんでこんなに遅いの?」


 話が一段落したのか奏が怜の方を向いて聞いてくる。


「ちょっと部室に行ってたんだよ」


「ボラ部?」


「いや、もう一つの方」


「ああ、そっちか」


 それを聞いて奏が納得する。

 怜は陸翔と蕾華と共にボランティア部に所属しているのだが、それとは別にもう一つ所属させられている部活がある。

 所属『している』ではなく『させられている』だ。

 別に隠しているわけではなく大半のクラスメイトは知ってはいるのだが、それを初めて聞いた相手は皆意外そうな顔をした後納得する。

 怜としても別にそちらの方は入りたくて入ったわけではなく、その部の元部長である姉により強制的に入部させられただけである。

 とはいえ部の空気は怜にとって決して嫌なものではなく、むしろ多少の心地良さも感じることは事実だが。

 昨日、その部の現部長よりメッセージが入った。

 確認すると、本日の放課後に色々と手伝いをしてほしいとのことだった。

 ちなみにこれは形の上ではお願いだが、実質的には強制である。

 その準備として朝の内にできる事をしていただけで、登校自体はむしろいつもよりも早かった。


「それはお疲れ様。肩揉んであげよっか?」


「必要ない」


 後ろに回った奏を片手を上げて制する。

 そう言って怜は奏との会話を切り上げるとちょうど瑠華が教室に入って来た所だった。


「早く席に戻った方が良いぞ」


「ヤバッ。そんじゃあね」


 そう言って奏は四人に手を上げて前方の自分の席へと戻って行く。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



(光瀬さん、宮前さんと結構仲が良いんだなあ)


 先日も奏が怜の肩を揉んでいたことを思い出した桜彩はなんとなくムスッとしながら、ホームルームを始めた瑠華の方へと向いた。

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