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【第十章前編 クリスマス】隣に越してきたクールさんの世話を焼いたら、実は甘えたがりな彼女との甘々な半同棲生活が始まった  作者: バランスやじろべー
第三章後編 二人の甘い初デート

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第161話 可愛いって言われるのは嬉しいんだけど……

 福引会場から足早に移動したのは商業施設の案内板の前。

 景品の商品券一万円分の入った封筒を持って悩む二人。


「ど、どうする?」


「本当にどうするかな……」


 先ほど景品を当てた時と同じように呟く。

 はっきり言えば怜も桜彩も当選するなんて思ってもみなかった。

 いや、もし万一当たるとしてももっと下、せいぜい六本セットの缶コーヒーくらいだと思っていたら、それよりも遥かに高い臨時収入を得てしまった。

 封筒を開けてみると千円の商品券が十枚セットで入っていた。


「……本当に一万円分入ってるよな」


「うん……」


 疑っていたわけではないのだが、こうして現物を見ると本当に当たったのだという感覚が強くなる。

 怜も桜彩も実家が裕福であり、それなりに小遣いも持っているのだが、二人共金銭感覚は普通の高校生と比べてもかけ離れていない。

 むしろアルバイト代が入ったらすぐに大半を使ってしまう者達に比べたら倹約している方だ。

 そんな普通の高校生である二人にとって、一万円とは充分に大金といえる金額である。


「使えるのは……この施設内だけみたいだな」


「そうだね。どうしよっか」


「とりあえず夕食食べに行ってそこで考えるか」


「確かにね。そうしよっか」


 ここは県内でも有数の商業施設だけあって、様々なテナントが入っている。

 その中には普段街中で見かけるファーストフードやチェーンのファミレスから一食数千円の所までピンキリだ。

 それを眺めていた怜の頭にある考えが思い浮かぶ。


「そうだ。これってまああぶく銭だしさ、細かく色々と使うんじゃなくて、滅多にない機会だしせっかくだから夕食を豪勢にするってのはどうだ?」


「あっ、それ良いかも!」


 普通に安価な店で食べて、残った分の商品券を雑貨等に使うことも考えたのだが、せっかくのことだし滅多にしない贅沢というのも良いだろう。

 そう考えた怜の提案に桜彩も頷いてくれた。


「それじゃあどこのお店にしよっか」


「えーっと、食事の出来る所は……」


 再び案内板へと目を向けて目当ての店を探し始める。


「あっ、焼肉は? ここって結構高めの所だし良いんじゃない?」


「焼肉かあ。……うーん」


 桜彩の提案に怜は少し考えこむ。


「あれ? 何か問題でもある?」


 考え込む怜の顔を不思議そうに桜彩が覗き込んでくる。

 そんな桜彩に視線を返しながら


「いや、普段なら良いんだけどさ。ほら、焼肉って服に臭いとか付くし、下手をすれば汚れるから」


「あっ……」


 今日の二人はデートと言うこともあって、派手ではない物の多少なりとも気合を入れた服装をしている。

 臭いが付く程度ならともかく、下手にタレが跳ねたりしたら目も当てられない。


「そっか、確かに」


「まあ焼肉は今度の機会に取っておくか」


「うん。それかこの前みたいにまたバーベキューも面白そう」


「だな。そんなわけで今日はまた別のお店にするか」


「うん。……どこが良いかな~」


 目をキラキラとさせながら案内板の食事コーナーを覗き込む桜彩。

 怜としては食事よりもそんな桜彩を見ている方が楽しいかもしれない。

 そんなことを考えていると、案内板を見ていた桜彩がくるりと回って怜の方へと顔を向ける。


「怜は何か食べたい物ってある?」


「そうだな。何でもいいって言いたいけどさ、それが一番困るよな」


「うん。といっても私も何でもいいんだけどね」


 そういってふふっ、と笑う桜彩。

 つられて怜も口元が緩んでしまう。


「えーっと、ラーメンにハンバーガー、回転寿司……」


「コーヒーチェーン、オムライス専門店……」


 二人で案内板に記載されている店を読み上げていく。


「オムライスも良いんだけどね」


「なんていうか、特別感が無いんだよな」


「うんうん。それにどう頑張っても二人で一万円分も食べられないしね」


「だな。あ、でも『食うルさん』が頑張ればいけるんじゃないか?」


「あーっ、怜、また『食うル』って言った!」


 からかうように『食うル』といった怜に桜彩が頬を膨らませる。


「ククッ。ごめん、なんかツボに入った」


「むーっ!」


 目を吊り上げて(といってもそれでも可愛らしいのだが)怜を睨む桜彩。


「ごめんって」


「怜、顔が笑ってる!」


「いや、顔が笑ってるのは……」


 そんな桜彩も可愛いから。

 そう言おうとしたところで恥ずかしさで顔が赤くなって言葉に詰まる怜。

 そんな怜を睨みながらも不思議そうに見上げながら桜彩が問い詰める。


「笑ってるのは何!?」


「えーっと……」


 どうしようかと考えこむ怜。


「むぅ……。怜、私に隠し事するんだ」


「ち、違うって、い、いや、違うってかその……」


「じゃあなんなの?」


「そ、それは……」


 徐々に険しくなっていく視線に怜がたじろいでしまう。

 とはいえ昼食の時と同様に桜彩が本気で怒っているわけではないことは怜にも良く分かる。

 現にそんな二人の横を通りかかった人達も二人が喧嘩しているというよりも、仲良しカップルの微笑ましい一幕としてしか見ていない。


(……そ、そうだよな。今日は素直になるって決めたわけだし)


 桜彩との『デート』で怜が意識していること。

 それは桜彩に対して自分の気持ちを素直に伝えるということだ。


「そ、そのな……その……そんな、頬を膨らませてる桜彩も、な、なんていうか、か、可愛いって思ったら自然に頬が緩んだっていうか……」


「えっ……」


 怜の言葉に軽い怒り顔をしていた桜彩の表情が一瞬で変化する。

 頬は薄く赤くなり、目を大きく見開いて驚く。


「えっと、か、可愛いって……」


「あ、ああ……」


「う、うそ、だよね……? 私、今ちょっと不貞腐れてたし……」


「だ、だからそんな顔をした桜彩も可愛かったっていうかさ……」


「う……」


 怜から顔を逸らして両手で覆ってしまう桜彩。

 まさかの不意打ちにどんな顔をしていいか分からない。


「あ、あの、桜彩……?」


「ちょ、ちょっと待って……。わ、私、今、凄く変な顔をしてると思うから……」


 正直なところ、嬉しすぎてどんな顔をしているのか想像もつかない。

 下手をしたら年頃の女子として絶対にしてはいけない顔をしているだろう。


「いや、大丈夫だって。桜彩はどんな顔をしてても、その、可愛いって思うから……むぐ」


「も、もうストップ!」


 慌てて桜彩が怜の方へと向き直り、その口を両手で塞いでしまう。


「さ、さっきお昼ご飯を食べた後にも言ったけど、怜が私のことを褒めてくれるのは本当に嬉しいんだけどさ。で、でもこれ以上は褒められるとさすがに恥ずかしすぎるよぅ……」


 目を潤ませながら必死になってそれ以上怜が口を開かないように頑張る桜彩。

 その目がなんだか小動物みたいで愛らしい。

 しかしそれを素直に告げるともう収拾がつかなくなりそうなので言葉には出さずコクコクと頷く。


「だ、だからね、もうこれ以上褒めちゃダメだからね……」


「わ、分かった、分かったから……」


 桜彩に口を塞がれながらなんとかそう声を出す。

 すると桜彩もそれを理解してくれたのか口から手を離してくれる。


「だ、だけどさ、お昼の時に桜彩も言ってたろ? 少しくらいなら褒めても良いって……」


「う、そ、そうだけどさ……」


「それに……やっぱりなるべく俺はちゃんと声に出して言いたいな。桜彩がどれだけその、素敵かってことを……」


「だ、だからそれ禁止っ……!」


 慌てて再び怜の口を塞ぐ桜彩。


「で、でもね、その、怜に褒められるのが嫌ってわけじゃないから、それは勘違いしないでね……」


「あ、ああ……」


「だ、だからさ、その、こんな所でいきなりじゃなくて、その、お家とか二人の時なら良いっていうか……」


「わ、分かった。そ、それじゃあか、帰ったらまた可愛いって言うから……」


「だ、だからそれがダメだって言ってるの!」


 終わりの見えない怜の褒め殺しに、桜彩は顔を真っ赤にして再び怜の口を塞いだ。

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