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【第十章前編 クリスマス】隣に越してきたクールさんの世話を焼いたら、実は甘えたがりな彼女との甘々な半同棲生活が始まった  作者: バランスやじろべー
第三章後編 二人の甘い初デート

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第146話 迷子発見②

 怜の手品で不安が和らいだのか、紗耶音の顔には笑顔が浮かんでいる。

 ひとまずはこれで大丈夫だろう。

 ただ一番の問題が解決したわけではない。

 泣き止んでくれたところでここから紗耶音の両親を探さなければならない。


「それで怜? これから紗耶音ちゃんの両親を探すんだけど、何か良い方法ってある?」


「ああ。ちょっと待ってくれ」


 桜彩の言う通りこの人込みの中やみくもに探しても見つけるのは難しい。

 そう思った怜は桜彩の問いかけに対してスマホを取り出して検索ウィンドウを開く。

 少し操作すると、スマホにはこの公園の全体図を表示された。

 大きな公園だけあってちゃんと管理されているのがありがたい。


「確かこの公園はサービスセンターが……あった! 迷子ならとりあえずそこに行くのが一番だろ。今俺達がいるのがここだから……」


 そう言いながらスマホの地図で目的地までの道のりを探す。

 ここからでは少しばかり遠いようだがまあ仕方がないだろう。


「よし。紗耶音ちゃん、少し遠いけど歩ける?」


「えっと……うん……」


 怜の問いかけに紗耶音は元気なさそうに答えた。

 しかしその表情を読み取れない怜と桜彩ではない。


「本当に大丈夫? 疲れてない?」


「えっと……少し……」


 桜彩が優しく聞き返すと紗耶音は本音で答える。

 やはりここまで一人で家族を探して疲れているのだろう。


「ごめんなさい……」


「ううん、しょうがないよね。パパとママを探すので疲れちゃったの?」


「うん……」


 怜と桜彩が紗耶音を発見する前に、紗耶音は一人で元いた場所まで戻ったと言っていた。

 かなり歩いて探し回ったのだろう。

 もしかしたら走り回ったのかもしれない。

 この年の子供でそれは辛いはずだ。


「そっか。それじゃあほら」


 そう言って怜はくるりと回って紗耶音へと背中を向ける。

 その意図が紗耶音にも分かったのかおずおずと


「えっと、良いの?」


「ああ。疲れちゃったんだよな。おんぶしてあげるからゆっくり休んでて良いよ」


「うん。お兄ちゃん、ありがとう!」


 怜の言葉に紗耶音は嬉しそうに怜の背中へと体重を預ける。

 それを確認して怜はスマホを桜彩へと渡して立ち上がる。

 日頃から鍛えている怜にとっては、大きくても小学校低学年であろう紗耶音の体重程度なら問題なく背負って歩くことが出来る。

 そして案内図の表示されたスマホを桜彩へと預けて


「それじゃあ桜彩、道案内よろしく」


「うん、任せて。それじゃあ行こっか」


「ああ」


「うんっ!」


 怜の背中で元気よく紗耶音が答える。

 こうしておぶってもらえるのが嬉しいようだ。


「紗耶音ちゃん、周りにパパやママが見えたら教えてね」


「うんっ、分かった!」


 もしサービスセンターへと向かっている時に両親とすれ違うようなことがあったら面倒だ。

 その為、紗耶音には背中で周囲を良く見てもらうように頼んでおく。

 こうして怜と桜彩は紗耶音と共にサービスセンターへの道のりを歩き出した。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 サービスセンターへの道を歩いていると、怜としては周囲の視線が気になってしまう。

 とはいえ周囲の人々が三人に向ける視線は怪しい人を見るようなものではなく、むしろ好意的な視線が多い。

 これも桜彩が隣にいてくれたからだろう。

 もしも怜が一人だけで紗耶音に声を掛けていた場合、事案発生ということで警戒されてもおかしくはない。

 周囲の反応の一例を挙げると


「ねえ見て、あの三人。もしかして親子かな? 随分と若い両親ね」


「えーっ、さすがに若すぎない? あの年であんな子供はいないっしょ。兄妹とかじゃないの?」


「それかカップルに妹がくっついてきたとか?」


「あーっ、そうかも! 言われてみればなんかそれっぽい!」


 といった感じで違和感なく見られている。

 怜の耳には周囲の会話こそ届いていないが、変質者として見られているわけではなさそうなので一安心だ。


「紗耶香ちゃんはいくつなの?」


「小学校一年生!」


「一年生なんだ。学校は楽しい?」


「うんっ! いっぱい人がいて楽しいよ!」


 桜彩は怜から一歩引いた位置を歩き、怜の背に乗っている紗耶音と楽しそうに会話している。

 そんなほっこりするような会話に怜の顔にも笑みが浮かぶ。


「そっかあ。お勉強は大丈夫?」


「うんっ。あんなの簡単すぎ!」


 まあ小学校に入りたての勉強というのはそんなものだろう。

 怜としても小学校に入学する時は緊張していたのだが、蓋を開ければすぐに馴染んでしまったことを思い出す。


「でも給食でピーマンが出るのは嫌」


「ピーマンが嫌いなの?」


「うん……。でも食べなきゃいけないし……」


 どうやら学校か担任の方針では好き嫌いなく食べるようにということらしい。

 怜も桜彩も基本的に好き嫌いはなかったので、この点に関して紗耶音の気持ちが分かるとは言えないのだが。


「ピーマンかあ。苦いのが嫌なの?」


「うん。でも頑張って食べてる」


「そっか。紗耶音ちゃんは偉いんだね」


「うん。あたしちゃんと頑張って食べてるよ」


「えらいえらい」


 そう言って桜彩が紗耶音を撫でると紗耶音も嬉しそうに目を細める。


「ねえ。怜も偉いと思うよね」


「ああ。ちゃんと給食を食べるのは偉いぞ」


「えへへ。お姉ちゃん、お兄ちゃん、ありがとう」


 褒められて嬉しい紗耶音は怜の首に回している手に無意識にぎゅっと力をこめる。

 さすがに小学校一年生の力なので首が極まっているわけではないのだが、さすがにこれは少し苦しい。

 一度放してもらわなくては。


「紗耶音ちゃん。手を緩めてくれるかな?」


 ここで強い言葉を使ってはまた泣いてしまうかもしれない。

 背中の紗耶音を驚かせないように優しく諭す怜。

 その言葉を聞いた紗耶音が少し力を緩めて、先ほどと同じように普通に呼吸が出来るようになる。


「怜、大丈夫?」


「ん、大丈夫」


 小声で心配そうに聞いてくる桜彩に答える。

 実際に少しばかり苦しかったのだが呼吸が出来ないほどではなかった。


「でもそっか。紗耶音ちゃん。一度降りてもらえるかな?」


 そう言って怜は紗耶音を背中に背負った時のようにしゃがむ。


「お兄ちゃんも疲れちゃったの?」


「ううん。大丈夫だよ」


 不思議そうに声を掛けてくる紗耶音に優しく答える。


「怜、どうしたの?」


「おんぶよりも肩車の方が良いかなって。その方が目立つし、紗耶音ちゃんのパパとママを見つけやすいと思って」


「お兄ちゃん、肩車してくれるの?」


「そうだよ。紗耶音ちゃんは肩車平気?」


「うんっ!」


 嬉しそうに頷く紗耶音。

 そんな紗耶音を見て怜と桜彩が目を合わせて微笑み合う。


「それじゃあ紗耶音ちゃん。首に乗って」


「うんっ! えいっ!」


 紗耶音が怜の首に足を回して頭を掴む。

 それを確認して紗耶音の両足を支えながら怜がゆっくりと立ち上がる。

 こうしておけば首を絞められることもないだろう。


「それじゃあ行こうか」


「うんっ! わあっ、高い高い!」


 普段よりも高い視線から周囲を見る紗耶音がはしゃいで声を上げる。

 これなら周囲から紗耶音の姿を確認しやすいだろう。

 そして怜は紗耶音を肩車したまま、桜彩の案内に従ってサービスセンターへと向かって行った。

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