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【第十章前編 クリスマス】隣に越してきたクールさんの世話を焼いたら、実は甘えたがりな彼女との甘々な半同棲生活が始まった  作者: バランスやじろべー
第三章前編 歓迎会のバーベキュー

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第107話  指に付着したチョコレート

 しばらく膝枕のままお互いの頭を撫で合っていた二人。

 少しすると三匹が目を覚まして鳴き声を上げたので、それを合図として膝枕は終わった。


「ふふっ。れーくんとサーヤ、とっても仲良いよね」


「そうだな。まさか膝枕して頭を撫で合うとかな。しかも途中、完全にオレ達の存在を忘れてたし」


「う……」


「そ、それは……」


 陸翔の言う通り、途中から恥ずかしさもあって二人のことを忘れて頭を撫で合っていた。

 二人で顔を真っ赤にして俯いてしまう。

 一方で陸翔と蕾華は二人に対して生暖かい視線を向けてニマニマとしている。


「ああ、別に怒ってるわけじゃないからな」


「うんうん。アタシ達もれーくんとサーヤの写真、いっぱい撮れたし」


 陸翔と蕾華は膝枕に限らず、怜と桜彩のありとあらゆる写真を撮っていた。

 バーベキューの時から怜と桜彩は自覚なしにいちゃついていたので、陸翔と蕾華としても撮りごたえがあった。


「後でりっくんの撮った写真と合わせてデータで渡すね」


「楽しみにしてろよ」


「…………ああ」


「…………は、はい」


 確かに桜彩との写真は楽しみではあるのだが、データを渡されるときに何を言われるのか想像すらしたくない。

 恥ずかしすぎてまともに二人の顔を見ることが出来ない。

 とはいえ怜も桜彩も二人の思い出の写真は欲しい。

 そんなわけで二人とも顔を真っ赤にしながら頷いた。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 ひとしきり怜と桜彩がからかわれたところで本日最後の食材の出番だ。


「怜、このくらいか?」


 串に刺したマシュマロを確認しながら陸翔が聞いてくる。

 バーベキューコンロで焙られたマシュマロの様子を見ると、良い感じに焦げ目がついていた。


「オッケー。それじゃあソッコーで挟んじゃうか」


「りっくん、こっちの準備もオッケーだよ!」


 怜の返事を聞いた蕾華がチョコレートを乗せたクラッカーを持って待ち構える。

 それを確認した陸翔が、マシュマロを蕾華の方へと差し出すと、蕾華がクラッカーでマシュマロを挟む。


「良いよ、りっくん」


「よっしゃ。それじゃあ引き抜くぞ」


 蕾華がマシュマロを挟んだのを確認して、陸翔がマシュマロから串を引き抜く。


「れーくんれーくん。これで良いの?」


「ああ。これでバーベキューのシメのスモアの完成だ」


「わーっ! 美味しそーっ!」


 クラッカーに共に挟まれたマシュマロの熱でチョコレートが溶けだす。

 本来であればピーナッツバターあたりも加えたかったのだが、屋外に長時間放置とすることになる為衛生面から泣く泣く諦めた。

 とはいえこれはこれで美味しそうだ。


「怜、こっちの方は?」


「それも良い感じだな。それじゃあ桜彩」


 怜も蕾華と同様にチョコレートを乗せたクラッカーを両手に持って構えると、桜彩が焼きマシュマロを差し出してくれる。

 マシュマロを挟んでこちらもスモアを作ると桜彩が目をキラキラと輝かせてみてくる。


(やっぱり桜彩は桜彩だなあ)


 美味しい物に目がない桜彩の姿を見て、怜の顔に笑みが浮かぶ。

 そして桜彩の方へと出来立てのスモアをそっと差し出す。


「桜彩、あーん」


「えっ、良いの?」


「もちろん。今日は桜彩の歓迎会なんだから」


「ふふっ、ありがと。じゃああーん」


 そう言うと桜彩は怜に向かって口を開く。

 ちなみに『あーん』先ほど親友二人に散々にからかわれた為、もはや普通に楽しもうと二人とも開き直っている。

 もちろん恥ずかしいことは恥ずかしいのだが。


「はい。熱いから気をつけてな」


「うんっ。あ、それだったら、その……怜、冷ましてくれる……?」


 さすがに恥ずかしそうに顔を赤らめた桜彩がそうお願いしてくる。


(……ま、まあもう楽しむって決めたしな)


 そう決意を決めて、桟敷席でガン見を決め込む親友二人をスルーしてスモアに息を吹きかけて冷ます。


「ふーっ……はい、あーん」


「あーん…………うんっ、美味しい!」


「そっか、良かった」


「うんっ。それじゃあもっと作ろっ!」


「ああ。それじゃあ次のマシュマロを焼いていくか」


 新たなマシュマロを串に刺して焼いていくと、すぐに焼き目が付いた。


「それじゃあ今度は怜の番だね。ふーっ……はい、あーん」


「あーん」


 桜彩の手からスモアを食べさせてもらう。

 マシュマロとチョコレートの甘みが口の中に広がる。


「美味しいな」


「うんっ、美味しいよね」


 言いながら桜彩は次のサモアを作っている。

 しばらくしてマシュマロに焼き目が付くのを確認すると、怜がすぐにクラッカーとチョコレートを用意してマシュマロをサンドする。


「ふーっ……はい、あーん」


「あーん……あっ!」


 怜の手からマシュマロを食べさせてもらった桜彩が、ふと何かに気が付いたように怜の指を見る。

 つられて怜も自分の指を見て見ると、溶けたチョコレートが少し指に付着していた。


「あっ、チョコレートが……」


 指に付着したチョコレートを拭うためにウェットティッシュを探す。

 が、それより先に桜彩が怜の手を取って


「ペロッ……うん、取れたよ」


 突然怜の指についたチョコレートを舐めとった。

 あまりのことに怜を含めた三人が呆然としてしまう。


「…………えっ?」


「おおっ!」


「わっ!」


 驚く怜と、驚きながら凄い物を見たかのように心を躍らせる親友二人。

 一方で三人のリアクションに桜彩は不思議そうな顔をする。


「えっと、どうかしたの?」


「ど、どうかしたのかっていうか……」


 何と説明して良いか分からず言葉を探してしまう。

 しかし怜が言葉を見つけるよりも早く蕾華が口を開く。


「わっ! サーヤ、大胆」


「えっ?」


 何のことだか分からずに顔に『?』を浮かべる桜彩。

 それに対して蕾華が自分の指を舐めるようなリアクションをすると、一拍遅れて桜彩が今自分が何をしたのかを理解する。


「あっ…………!」


 瞬時に赤くなった顔を両手で覆って隠してしまう。


「ご、ご、ごめんっ……! わ、私、そんなつもりじゃ…………!」


「わ、分かってる、分かってるって!」


「ほ、本当にゴメンッ!」


「だ、大丈夫だって! そ、それに俺も……嫌じゃないしさ……」


「そ、そう……」


 二人で顔を赤くして照れてしまう。

 そんな二人に親友二人はニヤニヤとした視線を送り続ける。


「あっ、サーヤ、サーヤの指にもチョコレート付いてない?」


「えっ!? あ、ほ、本当ですね」


 今気が付いたのだが、先ほどサモアを作った時に桜彩の指にもチョコレートが付着していた。

 それを見た蕾華がニヤニヤとしながら提案を口にする。


「あっ、それじゃあサーヤ、今度は逆にれーくんに舐めてもらったら?」


「おっ、それ良いな! ナイスアイディア、蕾華!」


「ふぇっ!?」


「ええっ!?」


 いきなりの蕾華の提案に二人で声を上げて驚いてしまう。

 お互いに顔を見合わせてオロオロとしてしまう。


「っていうか、普通にウェットティッシュで拭けばいいだろうが!」


「そ、そうですそうです!」


 顔を真っ赤にした怜がそう当たり前の提案をする怜。

 桜彩も顔を真っ赤にしながら怜の提案にコクコクと首を縦に振る。

 しかしこの親友二人はそんな真っ当な提案を許すほど甘くはなかった。


「えーっ、れーくん何言ってるの!? ちゃんとサーヤにお返ししないと!」


「そーだぞー。蕾華の言う通り、ちゃんとお返ししてやらないとな」


「お返しってな……」


 そもそもお返しするようなことではないだろう。


「それともれーくん、サーヤにするのは嫌なの?」


「えっ!?」


 蕾華の言葉に驚く桜彩。

 そして悲しそうな目で怜を見てくる。

 それを見て蕾華も怜に対して非難するような視線を向けて口を開く。


「れーくんに問題です。チョコレートが付着してしまったサーヤの指を綺麗にする方法を、次の選択肢から選びなさい。選択肢①、舐めてあげる」


「…………選択肢②、ウェットティッシュで拭きとってあげるってのがないんだが?」


「一択なんだからあるわけないじゃん」


 いつまでたってもその他の選択肢が現れないので聞いてみると、何を馬鹿なことを、という感じで答える蕾華。

 少なくとも馬鹿なことを言っているのはそちらだと思う。


「えっと、怜、やっぱり嫌?」


 完全に親友二人の作った空気に流される桜彩。

 しかし怜としてもそう言われて断れるわけはない。


「えっと、嫌ってわけじゃあないから……」


「うんっ! それじゃあお願い」


 またもいつも通りの桜彩の可愛いお願いに怜はなす術もなく頷くことしか出来ない。

 笑顔で指を差し出してくる桜彩。

 そんな桜彩の手首を軽く握って手のひらを顔の前に近づける。

 猫カフェの時にも手が触れ合ったが、その時と同じように桜彩の体温が伝わってくる。


「そ、それじゃあ……舐めるぞ……ペロッ」


「ひゃうっ!」


 怜の舌が桜彩の指に触れた瞬間、桜彩がくすぐったそうに声を上げる。

 しかし怜が手首を握っている為に、桜彩は手を引き戻すことが出来ない。


「あっ、悪い」


 慌てて怜が手首を離す。


「う、ううん、くすぐったかっただけだから……。私の方こそごめんね。それで、その、まだ指にチョコ付いてるから……舐めて貰っても良い……?」


「わ、分かった……」


 再び差し出された桜彩の指を、怜は恥ずかしながら舐めていく。

 舌で桜彩を感じてただでさえ赤い顔が今日一番赤くなっている。


(……チョコ、の味もあるけど、それ以上に桜彩の指が……これが桜彩の味か……って何考えてんだよ、俺は! 無心になれ、無心になれ!)


(怜の舌が……くすぐったいけど気持ち良い……)


 チョコレートを舐め終えた怜が手を離す。


「えっと、取れたよ……」


「うん、ありがと、怜」


 嬉しそうに怜舐めた指を見つめる桜彩。

 そんな二人を陸翔と蕾華はニヤニヤと見つめながらスマホを構えて撮影している。


「なあ怜、なんかお茶かなんかないか?」


「あ、ああ。今紅茶淹れるから」


 コンロの隅で沸かしていたお湯を使って紙コップにティーパックで紅茶を淹れる。


「甘いもんにはやっぱコーヒーとかお茶が欲しいよな」


「うんうん。ていうか、甘いのはスモアだけじゃないけどね」


「え?」


 蕾華の言葉に桜彩が顔に『?』を浮かべる。

 それに対して蕾華は桜彩に対してニマニマとした目を向けながら


「れーくんとサーヤ、今ものすごいイチャイチャしてたよね。もうスモアよりもそっちの方が甘かったよ」


「え…………あ、ああっ!!」


 今、自分が何をしていたのかをやっと理解した桜彩。


「ら、蕾華さんっ!」


「え? どうしたの?」


「ま、またからかいましたね!」


 最初に自分が怜の指を舐めた時は桜彩も恥ずかしいことをしているという自覚があったのだが、その後の二人の口車にすっかりと乗せられてしまった。


「えーっ、でもれーくんとサーヤ、とっても可愛かったよ。ね、りっくん!」


「ああ! ほらみろよ、これ!」


 そう言ってスマホを差し出す陸翔。。

 そこには恥ずかしそうに桜彩の指を舐める怜と、嬉しそうにする桜彩が写っていた。


「ちょっ、ちょっと!」


「うんうん。良く撮れてるよね」


「ッ…………!」


「うぅ…………」


 自分達のやっていたことをまざまざと見せつけられて、怜も桜彩も声が出ない。

 しかし二人のからかいはこの程度では収まらない。


「あっ蕾華、指にチョコ付いてるぞ」


「あっ、本当だ! りっくーん、舐めて舐めて!」


「おう、任せろ! ペロッ」


 怜と桜彩を横目で見ながら、今しがたの光景を再現する二人。

 それを見た怜と桜彩はもうどのような顔をすればいいか分からない。


「いやー、れーくんもサーヤもかーわいいっ!」


「そーだなー。怜もさやっちも、凄ぇ仲良いよな!」


「……………………」


「……………………」


「……………………あ、あの」


「……………………う、うん」


「……………………そ、その、ごめん、怜」


「……………………い、いや、別に恥ずかしいだけで嫌ってわけじゃなかったから」


 ニヤニヤニヤニヤ。

 何とかそれだけを絞り出した二人を、陸翔と蕾華は微笑ましく眺め続けていた。

次回投稿は月曜日の予定です

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