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【第十章前編 クリスマス】隣に越してきたクールさんの世話を焼いたら、実は甘えたがりな彼女との甘々な半同棲生活が始まった  作者: バランスやじろべー
第三章前編 歓迎会のバーベキュー

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第106話 膝枕されながらの撫で合い

「ふーっ、良い汗かいたーっ!!」


「久々にこんなに体動かしたな!」


 バドミントンが一段落したところで蕾華と陸翔がバーベキューのスペースへと戻ってくる。

 ここ最近はずっと紙芝居に掛かりっぱなしであった為、久しぶりの運動は気持ちが良くつい熱が入ってしまった。

 楽しそうに話しながら戻って来る二人に気が付いた桜彩が座ったままと振り返り、口元に人差し指を当てて『シーッ』というジェスチャーをする。


「ん? サーヤ、どうしたの?」


「てか怜はどうしたんだ? 一緒に戻って来てたろ?」


 二人がスペース内を軽く見た所、怜の姿は見つからない。

 その言葉に桜彩は黙って自分の太ももの上を指差す。

 陸翔と蕾華が怪訝そうに桜彩の肩越しに指差した先を見ると、怜がスヤスヤと寝息をたてていた。

 それを見た瞬間、あまりのことに驚いて言葉が出ない二人。

 そんな二人に桜彩は怜の頭を撫でながら


「怜、可愛いですよね」


「う、うん。そうだね」


 慌てて蕾華が相槌を打つ。

 運動を終えて一息つこうと思ったら完全に予想外の光景がそこにあった。

 まさか怜が桜彩に膝枕されたまま寝ているなどどうやっても予想出来るものではない。

 二人の葛藤をよそに、怜は気持ち良さそうな顔で眠り続けているし、桜彩はそんな怜を見て微笑んでいる。

 どのような反応をしていいか戸惑って泳いだ蕾華の視線が、そこで桜彩の傍らに置かれていたスケッチブックを見つけた。


「あっ、サーヤ、絵を描いてたの?」


「はい。見て下さい」


 怜を起こさないようにそっとスケッチブックを二人に見せる。

 そこには桜彩の太ももの上でバスカー、クッキー、ケットと共に眠っている怜の姿が描かれていた。


「わあ。凄く上手」


「だなあ。よくこんな短時間で描けるよなあ」


 蕾華も陸翔も桜彩の絵を見て驚きの言葉を上げる。

 先日、桜彩の描いた絵を見たのだが、あれは紙芝居用の崩した絵柄だ。

 今、スケッチブックに書かれている写実画も本当に上手に描けている。


「ふふっ。私はいつも怜のことを見ていますから描きやすいんですよ」


「へ、へー、そうなんだ……」


「な、なるほどな……」


「はいっ」


 嬉しそうに頷きながら桜彩は怜の頭を撫でる。

 髪を梳く指先が気持ちい良い。


(れーくんのことをいつも見てる、ねえ)


(ホントに怜のことが大好きじゃねえか)


 若干呆れ顔の二人に気付かず更に桜彩が続ける。


「ですが、やはり怜本人の方が素敵ですよね」


「え、う、うん、そ、そうだね……」


「ほら、怜の肌ってきめ細かくて美肌じゃないですか」


「そ、そうだな……」


「他にも頼りがいのある体とか、そういった所がまだ甘いと言いますか、怜の魅力を充分に表現出来ていないと言いますか……」


 自分の描いた絵を見ながら残念そうにそう呟く桜彩。

 桜彩の言葉を陸翔と蕾華はお互いに顔を見合わせながら半ば諦めたように聞いている。


「肌、綺麗だなあ」


 戸惑う二人の心境をよそに、桜彩は怜の頬をつついていく。


「ふふっ。えいっ、えいっ」


「……にゃ……ふぅ」


 すると頬をつつかれる度に、怜の口から声が漏れる。

 ふだんのしっかりした声とは違ってなんだか可愛らしい。


「わあっ、にゃ、ですって。可愛いなあ」


「そ、そうだね、可愛いね……」


「だ、だな」


「ですよねっ。可愛いですよねっ!」


 そのまま桜彩は寝ている怜の頬をつついたり頭を撫でたりを続ける。


「ふふっ、可愛いなあ。ほっぺたの感触もぷにぷにで。もう癖になりそう」


 もう完全に自分の世界に入ってしまっている桜彩。

 半ば困りながら陸翔と蕾華は顔を見合わせる。


「……どうする、蕾華?」


「……どうするって言われても。とりあえず撮っとこっか」


 そんなわけで蕾華はスマホを取り出して、膝枕している桜彩とされている怜を写真に収めていった。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「ん……」


 怜の目が覚めると右頬に何かの感触が伝わってくる。

 肌触りは少しざらざらとした生地だがとても柔らかく温かい。

 次の瞬間、頭に何か柔らかい物が触れて髪を梳いていく。

 それがなんとも言えず心地良い。


「え……?」


「あ、怜、起きた?」


 怜が寝ぼけた頭のまま言葉を漏らすと上から言葉が降ってきた。

 少し首をひねって声のする方を見ると、そこには二つの大きめの膨らみがあり、その奥に桜彩の顔が確認出来る。


「……桜彩?」


「うん。おはよう、怜」


「……………………えっ!?」


 寝る前までのことを必死になって思い出そうと試みる。

 確か桜彩と話しているうちに眠気が襲ってきて、それで少し眠ろうとして――


「ッ!!」


 頭が覚醒して、今自分がどのような状況であるかが分かった。

 慌てて頭を起こそうとするが、桜彩の手がそれを押しとどめる。


「さ、桜彩!?」


「別に慌てなくても良いよ。もっとゆっくりしてても」


 言いながら再び頭を撫でてくる。

 髪の間を指が通り、優しく頭に伝わる感覚がとても心地良い。

 桜彩の方を見ると顔が笑っており、この状況を楽しんでいるようだ。

 しかし当然ながら怜にとって、同年代の女子に膝枕をされながら頭を撫でられるこの状況はとても恥ずかしい。

 それに加えて先ほどから視界の一部がとある膨らみに占領されており、思春期の男子である怜として目のやり場に困ってしまう。

 慌てて目を逸らすと、先ほどまでバドミントンで遊んでいた親友二人がスマホを構えてニヤニヤと笑っている風景が目に入る。


「おい……、何やってんだ、二人共」


「あ、オレ達のことは気にしないで良いぞ」


「うんうん。続きをどうぞ。さあ、早く!」


「いや待て! 続きって何だ! 続きって」


「え? そのままの意味だけど」


「そうそう。素直に膝枕されなって」


「いや、だからな……ってうわ!」


 抗議しようと体を起こそうとすると再び桜彩に押しとどめられる。

 一度離れた太ももが再び頬に当たってやはり気持ちが良いと共に恥ずかしさが上がってしまう。


「あ、もしかして怜、嫌だった?」


「う……」


 悲しそうな目で桜彩が見てくる。

 もちろん嫌なんてことはないのだが、親友二人の目の前でそんなことをされるのは流石に恥ずかしい。


「嫌なんてことはないけど……」


「だよね。サーヤに撫でられてる時のれーくん、凄く気持ち良さそうな顔してたもん」


「だよな。幸せそうな寝顔してたよな」


「ま、まあ気持ち良かったけど……」


 気持ち良かったのは事実なので恥ずかしながら頷くと、桜彩の顔が笑顔に変わる。


「ふふっ、怜がそう言ってくれて嬉しいな。じゃあ怜。続きするね」


 再び膝枕されながら頭を撫でられる。

 当然ながら陸翔と蕾華はこちらにスマホを向けたままだ。

 シャッター音がしないところを考えると、もしかしたら動画を撮られているのかもしれない。


「ふふっ。怜、気持ち良い?」


「あ、ああ。気持ち良いな……」


 楽しそうに聞いてくる桜彩。

 顔には笑顔が浮かんでいるが、しかし視界の端に入る膨らみに恥ずかしくなって目を逸らしてしまう。

 これでも怜は思春期の男子で性的なことに興味がないわけではない。

 しかも一度意識してしまうと、より桜彩のことを感じてしまう。

 頭に伝わる太ももの感触、視界の一部に映る膨らみに加え、桜彩自身のいい香りが鼻を刺激してくる。

 自分でも顔が赤くなるのが分かる。

 どんな顔で桜彩の方を見ていいか分からなくなる。


「怜? どうしたの?」


「い、いや、どうもしてないけど……」


「むぅ……。じゃあ何で顔を背けたの?」


 その理由を正直に言っても良い物かと悩む怜。

 いや、別に怜が悪いことをしている訳ではないし、桜彩ならばそれを理解してくれることも分かってはいる。

 だが、口に出すのが恥ずかしいことに変わりはない。

 その為怜は桜彩の質問に答えず、膝枕されたまま桜彩の頭へと手を伸ばす。


「ふぇっ……!」


 いきなり頭を撫でられた桜彩が驚いて声を漏らす。


「れ……怜!? な、何を!?」


「……俺ばっかり撫でられるのも悪いからな。お返しだ」


 それを見ていた親友二人が驚きに目を見開く。


「わわっ! れーくん大胆」


「おーっ、すげえ! まさか怜があんなふうにするとはな!」


「うんうん。れーくんも成長したんだね」


「だなあ。こんな姿を見られるとは」


 調子近距離の特等席で怜と桜彩を眺めながら感心したように呟く親友。

 しかし緊張しまくっている怜と桜彩には既にその声は届いていない。

 というよりも、親友二人の存在すら頭の片隅に追いやられてしまっている。


「え……ええっと……」


「桜彩ばっかり俺の頭を撫でるのはずるい」


「……わ、分かりました! ど、どうぞ!」


 そう言って頭を怜に差し出すように少し前傾姿勢を取る桜彩。

 そのせいで桜彩の胸のふくらみがより怜の方へと近づいてくる。


「……ッ」


 恥ずかしさをごまかす為の行動だったのだが、より恥ずかしさが悪化することになった。


「あ、あの、怜、撫でて、くれないの……?」


 怜の手が止まったままになってしまったので、寂しそうに桜彩が聞いてくる。


「そ、それじゃあ撫でるぞ……」


「う、うん、よろしく……」


 そう言って怜は桜彩を撫でる手を動かし始める。


「ん……怜の手、気持ち良い……」


「お、俺も、桜彩の手が結構心地好く感じるよ……」


「そ、そう……。よ、良かった」


 そのまま二人は気持ち良さそうで恥ずかしそうで、そんな感じで膝枕の状態のまま、お互いの頭を撫で続けた。

 その存在を忘れられた親友二人はそれを呆気の取られて眺めているだけ――

 ――などということは決してない。

 これ幸いと、怜と桜彩がいちゃついている姿をスマホで撮影し続けていた。

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