第168話 ひ弱な幼帝が望んだもの
「叔父貴は武帝の教育方針で精通があった9歳からの子作り以外はほとんど身体を動かしたことが無かったことと1年余りの狭い牢獄での生活で、あたしンち……西園寺御所な、そこに来た時には歩くことさえできなかった。だから今でもエロい事に使う筋肉だけは発達してるんだ。何しろ9歳の時からそんな事ばかりしてたんだからな」
かなめは悲痛な表情を浮かべながらそう言った。
「叔父貴はあの堅固なランの姐御の敷いた警備陣をまんまときりきり舞いさせて自分を救出したお袋に頼み込んで自分を鍛えて欲しいと言ったらしい。あの叔父貴もその女狂いは別として当時は真っすぐだったんだな。そこでお袋はその願いを快諾して叔父貴に剣を教え始めた……アタシもお袋の剣の稽古の厳しさは知っているが……この軍用義体がひと月で駄目になるほど激しいもんだ。お袋はランの姐御と同じように『身体強化』の法術を使える以外にも格闘戦向きの法術をたくさん使える。格闘戦に限ればおそらくランの姐御の上を行く存在だ。そのイカレタ修行を叔父貴は耐え抜いた……まあ、当時も叔父貴は多くの法術は封印されていたが不死人の能力だけは隠しようがねえからな。お袋も思いっきり鍛えぬいて14歳の頃にはお袋も満足できる程度に鍛えられたらしい。そして叔父貴はより強い力を欲して軍人になりたいと言い出して、本来公家が通う修学院高等部では無く軍の学校で本来なら武家貴族のエリート養成機関である高等予科学校に進んだんだ」
かなめは静かにそう語った。
「まあ、その高等予科学校での授業がつまらないと言ってあのお蔦さんの居た田川宿の岡場所の女郎屋『相模屋』に入り浸るようになった話は皆さんもご存じですわよね?」
作り笑顔を浮かべる茜の表情には半分諦めの色が浮かんでいた。
「なるほど……遼帝国の皇帝であれば後の皇帝を産ませるために何人でも妻を娶ることが出来る。安城少佐は野心家だ。日野警部。あなたは安城少佐に隊長との間に生まれた子に次の帝位継承権を譲ると言って交渉したんですね?」
カウラは納得がいったというように茜に向けてそう言った。
「ええ、本来なら帝位継承権一位は……私なんですけど、私は『騎士』です!そのことに誇りを持っています。宮廷の奥深くで写真を出すこともせずに姿を隠して政治をするなんて言うことは性に合いませんわ……私には罪もない力を持たない人々を守る力が有り、その義務も有ります。そして何より今の仕事が気に入っています。まあ、お父様からすれば皇帝の写真撮影が禁止されているおかげでこうして好き勝手出来るのは便利だとおっしゃるかもしれませんが」
茜はそう言って乾いた笑み浮かべた。
そんな中、一人固まっている女が居た。
「皇帝陛下……そして皇女さま……嵯峨警部。あなたは皇女さまだったんですね!これまでの数々の無礼!お許しください!なんとか命ばかりはお助けください!」
仕事を放り投げてラーナは地面に土下座し平身低頭した。
「ラーナ、良いのよそんなこと。私は東和国民になった。確かに無理をすればお父様の不在を理由に遼帝国皇帝の地位に就くことはできますが、私にそのつもりはありません。私は弱い市民を守る『騎士』。そして法術特捜の主席捜査官であることが私の誇り。それ以上の事は何も望んでいませんわ」
誠はあまりに話が大きくなってきたのでついていくのが難しくなってきた。




