表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

36/42

喪失

「……宇喜多富皇!」


 シャーロットが噛みつきそうな勢いで名前を叫ぶ。

 名を呼ばれた富皇は、シャーロットに対しいやらしい笑みを見せる。


「ふふふ、あなたからの憎悪を感じるわよシャーロットさん……いいわね、いいわよ、あなたのそういうところ好きよ」

「お前に好かれて誰が喜ぶものか!」

「それもそうね、ふふふ」

「…………」


 二人の会話を聞きながらも、ヨアヒムとアデライドは緊迫した表情でいた。

 特にアデライドを抱えているヨアヒムは、じりじりと足を動かし今にも動き出しそうな姿勢を取っている。


「あ、そこの二人。通るなら通っていいわよ」

 と、そんなヨアヒムとアデライドに富皇はまるで世間話をするかのような態度で突如言った。

「「「っ!?」」」


 彼女のその発言に驚きを隠せない三人。

 富皇は三人とは対照的にとても落ち着いた表情をしている。


「奉政さん達はここで女王を討ち取りたいらしいけど、私の興味は今その女王にはないの。私が今興味あるのは、あなたよ。シャーロットさん」

「私、ですって……!?」


 まさか自分とは思わず再び驚くシャーロット。

 富皇はそんなシャーロットに対し頷く。


「ええ、そうよ。あなたとはここで決着をつけたいと思っていたの。あなたの勇猛さは、ここで終わらせてあげるほうが美しい、そう思ってね」

「ふざけたことを……!」


 シャーロットは表情を驚きから怒りに変える。

 しかし一方で眉間に皺は寄せながらもシャーロットはヨアヒム達に言った。


「……行きなさい、ヨアヒム。どうやら奴は私しか見ていないようよ。なら、ここは奴の気が変わる前にここを通りなさい」

「……シャーロット」


 ヨアヒムは一瞬何かを言いたそうに口を開く。


「……死ぬなよ」


 が、すぐに思い直したように頭を振って言い、その場から駆けた。

 風のように早いヨアヒム達が富皇の横を通り過ぎる。

 富皇は言葉通り、去っていく二人に見向きもしなかった。


「……いい判断ね、さすが勇者」


 ただその一言だけを告げて。


「さあ、あなたの望み通り残ってあげたわよ! 戦いといきましょうか……!」

「ふふ、せっかちなんだから。でも、話が早くて助かるわ。早くしないと天光さんが来てしまうものね。私としてはそれはそれで楽しいけど、今日はあなたと二人っきりでいたい気分だから」


 まるで友人に話しかけてくるかのような口調で言う富皇に対し、無言で剣を構えるシャーロット。

 彼女は思っていた。

 きっと、自分は生きて帰れないと。

 だが、それでもよかった。

 散っていった兵達や民達の事を思えば、これでも遅すぎるぐらいだと思った。

 女王を生かして帝国へと託せた。これだけでも、自分は仕事を果たしたと。

 それに、今の人類には豊臣天光という新たな希望がいる。少し話しただけだが、彼女がいい人間なのはよく分かった。

 だから、ここで自分が死んでも問題はない。そこまで彼女は考えていた。

 しかしただで死ぬ気はない。精一杯剣を振るって、戦って、抵抗する。そうして最後の最後までこの邪悪な女に意地を見せるのだ。

 シャーロットはそう決意しながら、剣を握っていた。


「……いざ、勝負!」


 そしてシャーロットはゆく。剣を持ち、瞬時に富皇の前へと飛ぶ。

 が――


「はい、おしまい」

「なっ……!?」


 それは一瞬だった。

 シャーロットの体が、紫色の茨のようなもので突如拘束されたのだ。

 それでシャーロットは瞬間移動もできなくなり、動きを封じられてしまった。


「ぐっ……!?」


 シャーロットは必死に体を動かすも、拘束を解くことはできない。

 戦いというものすらできずに終わってしまった。

 彼女はそれを悟った。


「……殺せ……!」


 故にシャーロットは言った。

 もはや自分にはどうすることもできない。

 ならばせめて、弄ばれることなく潔い死を。

 彼女はそう願った。望んでしまったのだ。

 だが――


「ふふふ、嫌よ。あなたは、これから私のおもちゃになるんだから。高潔で思いやりのあるあなたが、私の思い通りになる。考えただけで心が踊っちゃう……」


 シャーロットの切なる願いは、あっさりと打ち砕かれた。


「そんな……」


 絶望。それがシャーロットの感じた感情だった。

 これからどんな責め苦を味わわされるのか。

 ならばせめて、彼女が自分にかまっている間、侵攻が止まれば……。

 もはやそれしかシャーロットの希望はなかった。


「それじゃ、いくわよ……」


 富皇はシャーロットの顔に手をかざす。


「あっ……」


 シャーロットの意識がそれによって闇に落ちる。

 そうして意識を失ったシャーロットと富皇は、二人そろってその場から消え去った。

 街道には、暗雲が立ち込め始めていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ