99 特別な武器は本当に特別だった
がんばると決めたのはいいけど、一度ベル先生とじっくり話し合う必要がありそう。
これ以上の後出しは勘弁してもらいたいからね!
あれ、ちょっと待って。
たしか魔王の下に向かう討伐部隊の中にはリビオがいたんじゃなかったっけ……?
あんな風に別れを惜しんでくれたってことは、リビオもベル先生が今話した作戦を知らない可能性が高い。
思っていた以上に再会が早くてすごく恥ずかしいんだけど!?
私が一人で悶えているその横で、ノアールとベル先生はまだ会話を続けていた。
「魔王を前にしても、ルージュを守り切れるというのか。随分な自信だな」
「僕が天才だっていうのもあるけど……ルージュがそう簡単にやられるような子じゃないって自信もあるからかな」
おっと私の話だったか。
ま、まぁね? そうやって弟子を信用してくれるのは素直に嬉しいけどー。
「うん。私だって戦える。そもそも、ノアールを殺さなきゃいけないのに、弱いわけないでしょ」
拗ねる気持ちもあった私は、腕を組んでふんと鼻を鳴らしながら答えた。
「そういえばさ、ノアールを殺すには特別な武器を使わなきゃいけないって言ってなかったっけ。それって結局なんなの? 私にも使える武器なんでしょうね?」
戦いに出る前に教えてくれるって言われたっきり、なにも教えてくれなかったもんね。ケチ。
でも今はまさに戦いに出る直前。さすがにそろそろ教えてくれるはず。
っていうかなんでこんなにギリギリなの。ただでさえ今の私は魔法使いで、武器の類は扱いになれてないのに。
もっと早くに教えてくれて、持たせてくれていたら扱いにも慣れたかもしれないじゃん。はっきり言って自信がないんだけど。
「使えなくても問題ない。とどめをその武器でさしてくれればいいだけだからな」
「いや、そうは言っても普段使ってない武器じゃとどめもさせるかわかんないよ。持つことに慣れたいからはやく渡して」
「……別に、形状はただの剣なのだから問題ないだろう」
「剣が振るえる人の基準で考えないでくれる?」
これだから天才肌は。ノアールのことはよくわからないけど、間違いなく天才肌でしょ。やだやだ、もっと一般人のことを知るべきだよ、天才は! ベル先生も含めてね!
私はひたすら睨んでいたけれど、それを気にしたふうもなくノアールはくるっと後ろを向いてどこかへ向かってしまった。
しばらくして戻ってきたノアールは、手にやたら装飾の美しい剣を持っていた。
「そ、れは……!」
「ベル先生、知ってるの?」
真っ先に反応を示したのはベル先生だった。目を見開いて、なんだかすごく驚いているみたい……?
「聖なる剣だ。勇者ビクターが使っていた」
「え」
それって、いわゆる聖剣ってやつ……?
えええええ!? なんでこんなとこにあるの!?
あ、いや、でも。魔王戦で敗れたビクターの武器を、魔王が持っていてもおかしくはないか。ただ、それをどうしてノアールが持っているの?
「なぜこれを私が持っているのか、という顔だな」
「うっ、読まないでよ」
「ルージュがわかりやすいのだ」
そうなのかもしれないけど、それをノアールに指摘されるとむかつく。
いいから質問に答えてよっ!
「これは魔王の城から盗み出したものだ」
意外とシンプルな答えだった。まぁ、魔王がわざわざ「お前にやろう」みたいに渡すとも思えないし、許可を出すというのも考えにくい。考えてみれば盗む以外に手に入れる方法はないか。
「ループの呪いを断ち切ることを調べた時、聖なる力の宿る武器が必要だとわかった。私の知る限り、それはこれしかない」
なるほどね、だから危険だとわかっていながらわざわざ聖剣なんてものを盗み出したってことか。
聖なる力の宿る武器、と言われたって私も勇者が使っていた聖剣くらいしか思いつかないし、他に知っていたとしてもノアールが最も手っ取り早く手に入れられるのが聖剣だったというのなら、ますます盗む一択だ。
魔王は盗まれたことに気づいているのかな? 気づいていたら動きがありそうだから、まだバレてない?
そんな危険な代物をこれからは私が持ってなきゃいけないってことで……。
早く渡せって思っていたけど、このタイミングでよかったです、前言撤回します。
「聖なる力を最も蓄えたものはそれで間違いないね。ビクターが使用していた剣は何百年もの間、神聖力を注ぎ続けたものだ。保管していた聖教会本部で、教皇様から直接ビクターが賜っていたよ」
何百年もの間……!? すごいな、聖剣。規模が違う。
「ふむ、今もその聖なる力は健在だね。悪しきものを断つ武器としてこれ以上のものはない。確実に呪いが解けるだろう。今すぐ殺してやれないのが残念だな」
「ベル先生……」
本音を隠すこともしないんだから。まー、私も同じ気持ちではあるけれども。
「ふっ、私も殺されるのが楽しみだ」
……冗談、ではないな、これ。ループの呪いから早く解放されたいもんね。
私も、エルファレス家に来る前はそうだった。とにかく楽になりたくて、仕方なかった。
ん、あれ? ちょっと待って。
ノアールとしては、さっさと殺されたほうが今すぐ呪いが解けてちゃんと死ぬこともできてメリットしかないのでは?
私たちには理由がある。ノアールをまだ殺さないのは、この先、この世界で生きる人たちが安心して過ごせるように、確実に魔王の脅威を排除してからにしたいからだ。ノアールの戦力を利用したいだけ。
どのみち死にゆくノアールには、今後の世界のことなんかどうでもいいはず。
それなのに、今すぐ殺してと言わないのは、なんで?
まさか、ノアールも世界の平和を願って……なんて、そんなわけないか。
いや、芽生えた人格のほうはそこそこ常識的だから考えられなくもない?
うーん、それなら自分をここまで苦しめた魔王をこの手で仕留めるまでは、のほうが納得できるかも。うん、きっとこっちだ。
「……同情なんて、しないから」
誰にも聞こえないような小声で、私は自分に言い聞かせるかのようにそう呟いた。




