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ルージュの巻き込まれループ人生〜誰なの!?何度も死に戻ってるのは!〜  作者: 阿井りいあ
2章

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98 やっぱ怒ると怖いよね、この人


 ベル先生にしがみついて泣く私だったけど、そんなことでサイードが納得するわけもなく。


「大勢の仲間は死の危険に晒してもいいというのか!! 信じられない……相変わらず傲慢な男だな、ベルナール!」


 当然、怒り心頭でベル先生に向かって叫び始めた。

 ベル先生は私をギュッと抱き寄せつつ、冷静に言葉を返す。


「サイード。僕は天才だが万能じゃない。そもそも万能な人間なんていやしないんだ。いいかい? 僕は僕の守りたい存在を全力で守る力しかない。そのかわり、決めたら必ず守り抜くことができる」

「他を犠牲にしてまでか!!」

「そうだよ?」


 間髪入れずに答えたベル先生に対し、サイードはもちろん私も思わず息を呑む。


 そういえばサイードは昔、今ノアールに妄信しているようにベル先生を妄信している時期があったんだっけ。

 勇者ビクターと出会ってからはそちらに向かったからその期間は短かったっぽいけど、一時的とはいえベル先生を尊敬し、崇拝していたことがあったはずなんだ。


 きっと助けてくれると信じていた相手がこんなことを言い出したら、妄信していた者は裏切られたと感じるかもしれない。


 これは想像だけど、過去にも似たようなことがあったんじゃないかな。

 ベル先生ってこういうところでハッキリものを言うから、サイードの中の理想像が崩れてしまった何かがあったんじゃないかって気がする。


 その頃からうっすらとベル先生に対して不信感を抱くようになって、魔王討伐に代わりに向かうことになって。

 でも勇者という心の支えができて、その勇者が敗れて。


 ……元々、誰かを崇拝していないと心が保てない人なのだと思う。それがあんな結果をもたらしたら病むのもわかるかもしれないな。

 そしてベル先生を恨む気持ちも、まぁわからなくもない。


 とはいえ、そんなものはサイードの押し付けでしかないわけだけど。同情はするけど、庇う気にはなれないよね。ふーんだ。


 言葉を失ったままのサイードに対して、ベル先生は目を細めて言葉を続けた。


「傲慢なのは君も同じだと思うけどね、サイード・モニエ。なぜ僕に頼る? 君がその他を守ればいいじゃないか」

「っ、力ある者の言葉とは思えないな……?」

「力のない者が、力ある者を頼るのは構わない。だがそれにかまけて頼りきりになるのは違うよ。力がないなら、ないなりに考えてもらいたいね。逃げるにしろ、戦うにしろ、判断は各々で責任を持って下してよ」


 ベル先生だって、別に弱い者を助けないとは言ってない。おんぶに抱っこが当たり前になっては困ると言っているのだ。言い方が、アレなだけで。


 きっとベル先生も頭に血が上っているのだ。煽りは止まらなかった。


「勝手に期待して、勝手に落胆? いいよね、その他大勢の立ち位置っていうのはさぁ。ビクターだって、周囲の者が勇者だと持ち上げて勝手に期待したから、その責務を背負うことになっただけなのに」

「き、貴様ぁっ! 勇者を馬鹿にするようなこと──」

「馬鹿にしているのはお前たちのほうだ。勇者だって一人の人間だというのに、それを考えようともしない。反吐が出るよ」


 ひやりと冷たい空気が漂う。

 これはベル先生の気だけではないだろう。魔力も漏れている。


 サイードの目は、これまでの挑戦的なものからやや怯えたような目へと変化した。


 気づいているだろうベル先生はその漏れ出した魔力を少しずつ増やしながらサイードを追い詰めていく。


「いいかい? 少なくとも、君以外の旅の仲間たちは誰一人として僕を恨んじゃいない。己の力不足を悔やみ、諸悪の根源たる魔王を恨んでいる」


 これまで会いにいけなかった期間、思うところがたくさんあったのだろう。それらを全てぶつけるかのように。


「なぜ僕を恨む。その上でなぜ、いまだに僕を頼ろうとするんだ。なぜ嘆くことしかしない? 己の不甲斐なさを棚に上げて?」

「や、やめ、やめろ……」

「自らの殻に閉じこもり、僕という都合のいい存在を憎み続けることになんの意味がある? 目的を捻じ曲げたってなにも変わらないぞ。誰も君を救ってなんかくれない」

「やめろっ!!」


 頭を抱えて叫んだサイードは、全身震えているようだった。


 たぶん、自覚はあるのだろう。


「僕が頭を地につけて君に謝罪するとでも? 君の態度次第じゃそうしてもよかったよ。だがほとほと呆れたね。人のせいにしてばかりの者に下げる頭なんか、僕は持ち合わせていない」


 ギュッと、ベル先生が私の肩を掴む力が強まった。


「僕は家族を守る父親であって、聖人君子になる気はない。あまり俺を舐めるなよ」


 怒るベル先生は怖かったけど、それ以上に寂しそうに見えた。

 だから私は少しだけ、ベル先生に寄り添うように体を近づけた。


「話は終わったか」


 しばらくの無言が続いた後、最初に沈黙を破ったのは空気の読めないノアールだった。


 まぁ、ノアールからすればベル先生やサイードの事情なんか知ったこっちゃないもんね。

 空気読めないな、とも思うけど、今はさっさと話題を変えてもらって助かった気もする。


 感謝なんてものはしてやらないけど。


「決行は五日後。こちらのチームがイフリートに戦いを挑む。そのタイミングでノアール、君はまずケンタウロスを倒しに行ってもらう予定だったね。その後は順に氷狼人、ラミアを倒してもらう。この二人の魔族のことは、うちの別チームが他と合流しないよう見張る手筈だ」

「同時に、魔王に挑む者たちは魔王の下に行くのだな?」

「そうだ。僕とルージュもね」

「……え?」


 ちょっと待って。さっきはベル先生と私はノアールの足止めに行く、って言ってたよね?

 だから私はてっきり、魔王と会うことはないと思っていたんだけど……。


「まさか、四天王だけでなく魔王も同時に叩くつもり!?」

「僕とルージュの魔法は特殊だから、時間稼ぎができるだろう? 他に気を取られていたほうが彼の自我も奪われにくいんじゃないかと思ってね。だからノアール。さっさと四天王の三体を倒してくれ。他の見張りチームが魔王戦に素早く援軍として駆けつけられるように」


 魔王の足止め……それは盲点だった。

 てっきり、全戦力が揃ってから魔王に挑むのかと思っていたから。


 でも、足止めも相当キツイよね。途中でノアールの裏切りがバレたらすぐに彼の支配が及ぶだろう。


 バレないようにコソコソしようが、足止めで先に魔王を叩こうが、いずれバレるのはきっと変わらない、か。


 それなら、他のことなんて考えられないほど魔王を攻撃し続ける必要がある、ってことなのでは。うわぁ……。


「承知した。だが、私はいつ自我を失うか……」

「おや、泣き言かい? ギリギリまで粘ってくれよ」


 はぁ、これは私も腹を括るしかなさそう。

 でもすっごく疲れそう。足止めの後に控えているのは暗黒騎士戦でしょ?


 久しぶりにベル先生のスパルタみを実感したなぁ。

 ええい! やってやるぅ!!


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