92 大丈夫、ちゃんと準備してきたから
悲観的になりすぎるのは、よくない。
「ぷわ、冷たぁっ!」
「やっぱ川の水はいいよな! 魔法で出した水よりさっぱりする気がする!」
依頼の報告も終えた私とジュンは、その後にまた森に戻って軽く訓練をした後に川で顔を洗っていた。
魔法でも冷たい水を出すことはできるし、量も自由自在ではあるんだけど……やっぱりジュンの言うように川で顔を洗うのはまた格別な感じがする。
なんというか、自然のエネルギーを感じるというか。元気を分けてもらえる気がするっていうか。
「そういや、エルファレスの息子たちの成人祝いが終わってからひと月後だっけ? 四天王討伐に向かうのってさ」
「……うん」
「なんだよ、沈んだ声出して。だーいじょうぶだよ! 絶対に負けないメンバーなんだからさ。あのクソ暗黒騎士も加わるんだろ?」
「そう、だよね」
せっかく元気がもらえたというのに、ここ最近は特に出陣が間近に迫ってきているからかどうしてもこの話題になってその度に落ち込んでしまう。
あー、ダメダメ! お別れにはなるけど、戦いさえ終われば戻ってこられるんだから!
これは未来を掴むための戦いでもあるんだから、落ち込んでる暇なんてないんだよ! わかってる!
それに、私はこの五年間で幸せな時間をたくさん過ごさせてもらった。これでいつお別れをしても、精神は安定していられるだろうっていうくらいね。
魔王討伐のための協力体制も整ってきたし、四天王をどう倒していくかも細かく計画をたてた。
時にノアールと手紙のやり取りもしながらね。サイードの魔法のせいで居場所の特定はできなかったみたいだけど。
魔塔のみんなはもちろん、ベル先生も彼らを見つけることができなくて悔しがってたなぁ。
隠蔽系の魔法に特化しているサイードだから解析できなくても仕方ないのに、弟子にしてやられるのはムカつくとかで。
結局、ノアールサイドの情報はほとんど得られなかったけど、準備だけは万端だと思う。
私だけでなくみんなも力を十分につけて、それぞれがレベルアップした。これまでの人生で見てきた中で一番、戦力が高いんじゃないかな。
特にリビオの成長なんか目を瞠るものがあった。ひょっとすると暴走状態のノアール相手にもしばらくは戦えるんじゃないかってほど。
以前は絶対に無理! 瞬殺される! としか思わなかったけど、今のリビオは違うってわかる。
本当に強いんだよ。ギルド長のバンさんも冷や汗を流していたっけ。
それからオリドもすごいんだ。国軍の参謀補佐の座にまで上り詰めちゃったんだもん。もうすぐ成人とはいえまだ子どもなのにだよ?
本当にすごいよ、おかげでノアールたちとの協力体制に不測の事態が起きてもすぐに対処できるって信じられる。
魔塔の魔法使いたちもそれぞれの得意分野をさらに伸ばしてきたし、なんとベル先生も厳しい訓練を欠かさなかった。
元々世界一の魔法使いだったベル先生が、さらに強くなっちゃってさ。ノアールには確実に勝てるって感じがする。今のノアールがどの程度強いのかわかんないけど。
それからドゥニの研究もかなり進んだおかげで、私はとても便利な魔道具を手に入れた。
腕に着けた金色のブレスレットを眺めながらついにやっと笑ってしまう。これは私の秘密兵器だ。
なんでもこの魔道具は、私の魔力が増えすぎてパーン! ってなるのを防ぐために、魔力を減らす魔法陣を作ってもらったあの時からドゥニが考えていたんだって。
有能……変態だけど。ただ魔道具を作った理由を聞いた時にはちょっと力が抜けた。
『せっかくある資源をみすみす捨てるしかないなんてもったいなさすぎる!!』
まぁ、たしかにね? 保存しておけるならそれに越したことはないよね。でも人の魔力を資源扱いって。いいけどさ。
だから改良に改良を重ね、ついに私の削った魔力を溜めて自在に補給できる魔法陣を作ることに成功したのだ。
それを魔道具に組み込むことで持ち運び可能になり、戦闘中魔力が足りなくなった時にすぐ回復できるようになったわけ。やっぱり天才なんだね、ドゥニって。
でも、開発できたのは私が未来の知識をドゥニに教えてあげたからだし、被験体として協力したからだってことも忘れないでもらいたい。感謝してよねっ!
で、この魔道具。私専用の魔力保存容器って感じだから気にせず大きな魔法をバンバン使えちゃう。
もともと滅多に尽きない魔力量なのでほぼ使うことはないとは思うんだけど……魔王討伐の時にはきっと使うことになるだろうから。
その前の四天王戦では温存したいけど、その辺りはわからない。
いくら私は戦わないことになっているといっても、作戦通り四天王を個別撃破できるとも限らないし。
「ボクはさ、こんな大きな戦いに自分が参戦することになるとは思ってなかったんだよね。ただ強い相手と戦って勝ちたいって、それだけしか思ってなくてさ」
唐突に、ジュンがタオルで顔を拭いながらそんなことを言い出した。
「ルージュと関わるようになってから、どんどん話が大きくなっていってさ。正直、最初はついていけなくて戸惑ってばっかだったよ」
「ご、ごめん」
「謝んなって。最初は、つっただろ!」
結局、私はいろんな人を巻き込むことになっちゃったもんね……。ジュンとクローディーなんか、一番の被害者な気がするよ。私と魔力の質が合うばっかりに。
でもジュンはものすごい笑顔でくしゃくしゃと私の頭を撫でながら話を続けた。
「今は、世界の命運を決めるこの作戦に入れてもらえて嬉しいんだ。なんもできないまま全てが終わるなんて絶対に嫌だし。しかもこれまでルージュが繰り返してきた人生では、敗色濃厚だったんだろ? 余計に嫌だ!」
「う、うん。そうだね」
「ボクは強いヤツと戦って、『勝つのが』好きなんだ! だからさ、勝とうな!」
……そうだよね。うん、ジュンはそういう子だった。
ちなみに、私も自分の知らないところで知らない内に世界が終わりを迎えそうだとわかったら、ものすごく悔しいと思う。私には何もできることがなかったのかって、もっとあーすればよかったとかたくさん考えるだろう。
ジュンも同じってことだよね。それで、今回はしっかりとその準備ができたわけだ。
「うん。勝とう。それでお祝いパーティーしよう」
「おっ、いいな」
「その勢いで告白しちゃえばいいじゃん、ドゥニに」
「なっ!? なななななに言ってんだよ馬鹿! なに言ってんだよ! 馬鹿!!」
今なら勢いで「うん」って言ってくれると思ったのにな。残念。
普段は男っぽいジュンが乙女になるとこ、好きなんだよね。相手がドゥニってところが心配すぎるんだけど、恋しちゃってるんだから仕方ないね。せめてうまくいってほしいと思っちゃうよ。
「……でも、まぁ。考えとく」
「ふふっ。うん」
意外と素直なジュンも好きだよ!
なんだかフラグみたいなやり取りになっちゃったけど。
全て叶えてやるんだから。絶対に。




