84 ほんと、みんな頼もしいよ
まず、目下の目標は魔塔のみんなに暗黒騎士との協力を納得してもらうことだ。
これまでのことがあるし、暗黒騎士に大事な人を傷つけられた人も多いから説得は難航しそう。
でもこれなら私も協力できる。
ただ、混乱を招くし、みんながみんな信じてくれるわけじゃないだろうから、ここで話したことほど詳しくは説明できないけど。
というわけで、ある程度は嘘を織り交ぜて説得しようということになった。
暗黒騎士は魔王によって呪いをかけられており、本来は争う気はないのだということ。
むしろ呪いを解くために魔王を倒したいと思っているらしいということ。
共通の敵である魔王を倒すための協力であって、その後は暗黒騎士を恨むも呪うも自由にしていいということ。
ほぼ嘘はない。別の人格があるという部分を伏せているだけだ。
争う気は……あるかもしれないのでそこだけちょっぴり嘘。少なくともノアールの自我が保てている間で、かつ魔王を倒すまでの間はこちらと争う気がないのはたしかだから問題ないだろう。
説得内容は概ねこんな感じ。ただこれだけだと理由として弱いので、当然ながら利点を伝える必要がある。
ただし、プライドが高い人ほど首を縦に振りたがらない内容だ。
大きな利点、それは暗黒騎士が最も頼りになる戦力だ、という点である。
敵となると恐怖の権化でしかない暗黒騎士だけど、魔物や四天王をなぎ倒せるというのなら話は違う。
味方であれば頼もしい、ってやつだね。ただあいつを味方だと認めたくない気持ちを抱える人が多いってのが問題なだけで。
私たちだっていまだに納得していない部分があるんだもん。人類の敵だった人を味方に、なんてなかなかねー。わかるわかる。
その点を共感しつつ、地道に宥めていくのがしばらくの間の私の仕事ってわけ。骨が折れそう。
同時進行で、私はようやく家族にも打ち明けることができた。ベル先生経由でだけどね。
「ルージュ、よく打ち明けてくれたわね」
「うぅ、ぐすっ、そんな酷い目に、うっ、遭ってたなんて……」
「知らなかった……それなのに、真っ直ぐでいい子なんだね、ルージュは」
ママは目を潤ませながら抱き締めてくれて、リビオは……なんかずっと泣いてる。
オリドは特に心を痛めたみたいだったけど、なんだか私を尊敬の眼差しで見てくる。
オリドって感受性が豊かというか、一を聞いて十を知るみたいなところがあるから、私の体験を深く理解しようとしてくれたんだと思う。
だからこそ自分には耐えられないだろうから、と私をすごいと認識したみたい。
そうならざるを得ない状況に置かれたら、オリドだって強くいられると思うけどな。
私だって別に耐えられたわけじゃないし。
何度も心が折れたし生きる気力をなくしたし、その、自死を選択したこともあるし。
「僕にできることがあったら何でも言って。こんなの……これまでとなにも変わらないけど」
そっと私の手を取って申し訳なさそうにオリドは言うけど。
「ううん、ありがとう。これまでと変わらないって、私にはすごく嬉しいことだよ」
「! そ、そっか。うん。じゃあこれまで通り、たくさん甘やかすから。僕はルージュのお兄ちゃんだからね」
「うん。たくさん甘えるね、オリドお兄ちゃん」
えへへ、とはにかんで笑い合う私たち。オリドは成長してもずっと素直で優しい心の持ち主だ。
……えげつない戦術を使ったり根回しをしたりする、という噂を耳に挟んだことはあるけど。
「ルージュ」
そんな時、いつもなら俺も俺も! と間に入って来るリビオが静かな声で私を呼んだ。
どことなく神妙な雰囲気だ。泣いた後だからかな? でも珍しいよね。
私のほうから歩み寄ると、リビオは少しだけ目を泳がせてから口を開いた。
「前に言ったじゃん? 俺、ルージュを見てると一人にしたらダメだって気になるって」
「うん、言ったね」
「あれってさ、もしかして。これまでのループ人生であったことを、どこかで覚えていたからなのかな……?」
あ、そうか。やっぱり気づくよね。
リビオが覚えていてくれたことについては、私にとっても信じられないことだった。
言いにくそうにしているのは、リビオも半信半疑なのかもしれない。
「あ、変なこと言ってるって自分でも思うんだけど、でも」
「うん、私もそんな気がするよ。だからリビオがその話をしてくれた時、驚いたもん。ほら、あの時私、泣いちゃったじゃん」
慌てたように話すのを遮るように私も言うと、リビオは目を丸くして納得したように頷いた。
「あぁ、そういえばそうだったよな」
「実はさ、リビオには前にもこうして打ち明けたことがあるんだよ」
「え、マジで?」
「うん。その時に言ってくれたんだ。何度ループを繰り返しても、心のどこかで覚えてるよって。だから、リビオは本当に言ったことを守ってくれたんだなって思った」
今でもあの時の衝撃を思い出して涙が出そうになる。
そこまで私のことを思っていてくれたことが、本当に嬉しくて。それなのに気づくのがこんなにも遅くなっちゃったことが申し訳なくて。
「覚えていてくれて、ありがとう」
──ああ、やっと言えた。
一番は、お礼を伝えられなかったことが悲しかったからだ。
……あれ? リビオが小刻みに震えている。私そんなに変なこと言ったかな? あ、もしかして覚えてもいないことでお礼なんか言われてもって困っていたり?
けどそんな疑問が吹き飛ぶ勢いでリビオはガバッと顔を上げると、もう何度目になるかわからないあの言葉を口にした。
「~~~っ! やっぱり俺、ルージュと結婚する!!」
「それはちょっと」
「諦めないぞ!!」
またプロポーズである。結局その意志は変わらないんだ?
でもリビオって私を一人にしないために結婚しようとしてるだけだよね? 恋愛感情なんてないのにそこはいいの? あ、貴族は政略結婚が当たり前みたいなそういう感覚?
ま、悪い気はしないけどね。大人になってもその気持ちが変わってなければ、少しくらいは考えてあげるよ。……大人になれたら、ね。
「それと、もう二度とループしなくて済むように、呪いを解くのに協力する! 冒険者たちの説得は任せてくれよ。絶対に賛同してもらうからさ」
まさしくそんなことを考えていた時に、リビオもまるで返事をするかのようなことを言ってくれた。
偶然だけど、まるで脳内を見透かされたみたいで少しだけ悔しい。でも、まぁ。
「うん、頼りにしてるよ」
「おう、任せろ!」
実際、めちゃくちゃ頼もしいよ。私も頑張らないとね!




