79 最後まで腹の立つやつ!
それにしても、随分時間がかかったよね。作る前はそんなの簡単みたいな雰囲気だったくせに。
「その魔道具は手首でも足首でも好きなほうに身につけろ。見つかっても構わん」
「え、だからそれは……」
「どのみちお前がこちらのことを話せないことがわかれば訝しむだろうという結論からだ」
確かに。フクロウ仮面のくせにいいところに気が付くじゃないか。
実際、ちょっと考えれば想像のつくことではある。
これまで暗黒騎士の下にいた私が頑なに話そうとしなければ、過保護な家族は呪いをかけられているのかと調べるだろうし、覚えてないといえば記憶を消されたのかと調べるだろう。
……というか、なにもなくても健康診断と称して隈なく調べられる運命からは逃れられない気がしてきた。
何も言わずに魔道具に気づかれるより、自分から見せておいたほうが拗れないかもね、うん。なんで黙ってたのって泣かれても困る。
「魔塔の人たちに外されるかもよ?」
問題はそこだ。私としては魔道具が外されようが別に構わない。むしろ鬱陶しいものがなくなって清々するくらいだ。
一応約束は守って時が来たらノアールたちの下に戻るつもりでいるし。……こいつらの情報は漏らすかもしれないけど。
この魔道具は、ノアールやフクロウ仮面の保険でしかないのだ。
「ふん。なんのために時間をかけて作成したと思ってる。無理に外せばお前が死ぬように作った」
「聞いてないんだけど?」
物騒! 自分から外す気はないし、たとえ死んでもループするだけではあるけどさぁ!
でももしループしたらノアールにとっても迷惑じゃん!
と、抗議してはみたけれど。
「実際には仮死状態になって強制転移するだけだ。死ぬと言っておけば無理に解除しようとしないだろう。そんなことにも思いつかないのか、馬鹿め」
こいつ……! いちいち罵倒しなきゃ気が済まないの?
まぁ落ち着こうじゃないの。ここで騒いだら余計に調子にのるだけだ。この程度の挑発には乗らないんだからね。ふん。
「魔塔の魔法使いはみんな優秀なんだよ? 死の危険があればますます解除しようとするかも」
「はっ、できるわけがない。その魔道具を見た瞬間、俺の実力を思い知って解除を諦める」
「ずいぶんな自信じゃない。絶対なんて言いきれないのに」
「ふん、面倒臭い。見せればわかる」
そう言うとフクロウ仮面は鼻で笑うようにして見下してきた。い、嫌な感じーっ!
魔塔のみんなを馬鹿にされたみたいでむかつくーっ! きーっ!
何が腹立つかって、本当に解除できないんだろうなという予感がするところだ。
それほど、この手の魔法には自信があるんだろうなってわかる。悔しいけど。絶対に言ってやらないけど!
手首……は邪魔だしいちいち目につくのも嫌なので足首につけることにする。
つけた瞬間、ぶわりとフクロウ仮面の魔力が全身に広がったのがわかって、色んな意味で鳥肌が立った。なんかすっごい屈辱的っ!
「そんなことよりっ! 魔道具ができたんだからもう家に帰れるんだよね? 今から帰っていいんだよね!?」
「急だな」
「急じゃないよ。こっちはいつでも帰れる準備はできてる。話し合いだってたくさんしたでしょ? 別れを惜しむ間柄でもないんだし、明日の朝に、だなんてのんびり待ってられない」
向こうからこちらに戻る時は期限ギリギリまで粘るだろうけどね。当然でしょ? 家族との別れは惜しむに決まってる。
あんな風に離れてしまったんだもん。一刻も早くみんなに会いたい。
「わかった。では最終確認だ」
ノアールも過保護な親みたいなことを言うよね。見た目と違って私は子どもじゃないんだから、おつかいの最終確認みたいなことを言い出すのはやめてほしい。
まぁいい。ここで延々と説明が始まられても困る。私は自分から言うことにした。
「はいはい。期限は五年。その前に私がこの場所に戻るその旨を誰かに明かした場合、強制的にここに転移する。その他、ノアールやフクロウ仮面の居場所、不利益になるようなことを言っても同じね。……ねぇフクロウ仮面。悪口は含まれる?」
「……含まれない」
「よし。思いっきり悪口を言ってやるんだから」
色々とストレスが溜まってるんだもん。このくらいはいいでしょ!
私が腕を組んで鼻を鳴らしていると、フクロウ仮面が呆れたように目を細めてこちらを見てきた。
「こんな調子でやることがこなせるのか……」
「できますー。子どもの姿だからって舐めないでよね。フクロウ仮面よりもずっと長く生きてるんだから」
「ループしてるだけだろう」
「ふーん? それ、ノアールにも言えるわけ?」
「ノアール様とお前みたいなチビを一緒にするな。烏滸がましい」
「ただの差別じゃん。説得力ありませーん」
バチバチと火花を散らす私たち。
ここ最近は引きこもりっぱなしだった癖に、癇に障る口は達者なんだから。ふんっだ!
「魔王討伐に向けて始動するんだもん。私だってことの重大さはわかってる。最低限、進軍や四天王の討伐のタイミングを合わせたい、でしょ。大丈夫、協力体制が取れるようにうまく話しをつけてあげるから」
できれば互いに連絡を取り合えるくらいにはしておきたい。
ノアールたちとは敵だけど、まずは共通の敵である魔王を倒すための共同戦線なんだから。
本当はまだ信じ切れていないところはある。
でも、ノアールに魔王を倒す理由があるのと、私を害する気がないことはこの数カ月でよくわかった。
その辺りを力説して、ベル先生たちのことも説得するしかない。
ムカつくヤツでも、許せない相手でも、力を合わせないと魔王には勝てないんだから。
「次に会う時は、戦争を仕掛ける時だ」
「そうだね。四天王を先に一人は倒しておくんだっけ?」
「ああ。二人以上に仕掛けると何か勘付かれるかもしれないが、一人なら私が四天王の一人になると言えば疑問に思われまい」
「意外とちゃんと考えているんだね」
最終確認に納得したのか、ノアールは一つ頷くとフクロウ仮面に手を軽く振って指示を出す。
フクロウ仮面も了承したように頷くと、すぐに転移陣を準備し始めた。
事前に用意してくれていたみたい。ま、当然だよね。そういう約束だったし。
あ、魔力は自分で流せって? 別にいいけど……フクロウ仮面に顎で指示されるのにはカチンとくる。ったく、最後の最後まで腹の立つヤツ!
「あ、そういえば。これまでのループはノアールが死ぬ度に起きていたんだよね? 誰かにやられたの? それとも自分で?」
「大半は自害している」
「ふぅん……ねぇ、それってあと一年とか遅らせられないの? そのせいで私、これまでで一度も大人になれないんだけど」
転移陣に魔力を流すのは慣れたものなので、話をしながら流していく。
ちょっとした愚痴みたいなものだ。あと、今になってふと気になって。
……いや、そうだよ。気になるよ。
そもそもどうして自害してまでこんなに短い周期でループする必要があるわけ?
「時期が悪い。それ以上遅らせられない。今回も、計画がうまくいかなければ同じ時期にループする」
「え、時期……?」
ふわりと転移陣が起動する。しまった、魔力を流すのが上手なせいで、最後まで詳しく聞けそうにない。
あーっ、あれだけ暇な時間があったんだから、もっと前に聞いておけばよかったーっ!
あるよね、あとになってあれこれ思い出すことって!
……まぁ、いいや。時期に何か問題があるというのなら、帰ってから調べてみよう。
家には、心強い先生が待っているのだから。




