78 首輪なんて絶対に嫌だからね
ここでギャーギャー騒いでも体力を無駄にするだけだと早々に判断した私は、ムスッとしながら二人の会話を聞いていた。
「いくつかの制限と、期限がきたら我らの下に転移する呪い、ですか」
「できるのなら呪いでなくても構わない」
「それなら魔道具のほうがいいですね。奴隷に使用している口封じの首輪でもつけておけばいいでしょう」
ちょっと聞き捨てならないんですけど? 私を奴隷にするつもり?
ぎろっと睨んでみるも二人は完全にスルーだ。どうせ迫力なんてないですよ。でも奴隷の首輪をつけられちゃたまらないのでさすがに口を挟む。
「私にそんな首輪がついてたら、ベル先生が余計に怒るし協力なんてしてもらえないよ。そもそも、その程度の魔道具なら解除しちゃうよ。魔塔にはプロがたくさんいるんだもん」
「……一理ある。ちっ、忌々しいな、ベルナール・エルファレス」
フクロウ仮面は憎々しげにベル先生のフルネームを口にしている。
なに、そんなに嫌いなの? なんか因縁でもあるのだろうか。それとも同じ魔法使いとしての嫉妬?
いずれにせよ、ベル先生を嫌っているのは伝わる。それだけで、フクロウ仮面が魔塔に所属していない理由がわかる気がした。
……帰ったらフクロウ仮面のこと、ベル先生に聞いてみよう。
「だが、俺を侮るな。誰にも見つからない魔道具を仕込むことくらいできる」
フクロウ仮面が腕を組みながら鼻を鳴らしてそんなことを言う。きっと強がりなどではないのだろう。できそうなのが腹立たしい。
ただ、できるからといって私が素直に受け入れるかどうかは話が別だ。
「ちゃんと一人で戻って来るのを約束するために、ある程度の制限をつけるとか転移されるのはわかった。でも首輪は嫌」
どうしても奴隷が浮かんでしまうからね……。長い長いループ人生の中で奴隷になったことはない。富豪にはなったけど。
何があるわからない人生と言えど、超えたくない一線はある。
そもそもこの国で首輪をつけなきゃいけないほどの奴隷なんて犯罪者しかいないんだから。私、いい子だもん。
「この場所を明かさない、こちらに不利な情報は出さない。それからルージュがまた一人でこちらに戻ってくる、ということも言わない制限ならどうだ」
「……ねぇ、一人で戻ることはちゃんと伝えたいんだけど。どのみち心配させるにしても、自分の意思だってことや居場所がわかっているかどうかは大きいもん」
「それでは対策を打たれるではないか」
確かにこの場所がばれたらベル先生率いる魔法使い軍団が押し寄せてくるかもしれないけど……せめてノアールたちのもとに行くってことくらいは伝えておきたいって話!
しかしそんな私の主張を聞いているのか聞いていないのか、二人の会話は続いた。
一瞬だけノアールが私のほうに顔を向けたから、たぶん聞いてはいるんだろう。
聞き入れてくれるかはわかんない。いざとなったら床に寝転がってジタバタと暴れながら抗議してやろうか……。
「転移の発動条件を二つにするのはいかがですか、ノアール様。こいつがこの場所に戻って来ることを明かした数秒後に転移する魔道具にしましょう。明かさずとも、期限が来れば自動的に転移します」
「……わかった。それでいい」
どうやら方針が決まったらしい。
結局私は魔道具を身につけるってわけね? 首輪はいやだからね?
フクロウ仮面が反応するまでひたすら言い続けると、ついに観念したのか「わかったよっ!」と吐き捨てるように叫ばれた。
ふん、最初から反応してくれてたらここまで鬱陶しく絡まなかったよ、私だって!
「誰かに魔道具が見つかるのも面倒だからな。目立たない場所に身につけるようなものを作るだろう。安心しろ」
「それならいいけど……安心はできないよ。だって私たちの間に信頼関係なんてまったくないんだから」
「それもそうだな」
そもそも、時間をかけてそんな魔道具を作るくらい私に対する信用だってないんでしょ。
危害を加えられていないから忘れがちだけど、そもそも私は攫われたようなものなわけだし、自由に発言が許されているだけでもマシなのかもしれない。
結局、フクロウ仮面が魔道具を完成させるまでの間はここに留まることになってしまった。
あーあ、はやく帰りたいのにな。いつになることやら……。
◇
魔道具作成のためにフクロウ仮面が部屋に籠るようになって早数カ月。
ここでの生活にだいぶ慣れてしまった私は、毎日暇つぶしのようにノアールと会話する日々を送っていた。
別にお喋りを楽しみたいわけじゃない。他にやることがなくて退屈なだけだ。
魔法の練習や体力づくりだけで一日を終えていたら心が病みそうだったからね……。
たとえ敵でも話し相手がいたほうが精神的に助かるだけなのだ。
さて、本日の話題は魔王たちの倒し方について。
共通の話題なんてしれてるから、結果的に戦いに関することになっちゃう。
「さすがに四天王全てを私が倒すのは骨が折れる。同時に別の場所に現れれば、私にも対処できないしな」
「一対一なら?」
「負ける気はしない」
「ふぅん。四天王の情報も教えて」
「わかった」
意外と大事な話し合いにもなっているから一石二鳥だ。
魔王を倒すにあたって無視できないのは魔物や魔族の軍勢だ。
その中でも特に実力のある四天王は必ず立ち塞がってくる可能性が高いとのこと。
正直、魔王さえ倒してしまえば四天王を倒す必要はないんだけどね。
トップが消えれば魔族も魔物も弱体化するから。
要は、魔王討伐後に四天王と戦ったほうが楽に倒せるというわけ。
そうはいっても、それなりに戦える実力者じゃなきゃ弱体化した四天王も倒せないだろうけどね……。
聞けば聞くほどえぐいわ、その強さ。ノアール自身も大概だけど、こんなのがあと四人もいるってことでしょ? よく今まで人間の世界が無事だったねと思ってしまう。
いや、無事って言っていいのかはわかんないか……。
私が住んでいる王都の近くが比較的安全なだけで、地方は酷い有様なわけだし。今もなお食い止めている人がいるのだと思うと心がざわつく。
その中には、四天王が支配している地域もあるのだとか。
平和な場所でのほほんと暮らしていたのが心苦しく思えてしまうよ。この平和が当たり前であるべきなのに。
「そちらにも実力者はいるのだろう。勝てぬ相手ではない」
「そうだろうけど、実力者の力は魔王戦のために温存したいんでしょ? なら、泣き言なんて言ってないでノアールができる限り倒してよ、四天王」
「その通りなのだろうが……なかなか厳しいことを言う」
厳しかろうがやらなきゃいけないんだよ。そういう話でしょ?
私だって、もっと強くなって戦いに参加しなきゃならないんだから。魔王戦にだけ集中したい。というか余力なんてない。
会話をしながらノアールを睨みつけていた時だ。
ようやく引きこもりが私たちの前に姿を現した。
「魔道具が完成した」
手には細いブレスレットのような黒い輪っかが乗せられている。
私はその魔道具の完成よりもなによりも、ようやく家に帰れるのだということで胸が高鳴った。




