60 めちゃくちゃ動揺するじゃん、初心じゃん
魔塔に向かう道すがら、私はベル先生に質問されるがまま過去について話していた。
結構、深いことまで話した気がするな……。
何度も同じ人生を送ったことで私の心が疲弊しきっていることをベル先生はしきりに心配してくれた。
今はもう、そこまで苦しいことはないんだけどな。
慣れ切っちゃって、そういう部分が麻痺しているのかもしれない。
それに、エルファレス家の居心地がいいからね。
ゆっくりと心は癒せているよ、ありがとう。
「そうだ、どの人生でもリビオに会ってるって話は聞いていたけれど。女剣士時代も会ったことがあるんだよね? むしろそこがルージュにとっては初対面になるのかな」
「え」
言われた言葉に思わず足を止める。
いや、驚いたわけじゃなくて……考えてみればそうだなって改めて思ったというか。
「リビオは、どの人生でも冒険者になって魔王討伐の軍に参加していたから……会ってるはず」
「覚えていないの?」
「うん。なんでだろう。たぶん、会ってはいるはずなんだけど」
間違いなく、女剣士時代もリビオは冒険者としてともに戦っていたはずだ。
大人数だったから会っていても覚えていないだけかな。すれ違ってさえいない可能性もあるけど……。
いや。あれだけの実力があって、明るくカリスマ性もあるリビオに私が気づかないわけがない。
当時は私もそれなりに名が知れ渡っていた気がするし、リビオもまた私を知っていた可能性は高いのに。
どうしてかな。全然思い出せないや。
「当時のルージュは正義感が強かったって言っていたね。きっとリビオとは意見が合ったはずだ。もしかするとリビオのプロポーズはその頃が最初なのかもね」
女剣士時代に、リビオからプロポーズ?
しっくりこない。それよりもむしろ……。
『お前さ、どうしてそんな死に急ぐの? そういうの、俺すげー嫌い』
ふと、大人になったリビオの嫌そうな顔と声が脳裏に蘇る。
これは記憶?
私はあの頃、リビオからあんなに怖い顔を向けられていたんだ。
「……あの時は、私リビオに嫌われていたかも」
「えぇっ!?」
「私のやり方に不満があったというか、意見が合わなくて……ハッキリ言われたの。そういうの嫌いって」
「あのリビオが!?」
「うん、あのリビオが」
それがどうして今では求婚が挨拶みたいなことになっているのかは私にもわからない。
嫌われていた当時のことも、今思い出したこと以外には覚えてないからなぁ。
女剣士時代、初めての死を経験したあの人生が辛すぎて忘れているのかもね。
「リビオが私を好きになってくれたのは、きっと私が女剣士じゃなくなったからだよ」
「可能性はあるけど……それだけで気持ちが変わるかな? これはリビオの父親としての意見だけれど、彼はルージュが女剣士だった頃からずっと好きだったと思うな」
「えー? それはないんじゃない?」
「男ってのは若いうちほど素直になれないもんさ」
「……ベル先生は昔から真っ直ぐなイメージある」
「よくわかるね! 僕はずっと想いは伝えるタイプだよ!」
私じゃなくてもわかると思うよ、ベル先生。
でもますます不思議だな。リビオって性格がベル先生に似ているところがあるから、素直になれないとかそういうのはなさそうに思うんだけど。
まぁ、似ているってだけで同じ人物じゃないしね。
過ぎたことだし、今となっては確かめようもない。
その後、ベル先生からママとの惚気話を聞かされ、私は砂糖を吐きながら魔塔へと向かった。
もう、わかったってば、ママへの愛は!!
◇
数日後、今日は屋敷でのんびりする日。
とはいっても自習や自主練習はするんだけどね。
リビオも今日は訓練場で基礎練習をするというので仲間に入れてもらい、一緒に身体を動かすことに。
当然、十歳の私は十三歳になって身体も大きくなってきたリビオについていくことはできないけど、隣ですごく強い人の動きを見られるのは勉強になるからね。
あ、そうだ。せっかくリビオと二人きりになったんだから柔軟している間に聞いてみようかな。
「ね、リビオ。聞きたいことがあるんだけど」
「お、なになに? なんでも聞いてよ」
「あのさ、リビオはどうして私と結婚したいの?」
「え!? 結婚したくなった!?」
「そうじゃなくて。理由を聞いてるの」
この話題を出せばそんな反応をするとわかってはいたけど、冷静に話しの流れを軌道に戻す。
やれやれ、すぐ結婚したがるんだから。
けど、質問には真剣に答えようとしてくれるのがリビオのいいところだね。きょとんとしているけど。
「理由って……そんなの、ルージュとずっと一緒にいたいからに決まってるじゃん!!」
「ふぅん。リビオは私が好きなの?」
「好きだよ! 当たり前だろ!」
「それは、キスしたいって思うような好き?」
私がそう聞いた途端、リビオがボッと顔を真っ赤にして動揺しはじめた。
……え、キスって単語だけでそこまで慌てる?
むしろその照れぶりにこっちが恥ずかしくなるんだけど。
「キ、キキキキキスぅ!? あ、いや、でも、そっか。結婚するってことはそうだよな。父さんと母さんだって毎日キスするし……」
なんだ、この初心な反応。
あー、でも十三歳といえば微妙で繊細なお年頃だし、こんな質問してしまった私が悪かったね。ごめん。
別に無理に答えなくていいよ、と言ってはみたけど全然聞いてない様子。
恥ずかしがりながらも一生懸命答えようとしてくれるのが本当にいいやつだ。
ここは大人しく待っていようと思って黙っていると、リビオは顔を赤くしたまま頬を掻きつつ話し始めてくれた。
「あー。俺さ、よくわかんないんだけど。ルージュを見てるとさ、『この子を一人にしたらダメだ!』ってすげー焦っちゃうの」
「焦る?」
「うん。ルージュは寂しがりだから、絶対に一人にしちゃダメだって」
「私が寂しがりだなんて、どこからの情報なのそれ」
実際そういう部分はあるのかもしれないけど、それはどんな人だって同じじゃない?
それに私は結構どの人生でも人には恵まれているから、そこまで寂しがりじゃないと思うんだけどなぁ。
「わっかんねーけど! でも絶対にそうだって確信がある!!」
「私のことなのにどうしてリビオが自信満々に答えるの」
「それもわかんない。とにかくさ、俺はルージュに寂しい思いを絶対にさせたくないなって思うんだよ。結婚したら一生側にいられるだろ? だから俺はルージュと結婚したいんだ」
なんだ、それ。
つまり、リビオは別に私に恋をしているわけじゃないってことか。
好意はあるんだろうけど、それはただの「好き」であって恋じゃなく、限りなく家族愛に近いもの。
そうじゃないかと察してはいたけどね。
リビオの求婚はどこか子どもっぽいというか、そんな感覚があったから。
何度かのループで毎回求婚してきた時だって、私を恋愛対象に見ているような気はしていなかった。
まぁ、多少はそんな気持ちもあったのかもしれないけど……そう。今のリビオが言うように、純粋に私と一緒にいたいと思ってくれているだけ、というか。
不思議なのは、リビオがどうしてそこまで私のことを思ってくれるのかってことだよ。
焦りを感じるってことは、これまでのループ人生で何か影響を与えるようなことがあった……?
「あ」
「うん?」
そうだ。思い当たることが一つある。
私はかなり前に、一度だけリビオにループについて打ち明けたことがあったんだった。
心配そうに顔を覗き込むリビオに目を向けながら、私は当時のことを思い出した。




