46 わかる、天才ってムカつくよね
寝坊したベル先生に合わせて、家族みんなで少し遅めの朝食タイム。
ママやオリド、リビオもまだ待っていてくれたようで、全員揃って食卓を囲むことができた。
私が一人で下りてきていたら、先に食べていたところだったとか。
ベル先生が丸一日でも寝てしまうことを知っている家族なら当然だね。
「まさか起きてくるとは思わなかったわ。いつもはどれだけ起こしても微動だにしないの。ルージュ、一体どんな魔法を使ったの?」
「カミーユ、それは愛だよ。娘の愛でパパは目覚め……」
「まだ魔力測定してないって呟いたら、起きた」
「ちょっとルージュ。せっかくのロマンチックな物語が」
「嘘は良くないもん」
それに、私の愛で目覚めるなら最愛の妻の愛で目覚めないってのはどういうことだ。
ママもベル先生も、冗談だとわかっているからクスクス笑っているけどね。はぁ、平和。
「それで、測定はしたの?」
「うん、寝ながら」
「……ベルナール?」
「いやっ、条件反射で……! でも測定は完璧だよ。間違いは絶対にない」
ジトっとした目のママがちょっと怖い。適当な仕事をしたことを怒っているのだろう。
測定は完璧というのが本当だとわかるからこそイラッとするんだよね、わかる。天才ってムカつくよね。
「ルージュの魔力はとても多い。だから将来は間違いなく立派な魔法使いになるよ」
「えっ、すげぇ! 父さんが魔法のことで人を褒めるなんて滅多にないのに。ルージュには才能があったんだな!」
「リビオ……ルージュが妹になると聞かされた時に、魔塔の後継者になるかもって言われていたでしょ」
「そうだっけ?」
ベル先生の言葉にリビオが食いついて目を輝かせたかと思うと、オリドが呆れたように付け足した。
なるほど、家族にはそんな話がしてあったんだね。
だからママは特に驚く様子もなくニコニコしているのかも。
「ルージュ、魔法はとても便利だけれど危険もいっぱいだって聞いているわ。しっかり学んで、その力を人のために使えるレディーになってもらいたいわ」
「ママ……うん。がんばる」
「良い子ね。ママは誇らしいわ」
うー、ママにそうやって褒められるとムズムズする……。嬉しいけど、恥ずかしい。
すでに魔法のことはある程度学んで、それなりに使えるってことがちょっぴり申し訳なくなっちゃう。
ああ、二度目だというのにやっぱりエルファレス家の温かさにはなかなか慣れないな。
でも、それでいいのかも。
私もみんなみたいに当たり前のように人に優しくしたい。
それでいて、受ける優しさは当たり前だと思わないように気を付けて生きていこうと思う。
※
朝食を終えた後はいつものようにそれぞれがやるべきことをしに向かう。
休日のベル先生と私は例の話をするため部屋に移動だ。
いよいよ打ち明ける時。
さっきはお腹の虫のせいで話せなかったけど、さすがにもう邪魔は入るまい。
ベル先生の部屋に入り、私はまっすぐソファに飛び乗った。
これこれ、このふかふか具合。他の部屋のソファもふわふわだけど、ベル先生の部屋にあるソファは弾力がとても好みだ。
「まるで自分の部屋かのようにくつろぐね?」
「ダメだった?」
「そんなわけないさ。リラックスしてくれるならそれが一番いい。さて、早速だけど今度こそ話を聞かせてもらうよ。だけどその前に、一つだけ質問があるんだ」
「なぁに?」
ふかふかを堪能しながら身体を上下に動かしていると、ベル先生が早速話を切り出してくれたので気負わずに答える。
いやぁ、これでも緊張はしているんだよ。楽しそうに見えるかもしれないけど、これは緊張を誤魔化しているだけなのだ。ふぅ、ふっかふかぁ。
私を見ながらクスッと笑ったベル先生は、眉尻を下げながら質問を口にした。
「ルージュはどうして僕を信用してくれるのかな? 魔力の質が合うから?」
「それもあるけど……」
それも含めて、事情を話すのが一番手っ取り早い。
私はソファーを堪能するのをやめて、ベル先生の顔を見上げた。
「ベルせんせが言ったんだよ。次にまた出会った時は、すぐに話してほしいって」
「……次? 僕が?」
私の言った意味がさっぱりわからないのだろう。困惑気味に聞いてくるベル先生ににっこり笑ってみせる。
「そう。あのね、ベルせんせ。私はずっと、誰かの死に戻りに巻き込まれ続けているんだよ」
説明にはさほど時間はかからなかった。
どうやって伝えたらいいのかと戸惑っていた一度目に比べて、今はどう言えば伝わりやすいかある程度わかるからね。
ちなみに、ベル先生は今回も真剣に話を聞いてくれた。だからこそ話しやすかったってのもある。
「へぇ、さすが僕。どの時間軸でも頼りになるね」
「自分で言っちゃうんだね……」
案の定、ベル先生は私の話をあっさり信じてくれた。自己肯定感も高い。
「僕を信じてくれてありがとう、ルージュ。出来ればもうループは起きてほしくないけど……もしまた同じことが起きたとしても、同じように頼ってほしい」
「ん。わかった」
私が素直に返事をすると、ベル先生は幼い子どもにするように頭を優しく撫でてくれた。
こんな話を聞いたら私が普通の五歳児なんかじゃないってわかったはずなのに、変わらず子ども扱いをしてくる。これは前の時も同じだった。
子ども扱いはするけど、一人の人間として対応してくれるんだよね。どんなに幼い子どもであっても尊重してくれる。
だから、悔しくても大人しくその手を受け入れてしまう。素直に甘やかされたいって私も思ってしまうのかもしれない。
それと、私は心底安心した。
本当にベル先生はどの時間軸でも受け止めてくれるって証明されたから。
これで安心して、私は何度ループを繰り返しても打ち明けることができる。
……ループしないのが一番良いんだけどね。手がかりがほとんどないから仕方ない。
「おっといけない。お茶を飲みながら話そうと言っていたのに、まだ準備もしていなかったよ。これまでのルージュのこと、教えてくれるかい?」
「……! うん」
ここから先は、前の時にもあまりしたことのなかった話になる。
ざっくりどんなことがあったのかを教えたことはあるけど、詳しく説明したことはないのだ。
だって話すことで忘れていた嫌なことまで思い出しちゃって、気持ちが落ち込みそうで。
でも、前回ループが始まる直前に起きた事件については話しておきたい。
暗黒騎士が現れるというこれまでになかったイレギュラー。
リビオの大怪我のこともあるし、私だけでなくベル先生も知っていたら回避できるかもしれない。
席を立ち、自らお茶を淹れるベル先生をぼんやり見つめながら改めて考えてみる。
どうして、暗黒騎士が現れたんだろう。これまで一度だってこっちの方に来たことなんてなかったのに。
私の知らないところで近くまで来ていた可能性はあるよ? だけど少なくとも大きな事件は起きたことがない。
魔塔近くの町で起きたあれほどの事件が耳に入らないわけがないもん。
魔王の侵略、か? この辺りの地域は特に守りが堅いのに、リスクを冒してまで来るかな?
しかもあの時、暗黒騎士単独だったみたいだし……侵略に来るなら魔物の大群とか魔族の兵士などがいないというのは不自然だ。
嫌な予感がする。とても。
同じ時間をループしているはずなのに、こんなにも未来に大きな違いが生まれるのはやっぱりおかしい。
私のループ人生は、前回から大きく変わった。
それが原因だとでもいうのだろうか。
エルファレス家に来て、魔法を覚えたことでそこまで未来が変わるとでもいうの?
まさか、ねぇ……? ただの思い過ごしだと思いたいけど。
何か大きなことに巻き込まれているような気がして、私は自分の体を抱き締めるようにしながら身震いをした。




