123 出発前の一悶着
さて、あまり長話をしている場合でもない。本当にそろそろ出発しないと暗黒騎士襲来だ。笑えない。
転移をした直後に対面したアイツがちゃんと自我を保っている状態であることを祈る。
はぁ、憂鬱だ。でも、今回は一人じゃないからまだマシだね。
黙っていくわけにもいかないのでママやオリドとリビオにも伝えなきゃいけないけど……ごねそうだなぁ。特にリビオが。
ちなみに本来ならこの時期、仕事で大忙しのベル先生は魔塔への連絡を魔法でササッと済ませてしまった。「ちょっと野暮用」という納得のいかない理由で……。
魔塔の主がそれでいいの? とも思うけど、たぶんみんないつものことか、と諦めていそう。理解がありすぎる。
まぁ、ベル先生は唐突にいなくなることもあるし、たぶん大丈夫だろう。いや、いいのかそれで。
「ああ、そうそう。暗黒騎士のところへ行く前に一つ、僕のやりたいことをしてもいいかな?」
「やりたいこと?」
「サイードとの、和解だ」
「あ……」
今ならサイードはまだノアールと出会っていないだろう。いつ出会うのかはわからないけど、さすがにループしてすぐってことはないと思う。
……いや、ノアールとしてもサイードは必要だろうから、今回の人生では真っ先に会いに行っている可能性はあるよね。
「急がないといけないんじゃない?」
「まぁね。でも、別に暗黒騎士とは鉢合わせしてもいいんだ」
「え、いいの?」
「癪だけど、あいつにもサイードの力は必要だろうから」
それは、たしかに。
サイードが転移の魔道具を作ってくれたからこそ、ノアールはあちこちに移動出来たのだろうし、もしかしたら聖剣を手に入れるのにも役立ったかもしれない。
私たちで聖剣を取りに行くということも出来なくはないけど、リスクが高すぎるもんね。ノアールに取ってきてもらえたほうが助かる。
私が一人納得していると、ベル先生は申し訳なさそうに眉尻を下げていた。
「だからこれは、僕のワガママだ。ただ僕が彼と和解したいだけ。以前のように、どうせ無理だと諦めたくなくてね」
そっか。ベル先生にとってこれは初めてのループ。
私だって初めてループした時は、前の人生での後悔を晴らそうと動いたりもしたっけ。
ベル先生にとっての後悔はサイードのことなんだね。
いけ好かないヤツだし、ベル先生だって思うところはあるだろうけど……彼の最期は、なんとも言えない後味の悪いものだったし。
崇拝していた暗黒騎士に、無惨にも殺されてしまったのだから。
「どれだけ無様になっても彼に許しを請いたいし、彼を許したい。今なら出来そうだから」
「うん、いいと思う。もしダメだったら慰めてあげるよ」
「えっ、ルージュが? それもいいなぁ」
「……真面目にやってよ?」
すぐ冗談ばっかり言うんだから。ま、それがベル先生だよね。
よし、私もベル先生とサイードの和解に協力しますかー!
といっても、今の段階でサイードにとって私は「誰?」状態だけどね。見守る程度にします。
◇
「俺も行く!!」
やっぱりか。
家族にこれから暗黒騎士のところに行ってくると伝えたところ、真っ先にリビオがそう叫んだ。
ママとオリドは心配そうな顔をしながらも納得してくれていたのに。
無理に向かってもいいけど、後が大変そうだ。主にママとオリドが苦労する。
それはなんだか申し訳ないので、一応の説得は試みておこう。
「リビオが来るのがダメってわけじゃなくて、話が進まなくなるからさ。今回は最初からベル先生もいるし、大丈夫だよ」
「やだやだやだやだ! 俺も行く! 二度とルージュと離れないって誓ったんだっ!!」
聞く耳持たず。しかもリビオったら地面に両膝をついて私の腰にしがみつく始末だ。
まだ八歳の身体でよくそんな力を……。えー、これ引き剥がせるかなぁ?
「ねぇ、ルージュ。耳を貸して」
困っているとベル先生が耳打ちしてきた。
ふんふん、リビオに……?
「え〜? なんでそんなこと……」
「いいから。たぶんそれで諦めてくれるよ、リビオは」
とんでもないことを言いだしたなぁ。それをやる私の気持ちは考えてる?
べ、別に嫌ではないけどさぁ……。
私とベル先生の内緒話を訝しんだのだろう、リビオはさらに腰にしがみついてくる。ぐぇ。
ええい、どうとでもなれっ!
「ルージュが何を言っても、俺はついていくからな。しがみついてでも……っ」
勢いに任せて、私はリビオの頭を両手で押さえながら頬にキスをした。
本当に一瞬。リビオの柔らかな頬の感触が唇に伝わって、急激に恥ずかしさが襲ってくる。
ま、前にも頬にキスしたことはあるけど、あの時とは状況が違うというか、あの時はもっと切羽詰まってたというか……!
ああああっ! 何これ、恥ずかしいんだけど!? ええい、我に返ったら負けっ!
「お願いだからいい子でお留守番してて! それで、帰ってきた時はもっと強くなってて!」
「え。え? え、あれ? 今、ルージュ……俺に、キ、キス……」
あーっ、言わないで言わないで! けど、おかげでやっとリビオの腕が緩んだ!
今のうち、とばかりに私がサッとリビオから離れると、ベル先生が引き寄せてくれた。よし!
「ベル先生っ、今すぐ移動してっ! ほら早くぅ!」
「あっはははっ! オッケー」
さすがはリビオの父親だね。たぶん、ベル先生もママに同じことをされたら同じ反応をするんだろうな。
でももうやらないからね!
あー、熱い。恥ずかしい。あー、もーっ!!
転移する瞬間、頬を押さえたまま硬直するリビオの姿が見えた。
頼むから、忘れてください。
……無理かなー。無理だよなー。でも私は忘れるからねっ!!




