121 確実に仕留めるには
しばらくみんなで無言になる。それぞれが考えているのだろう。
最初に口を開いたのはベル先生で、ほぼ私と同じような答えを出したみたいだった。
「ループの呪いは限りなく魔法に近いが……あくまで呪いだからね。術者が呪いを解かない以上、術者の死後も呪いは続く恐れがある。たとえばその後の人生を長く生きて、天寿を全うしたとして。その時にループで巻き戻ってしまったら……」
「まさか、苦労して魔王を倒したとしても、ループで戻ったらまた魔王は復活してるってこと!?」
「術者の生死はわからないけど、なにせ時が戻るからね。魔王の死までなかったことになるかもね」
「そんなぁ……」
ベル先生の話にリビオががっくりと肩を落とす。
そう、結局のところ私やノアールにかけられているのは魔法ではなく呪いなのだ。魔力は使っているのだろうし、原理はわからないけど……たぶん似て非なるもの。
だからこそ何度も死に戻りすることが出来る、とも言える。
そうじゃなきゃ、魔王の魔力は毎回とんでもなく減っちゃうからね。魔力を集めたいのに本末転倒だ。
問題は、その呪いをどうやってかけたのかってところなんだけど……まぁ、知らなくても問題はない。解く方法さえわかればいいんだから。
というかあんまり知りたくない。人を呪う方法なんて、どうせろくでもないからね。
落ち込むリビオの隣で、オリドが気付いたように声を上げた。
「もしまたループすることがあったとしたら、次も僕らは一緒にループするのかな」
「あっ、するかも!? ならさ、ルージュじゃなくて俺が暗黒騎士を殺してもいいんじゃないか!? 同じ呪いにかけられている者が殺すのがいいんだろ?」
うーん、それもどうなんだろう。
そもそも、魔王が死んだ後に本当にまだループをしてしまうかどうかさえあやふやだ。もしかしたらそこで終わりかもしれないもん。
ただ「かもしれない」で終わらせることが出来ないのが厄介なところ。楽観視して油断していたらループしちゃいました、じゃ洒落にならないからね。
「どうだろうね。僕たちはローズの介入でループに巻き込まれた形だ。解呪に適用されるかはわからないな」
「え~~~~」
「私が仕留めるのが確実だよ。不確定なことを試してノアールが死んだ時、ループなんて結果になったら目も当てられないよ」
そう、確実に終わらせることが大事なのだ。
たとえ必要のない「殺し」になったとしても。
私はすでに覚悟を決めている。
今後一生、ノアールを殺したという罪を背負うつもりだ。
でもリビオはなぜか私以上に落ち込んでいる。もう、お人好しだなぁ。
「結局、ルージュは暗黒騎士を殺さなきゃいけないってことかよ……」
「もしくは、魔王に呪いを解かせるか、かな」
「え、そんなこと出来るのか……?」
望みは薄いと思うけどね。一応、機会さえあれば試してみたいとは思ってる。
「魔王に対話出来る自我が残ってれば、あるいは?」
「糸口があるの!?」
「わかんないけど……魔王が大切に思っていただろうローズからの遺言を預かってるんだよね」
ただあのメッセージは逆効果になる可能性もある。
魔王がローズの死を信じてくれない、とかもね。……あり得る。あり得すぎるな。
「やっぱ、暗黒騎士を私が殺すのが確実かも」
「そんなぁ……」
「いいよ、そこは別に。とっくに覚悟は出来てるんだから」
一喜一憂させてごめんね、リビオ。でも、私の代わりに怒ったり落ち込んだりしてくれるの、ちょっと救われるよ。ありがとね。
結局、確実な手段を取るのが一番ってことだ。
それがハッキリしただけでも話し合った甲斐があるってものだよ。
だからさ、その。リビオだけじゃなくてオリドやベル先生までどんよりと沈むのやめてくれない? どうしたらいいの、この空気。
そう思っていた時に救世主が現れた。
「みんな、少し休憩にしない?」
「カミーユ! お茶を淹れてくれたのかい? 嬉しいな」
「ふふ。みんなのためだけじゃないわ。私が少し……寂しくなってしまっただけ」
「ああ、カミーユ……」
二人のいちゃいちゃが始まった。
これを見ると、すごく平和を感じるなぁ。
やっぱりベル先生の機嫌を直すのに一番効くのはママの存在だよね。助かった。
「大切なお話があったのよね? でもまだこんなに幼い子に……ルージュと言ったわよね? 疲れていない?」
「あっ、ありがとう、ママ」
「ママ……?」
し、しまった……! つい癖で呼んじゃった!
まだ私はママとほとんど話したことがないはずなのに!
ループの達人ともあろう私が、こんな初歩的なミスをするなんて……ベル先生やリビオとオリドがいつも通りすぎて油断した。
「あっ、あの、ごめんなさい……」
「なぜ謝るの? 私はとっても嬉しいわ。ねぇ、ルージュ。どうかこれからもママと呼んでくれない?」
「い、いいの?」
「もちろんよ。私がお願いしたいわ」
……ああ、ママだ。私との思い出は全部なくなっているはずなのに、変わらない笑顔。変わらない優しさ。
私がエルファレス家に来た当初から、本当にずっと私を大切に思ってくれてたんだって実感する。あっ、涙が出そう。
「~~~っ、ありがとう、ママ」
「ふふっ、可愛い娘が出来て幸せよ」
つい涙ぐんでしまった私にママは手招きをしてくれた。
腕を広げて、こっちにおいでって。
私は迷わず駆け寄って、ママの胸の中に飛び込んだ。
ママの優しいハグ。
柔らかくていい匂いで、信じられないほど幸せ。
「まぁ、ルージュ……よしよし。ママがずっとそばにいるわ」
「……ぅ、ぐすっ。うん……うぇ、うぇぇん……」
「良い子ね。大丈夫よ、大丈夫」
二度と手放したくない。この幸せを手放してしまう経験なんて、もう二度と。
ママからの「大丈夫」は、どんな魔法の呪文よりも強力だ。
本当に何があっても乗り越えられるって、そんな気がした。




