118 エルファレス家の男は涙腺が緩い
エルファレス家に到着すると、すでに門扉の前にそっくりな双子が並んで立っているのが見えた。
それだけで胸にこみ上げてくるものがあったけど、どうにかこらえて照れ隠し気味に笑う。
「えへへ……ただいま?」
「ルージュ!」
「わっ、オリド」
二人にも記憶があるっていうのがなんだか不思議で戸惑いながら挨拶すると、意外にも真っ先に駆け寄ってきたのはオリドのほうだった。
こういう時はいつもリビオだから本当にビックリ。オリドは無言でぎゅっと私を抱きしめると、数秒後には身体を離して涙ぐみながら微笑んでくれた。
今は八歳の少年だけど、中身は立派な成人男性なのが伝わる。大人びた表情だからかな。
オリドは私から離れると、今度はベル先生に向かって話しかける。
「父さん、無事に連れて来られたんですね」
「ああ、ただいまオリド。ルージュも口裏を合わせてくれたからね。問題なかったよ」
「ねぇ、オリド。改めて確認なんだけど……本当に記憶が?」
確信しているからこその態度ではあったんだけど、一応ね。本人の口からも聞いておきたい。
オリドは苦笑しながら頷くと、肩をすくめながら答えてくれた。
「気付いたら八歳の頃に戻っていて驚いたよ。それから君が戦場で……魔王に殺されたって聞いて。本当に心臓が止まるかと思った。生きててよかったよ、ルージュ」
「オリド……心配させてごめんね。それと、記憶が残ったままループしちゃったことも」
「それはルージュのせいなの? 違うなら謝らないでよ」
「違うけど……でもなんとなく謝らなきゃ気が済まないの!」
私だって巻き込まれた側だからね! でも、その巻き込まれに巻き込んだような気がしないでもないから、一応。
「っ、ルージュ……ルージュだ……っ」
オリドと話していると、ようやくリビオがふらふらと歩み寄ってきた。
いつもと明らかに様子が違う。涙をボロボロ流して、なんかもう、すごい顔になってる。
調子が狂うよ、そんな様子じゃ。
いつもみたいに駆け寄ってきてよ。明るく笑いながら勢いよく突進してさ。
それが出来ないなら、私がしてあげる。
私はリビオに駆け寄ると、力いっぱい抱きしめた。
「うぅ、う~~~~」
「リビオ」
「ごめん、ぐすっ、ごめん、ルージュ……! 俺、絶対に、ルージュのごどぉ、うっ、守るっでぇ、決めでだのにぃ、なのにっ、なのに魔王にぃ……っ!」
「いいんだよ。あれは私も油断してたんだもん。誰のせいでもない」
リビオは抱きしめ返すと、そのままへなへなと地面に座り込んだ。
ギュッとしがみつかれたまま、泣いて謝るリビオの頭を何度も撫でるけど、リビオが泣き止む気配はない。
そうだよね。ベル先生もだけど、あの場にはリビオもいたのだ。
私が……魔王の手で串刺しにされる様子をしっかり見ていたのだろう。
リビオが大怪我した時、私も取り乱したっけ。
だから責められない。申し訳ない気持ちでいっぱいだよ。
あの時のリビオは、私にそんな思いをさせないために強がっていたんだって今初めてわかったよ。
「痛がっだよなぁ? 苦じがっだよな……? うぅ、ルージュ、ごめん、ごめん……」
「謝らないでってば。っていうか……謝るのは私のほう。ごめん、リビオ」
「違うっ、ルージュは! 何も! 悪ぐないっ! 守れなかっだ、俺が、俺がぁ……っ」
「あーもう。ほら、私はこうして無事なんだから。ループしちゃったけど」
「結婚じでぐれぇ……」
「んふっ、それは無理」
どさくさに紛れて求婚するんじゃない。
でもそれがリビオだ。ふふっ、笑っちゃう。
その後もしがみついたままわんわん泣くリビオが落ち着くまで、私は頭を抱きしめ続けた。
ごめんね。それと、ありがとう。
こんなにも心配して、泣いてくれて。
◇
屋敷の中に通されるのに、かなりの時間がかかった。
ママはもちろん、見慣れた使用人たちも、リビオの様子を見て混乱していたなぁ。そりゃそうだ。
だって私を背後からギュッと抱きしめたまま離そうとしないんだもん。しかも泣きはらした顔してさ。まだ鼻をぐすぐす鳴らしているし。
おかげで私は歩きにくいったらないけど、今はリビオの好きなようにさせることにした。やれやれ。
それでも誰も何も聞いてこず、談話室に案内してくれたのがありがたかった。
ママはまだ、ループの事情を知らない。
ベル先生はループ直後、混乱した頭でまず魔塔から慌てて屋敷に戻り、家族の安否を確認しに戻ったらしい。
そこで双子も記憶があることを知り、その後すぐにハウスに来たらしいから、ママに説明する時間はなかったのだとか。
つまり、ママは何もわからないけどひとまず全てを受け止めているのだろう。
器が大きすぎる人だとつくづく思う。誰よりも強くて尊敬出来る人。
ああ、懐かしいなぁ。さほど時間は経っていないはずなのにね。
変わらない風景。変わらない匂い。変わらない、優しい雰囲気。
「なんか、帰ってきたって感じがする」
「それはそうさ。ここはルージュの家でもあるんだから」
私の呟きに即座に返事をしてくれたベル先生を見上げると、ものすごく優しい目で私を見ていることに気付いた。
なんか、照れるな……。でも、それ以上に嬉しい。
私には、いつの間にか家族が出来ていたんだなぁって改めて実感するっていうか。
何度ループしてもエルファレス家の子になりたいって願っていた夢が叶ったのも……私の努力と積み重ねと、ローズのおかげかな。
「私のことを覚えている人がいるって、こんなに幸せなことなんだね」
「ル、ルージュぅぅぅぅ」
「えっ、また泣き始めた!?」
しみじみと呟いただけなのに、何がリビオの涙腺を緩ませてしまったんだろう。
「こんな思いを、ルージュはずっと、たった一人で……」
「ええ!? オリドまで!?」
「ああ。本当にルージュは強い子だ……」
「ベル先生も!?」
戸惑っていたら三人とも涙を流し始めてしまった。
ちょ、ちょっと、これからいろいろと話し合いを始めるんだよ? そんなんで大丈夫?
結局、話し合いのための部屋に入った後も、しばらくは三人が泣き止むのを待つ羽目になった。
う、嬉しいけどさ、そろそろ話、進めよう? こういう時、まだママに頼れないのが辛い~!




