116 覚悟の現れ。可愛い?
この度、今作がカドカワBOOKS10周年記念長編コンテストにて優秀賞をいただきました(*´﹀`*)
活動報告でなんか叫んでるのでチラ見してみてください。
最終章、更新再開いたします。
最後までよろしくお願いいたします!
目を覚まし始めた子どもたちの声。
すこし騒がしくなり始めた朝の光景。
硬いベッドの感触を背中に感じながら、見慣れた、それでいて懐かしく感じる天井をぼんやり眺める。
「朝よー! 子どもたち、起きなさーい! あら、ルージュ。早起きさんね」
シスターのよく通る高めの声。
「おはよーございます、シスター。お腹すいちゃった」
「ふふ、食いしん坊さんね。じゃあ食事の準備を手伝ってもらえる?」
「うん」
過去最高で穏やかな気持ちかもしれない。
状況的には絶望なんだけどね。これまででもっとも切羽詰まった状況。
でも、今回は強力な味方がいる。
今頃、彼らはどんな気持ちで目覚めていることだろう。
……私が死ぬ瞬間を見せちゃったもんなぁ。お腹に魔王の腕が貫通してさ。
うっ、考えないようにしよう。せっかくローズに呼ばれたおかげで忘れていたんだから!
今の私は小さな手、瘦せ細った身体、ぼさぼさの髪。
ふと思い立った私は、今さっきシスターに食事の準備を頼まれたというのに別の場所へと向かった。
裁縫道具の中からハサミを持ち出し、誰もいない部屋に忍び込んで鏡の前に立つ。
赤い髪と瞳をした貧相な身体の子どもが鏡の中から見つめてくる。
でも、なかなかいい目をしてるじゃない。
「きゃああっ! ルージュ!!」
「あ、見つかっちゃった」
シスターの悲鳴で振り返った時、私の髪はバッサリと短くなっていた。
肩口で揺れる癖のある髪、床に散らばる切られた髪。ごめんなさい、ちゃんと掃除はするから。
今までも、何度か短くしたいと思ったことはあるんだけど、どうせループするし、そこまで気が回らなかったし、無気力だし……って感じでずっと同じような長さを保っていた。伸びすぎたのを整えるくらいで短く切ることもなかったんだよね。
でもさ、なんか。心境の変化というか、覚悟の表れというか。
思い切り短くしてみたかったのだ。こんなに頭が軽くなるものなんだ。もっと早くやってみればよかったな。
当然、シスターにはめちゃくちゃ怒られた。
その上で、私が適当に切ってガタガタになっていた髪を綺麗に整え直してくれた。優しいねぇ。
「子どもってほんと、どうしてハサミを使いたがるのかしら。前にもいたのよね。自分の髪を切る子」
「えっ、そうなの?」
「ええ。今は立派なシスターになって、こうして同じことをしたやんちゃ娘の髪を整えているわ」
シスターじゃん! 同じことしたんだ!?
私は思わず吹き出して笑い、鏡越しにシスターが「秘密よ」とウインクしながら笑った。
懐かしいな、こういう雰囲気。
全てが終わったら、またこの場所に戻ってこよう。 それでうんと働いて、ヴィヴァンハウスにお金を入れるんだ。
エルファレス家の子になってからの人生では、結局ここに戻って来られなかったから。私の夢はまだ半ばで、叶えられたことがない。
もちろん、今回もエルファレス家の娘になる目標はちゃんとあるよ。
でもそうしたらエルファレス家から寄付しそうなんだよね。
違うのだ、私は自分で稼いだお金を寄付したい。
お金じゃなくても、高価な本やおもちゃ、おいしい食べ物を贈るのもいいな。
そういう、贅沢で普通の、平和な暮らしをしたい。
「はい、出来た」
「ありがとう、シスター。どう? 可愛い?」
「ふふっ、とっても可愛いわよ! さ、朝ご飯にしましょ!」
シスターと手を繋いで食堂に向かう。みんなに髪のことを驚かれたけど、すぐに可愛いって言ってもらえた。他のシスターたちには呆れた目を向けられたけどね。
これまでの私では考えられないな。自分から「可愛い」って言ってもらいにいくなんて。
一体、誰のせいだろうねぇ? こんなに欲しがりになっちゃったのは。
「た、大変ですっ! ルージュ! ルージュはいる!?」
みんなで朝食を摂っていると、一人の若いシスターが大慌てで駆け込んできた。
ざわつく食堂内だったけど、私はある程度予想をしていたから落ち着いたものだ。
「もしかして、すっごい美形なおじさま貴族が私を訪ねてきた?」
「えっ、なんで……」
「えへへ。ごちそうさま! 私、行ってくるね」
「え? ええ……あっ、食器は私が片付けるから早く行って!」
若いシスターにそう言われたので、お言葉に甘えてそのまま早歩きで玄関へと向かう。
逸る気持ちを抑えられなくて、早歩きが次第に小走りに、小走りが本気の走りへと変わっていった。
玄関が見えてきた時、見慣れた背の高いシルエットが目に入る。
困ったように年配シスターが対応していて、なんだか申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
でも、でも、ごめんなさい。
まずは、会わせてほしいんだ。
「っ、ルージュ!」
やだな、なんて顔をしているの。
泣きそうで、苦しそうで、余裕のないベル先生なんてあんまり見たくないんだけどな。
私は走るスピードを緩めることなく、そのままベル先生に飛びついた。
ベル先生は難なく私を抱き止めると、そのまま両膝をついてぎゅうぎゅうと抱きしめてきた。もう、苦しいよ。
「ルージュ……ルージュ。ああ、生きてる。生きてる……!」
「生きてるよ。すっごく元気。迎えに来てくれるの、待ってた」
「ああ、なんてことだ。君はいつもこんな思いを何度も繰り返していたんだね」
記憶を持ったまま一緒にループしてくれたこと、こうしてまた抱きしめてもらえたこと、私の気持ちを本当の意味で理解してくれたこと。
同じ思いをさせてしまったほんの少しの罪悪感、それを上回る多幸感。
いろんな気持ちが混ざって、勝手に涙が溢れてきた。
「会いたかったよ。……パパ」
ベル先生にギュッとしがみつきながら呟くと、抱きしめられる力がさらに強まった。
これ以上はそろそろ私が潰れちゃうよ、と泣きながら笑う。
その場で困惑したように立ち尽くしている年配シスターや、駆け付けてくれた他のシスターたちへの言い訳はどうしようかな。
ま、どうせ後でベル先生がうまいこと言ってくれるよね。




