115 私たちの巻き込まれループ人生は
本日2話投稿しています。(以前間違えて114話を投稿してしまったので)
前話をお読みでない方はそちらからご覧ください。
嫌な考えを振り切るため頭をぶんぶん振っていると、ローズが話を戻してくれた。
「さて、魔王の過去を話したところで事情は理解してもらえたかしら。結局、貴女たちにやってもらいたいことは変わらないんだけど、聞いておいてほしかったの。ルージュだって、なんの事情も知らずに巻き込まれたままなんてモヤモヤするでしょ?」
「それはそうだけど……いいの? 私、魔王を殺そうと思っているのに」
「本当ならすでに死んでいるはずだから。私だって、とっくに天に召されて生まれ変わったりしていたかもしれない。私たちはその宿命に逆らっているの」
それもそうか。うん、そうだよね。
かわいそうだなぁとは思うよ? 私だってそういう心くらいは持ってる。
でもそれだけ。私たちにとっては害でしかない魔王なんだもん。命だけは助けようだなんて甘い考えを、私は持ち合わせていない。
同情はするよ。オーリーにしてみれば、大切な村を守りたかっただけなのに長年時空の狭間に取り残されて。
かと思えば救ったはずの女の子がその身を犠牲にして自分を助けてくれてさ。
だから今度は助けてあげたくて、ずっと探し続けているのに見つからなくて。
そうしている内に負の感情がどんどん闇のオーラに変わっていって、引き寄せられるように魔物が増えて。
たぶんだけど、オーリーは自分の体を何度も時魔法で巻き戻しているのだと思う。じゃなきゃここまで長生きする理由が説明出来ないし。
それも魔王化してしまった原因の一つなんだろうな。
だって、常人には耐えられないよ。私だって壊れかけたのは一度や二度じゃないもん。
そのうち世界そのものを恨むようになったりもしたんだろうな。
気付けば世界の敵になっててさ、自分を倒しにきた勇者も鬱陶しく思ったのかもしれない。
だからって勇者を殺していい理由にはならないけど……。
そうまでしても、目的のローズには会えない。自暴自棄にもなる、か。
でも元は心の優しい青年だったんだよね? ここまで闇落ちして世界を破滅に導くものかな?
「……待って」
あ、やばい。鳥肌が立った。
今、唐突に魔王のオーリーが完全に力を取り戻そうとしている、その本当の理由に気がついてしまった。
力を取り戻すというより……膨大な魔力を集める必要があったんだ。
「ねぇ、ローズ。オーリーの目的ってさ、もしかして……」
私が震える声でそう言うと、ローズは悲しそうな目で小さく頷く。
「すべての時間を、巻き戻そうとしている……?」
「…………ええ。きっと」
身体が震える。何、それ。
オーリーにとってのすべての時間、それはローズが自分を犠牲にする前、もしくは自分が時魔法の失敗をする前……ああ、たぶんそれも違う。
──村が魔物に襲われる前まで、時間を巻き戻そうとしている。
今のオーリーなら村を守れる。時魔法を失敗して事故を起こすこともないだろう。
……とんでもない時間を巻き戻すことになる。
もはや世界を作り直すレベルの巻き戻しだ。
だから、たくさんの魔力を蓄える必要があったんだ。
魔王戦で魔法をほとんど使わなかったのも、きっとこのため。
「私はさ。そしてノアールは……ううん、今を生きるこの世界の住人全てが。魔王ギオラビオルの壮大なループ計画に巻き込まれ続けていたんだ……っ!」
だから魔王はどれだけ被害が出ても気にしない。
どれほどの人が死に、悲劇や憎しみが生まれても気にしない。
だって、全てがなかったことになるのだから。
それは今を生きる私たちにとって、世界の終わりと何が違うの?
自分が存在すらしない時間に巻き戻るんだもん。過去が変わるわけだから、同じ時期に自分が生まれるかどうかもわからない。
大昔の些細な変化は、今や未来を大きく変えているはずだ。
魔王のいなかった世界になる。
それは、幸せな結末なのだろうか。
「ふ、ざけるな……」
「ルージュ……」
嫌だ。絶対に、認めない。
これまでの私たちの生き様を、完全になかったことになんかさせない!
私はもがいた。生きた。たくさんの時を。
それを本当の意味で無にするなんて、許さない。
「聞いて、ルージュ。これから貴女はまた子どもに戻る。暗黒騎士と貴女にはいつも記憶が残っているわよね?」
いまだかつてない怒りに震えている時、ローズの静かな声が耳に届いた。
そうだ、こんなところで怒ってたって意味はない。ましてやローズにぶつけたらダメだ。
私は何度か深呼吸を繰り返してから答えた。
「それは、うん。だからこそループしてるって気付いてるわけだし」
「それは二人が時魔法をかけられているからなの。だから私はその時魔法に、もっと人を巻き込もうと思って」
「人を、巻き込む……?」
なんか嫌な響きだ。このループに他の誰かを巻き込もうだなんて、一度だって考えたことないよ。
自分の運命を呪いはしても、他の人もだなんて。
「全員は無理よ。でも適性のある人を三人ほど巻き込むことが出来る」
ん? あれ、ちょっと待って。
それって……記憶を持ったまま次の人生を始める人が、あと三人増えるってこと?
つまり、次の人生は最初から協力者が増えるってことだ。暗黒騎士という不安定な敵だけでなく!
「誰!? 適性のある人って!」
とても重要なことだ。適性のある人が四天王とかだったら目も当てられないし、むしろ難易度が上がる。
少しでもかかわったことのある人だといいんだけど贅沢は言わないよ。味方であればそれでい!
「まず、私と仲の良かった双子と同じ魂を持った存在。彼らのことはよく知っているから巻き込めるわ」
「え……オリドとリビオ、ってこと……?」
「ええ。そしてあと一人なんだけど」
どくんどくんと心臓が脈打つ。
オリドとリビオの二人が味方になってくれるというだけで希望しかない。
「私と同じ模倣魔法を得意とする唯一の人物。ベルナール・エルファレス」
ベル、先生……。
鼻の奥がツンとなって、涙が滲む。
「次は間違いなく、オーリーは必要な魔力を手に入れるでしょう。推測だけれど双子が成人する頃か、それより早いくらいかしら。戦いは厳しくなる。でも記憶を持った貴女たちならきっと倒せるはず」
うん。うん、そうだね。
涙が溢れ続けて何度も頷くことしか出来ない。
「どうかオーリーに私のことを伝えて。そして彼に死を。私に出来るのはここまでだから……」
悲しそうに目を伏せるローズに、ちゃんと私も最後の言葉を贈らないと。
目を袖でごしごし拭いた私は無理やり笑顔を作って顔を上げた。
「わかったよ、ローズ。いろいろとありがとう」
「いいえ。今を生きる貴女たちは、むしろ私やオーリーに巻き込まれただけだもの」
「それでもだよ。ねぇ、ローズ。オーリーに何か伝言はある?」
私がそう訊ねると、ローズは驚いたように目を見開いた。
「オーリーをぶっ飛ばすときに、伝えてあげるからさ!」
「ああ、ルージュ……! ありがとう、ありがとう……」
今度はローズが泣きだしてしまった。
きっと、ずっとこうして泣きたかったよね。絶望の涙じゃなくて、希望を感じながらさ。
ローズは涙声になりながら、オーリーへの伝言を私に託してくれた。
……うん、そっか。ふふっ、なるほどね。
任せてよ、確実に伝えるから。
「あ、それともう一つ」
「なにかしら?」
「ローズは私たちに干渉するのに一度失敗したって言っていたけど、もしかすると完全に失敗じゃなかったんじゃないかな」
「どういうこと?」
ループに巻き込む人を教えてもらって、思い当たることがあるんだよね。
「だって、ベル先生とリビオはさ、うっすらと心が覚えていたから。私のことを」
魂で記憶しているのかと思ったよ。思いが強いからって。
きっとそういうロマンチックな要因もあったのだろうけど、一番はローズの失敗が多少なりとも影響を与えていたんじゃないかなって。
運命とかいうロマンチックさをぶち壊すような考えだけど、私たちにはこういうのがお似合いだよ。
物事には必ず理由がある、ってね!
ローズは涙を拭きながらクスクス笑った。
「そろそろループの時間ね。いってらっしゃい、ルージュ。どうか良い人生を」
これが最後のループだ。前回もそのつもりで挑んでいたけどね、今度こそ本当。
魔王を倒せなかったら、世界は大きく巻き戻る。
私たちの生き様はなかったものになる。
そして魔王を倒せたら、今度こそ私の時間は進む。
やってやる。
私は私の人生を、必ず取り戻してみせる。
これにて今章はおしまいです。
次からは最終章に入ります!
少しお休みを挟んで、12月中には連載を再開しますので引き続きお付き合いくださいませ!




