テイカーの失敗続き⑨
シーフ家の奴ら!失敗したのか!
あの雑魚ども相手に!?
あいつらはおかしい!
ブンドルも死んだのか!
・・・・・
シーフ家もしょせん無能という事か。
くそ!ハルトは王都で保護され、ホワイト領の襲撃は失敗した。
全部失敗したのか。
ハルトは英雄として称えられ、ホワイト領のリコは内政能力の高さを評価されている。
俺を悪者に仕立て上げてあいつら裏で卑怯なことをやっているに違いない。
テイカーはリコやハルトの地道な努力を決して認めない。
テイカーは気づいていない。
自身が毎日楽しむワイン・ベーコン・チーズなどは、ホワイト領のハルトやリコの努力によって作られ、安定供給された高級品なのだ。
そして、節約をする気はないのだ。
「テイカー様、シーフ家が貴族の星を返上しました。」
「ふん!当然だ!無能どもの領地は俺が活用してやる。」
「ですが、人手不足によりこの広大なブラック領の管理が行き届いていません。」
テイカーの性格の悪さで人がじわじわ減り続けているのだ。
「俺を誰だと思っている。最強のテイカー様だ。」
「し、失礼しました!」
だが、管理はうまくいかなかった。
「くそくそくそ!管理がうまくいかない!」
人を雇う為の金もない!
今までブラック領の強さは経済力に支えられていた。
豊富な資産と毎年の大きな利益である。
だが、豊富な資産をテイカーは使いつぶした。
残りの領の利益も、テイカーの横暴で減少中だ。
今までブラック領の利益の三本柱は、貸金・学校と学園・冒険者の派遣だった。
だが、貸金の利益はカイの助言を無視して失った。
学校と学園の利益は定員割れを起こし、減少中。
冒険者の派遣は、冒険者自体がブラック領から逃げ出しつつある。
さらに、傘下貴族から献上金を集めていたが、これにより傘下貴族は次々と星を返上した。
傘下貴族から金を吸い上げる行為は、来年の為に植える種を食べつくす行為となる。
傘下貴族の本来の役割は、上位の貴族が傘下貴族を援助し、成長を促す。
そして自身の領が困った時のみ助けてもらうというのが本来のあり方だ。
今まで経済力をバックに大きな力を誇ってきたが、一旦力を失うと、ブラック領は弱さを見せだす。
くそ!金が無い!
そうだ!傘下貴族を追放しよう。
貴族の中には領地を持たない家が存在する
ガード家とウィッチ家だ。
ブラック領から資金を払い、住む家や屋敷を用意する。
その代わりに治安維持やポーションの製造などを依頼していた。
くっくっく!あいつら無駄に経費ばかりかかっている。
居る意味が無い!
そうだ!ホワイト家に押し付けよう!
あいつら2つ星貴族の癖に傘下貴族を持たない。
負担を味わえ!
これでブラック領は発展するに違いない。
そしてホワイト領は苦しむ!
「おい!お前!ガード家とウィッチ家の追放の用意を進めろ!」
「し、しかしガード家は防壁の中に魔物を入れないよう守る重要な戦力、ウィッチ家はポーション生産の能力が高く、どちらも大事なのでは?」
「無能が。」
「はい?」
「無能には説明しないと分からんようだな。ガード家は戦闘職としては不遇な重戦士だ。生産職のように無駄なスキルを余計に覚えるため上級職になれる者は少ない。つまりはお前と同じ無能なのだ。」
重戦士は、初級で剣盾・挑発、中級でスラッシュ・シールドバッシュというように各ランクごとに2つスキルを覚える。
対してテイカーのような剣士は、初級で剣、中級でスラッシュと、各ランクごとに1つのスキルのみを覚える。
全ての職業スキルのレベルを上昇させることで職業をランクアップしていく特性上、重戦士はランクアップに不利なのだ。
だが、これは1つの見方でしかない。
重戦士はランクアップには不利ではあるが、多くのスキルを覚えることが出来、攻撃をしつつ味方を庇うという幅の広い戦い方が可能だ。
攻撃力という1点のみで見れば重戦士より剣士の方が優れ、レベルを上げやすいが、防御で見れば重戦士の方が能力が高い。
「さらにウィッチ家だが、あの家系は、初級で短剣、中級でポーションのスキルを覚える者が多い。中級でポーションを作るスキルを覚える分戦闘力が低く、弱いのだ。そして、ガード家もウィッチ家もこのブラック領が資金を援助している。まあお前のような無能には領地経営の何たるかは分からんと思うがな。」
テイカーは生産スキルを下に見る。
今までウィッチ家のポーションに助けられてきたが、テイカーからすれば、無能はポーションを献上するのが当然と思っているのだ。
「そんなわけで、俺の機嫌が良いうちにさっさと動け。殴られんと分からんのか。」
「速やかに任務を遂行します!」
取り巻きは急いで駆け出した。
テイカーには辛抱強く人を育てるという発想が無い。
傘下貴族の追放は、自身の指を切り落としていく行為である。
だがテイカーは喜んで自身の指を切り落とす。
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