ハルトVSテイカー ブラック学園入学試験
俺はそっと目を開ける。
リコが苦笑して俺を見つめる。
「もうしわけありませんわ。ですがもう迎えの者も来て待たせておりますの。」
ギルドの外には馬車が止まる。
俺はそのまま馬車に乗り、ブラック領へと向かう。
向かいに座る騎士に挨拶をする。
「よろしくお願いします。」
「ああ、」
騎士が軽く会釈する。
話しにくい。
俺は目を閉じて深呼吸しながら時間を潰す。
ブラック学園に入り、入試会場に入ると、テイカーが居る。
俺は気配を消して時間を潰す。
一緒に馬車に乗っていた騎士は俺の斜め後ろに控えていた。
テイカーが俺を見つけると口角を釣り上げて歩いてくる。
「は!お前手柄を捏造した容疑で監視されてるみたいだな!せこいことしようとしてもお見通しなんだよ!」
俺は無言のまま黙る。
ん?俺どういう設定?下手に話をすると話がおかしくなるし、どういう嘘の情報を流したんだ?
「は!言葉も出ないか!これだから無能の平民は困るんだよ!」
テイカーは明らかに監視されていた。
5人以上の騎士が目を光らせている。
逆にどんどん俺を罵ってくれないかな?
そうすることであいつの評判を落としたい。
周りを見ると、目が合った人間は素早く目を逸らす。
よしよし、どんどんテイカーを避けてくれて構わないぞ。
「おい!何笑ってやがる!」
テイカーが俺の胸倉を掴んで持ち上げる。
後ろに居た騎士が前に出てテイカーの腕を掴んで止める。
「ち!実技で覚えてろよ。」
学科試験は問題なく終わる。
普通に解けたな。
答案用紙の不正はないようだ。
変なことをしてくれた方が面白くなるんだけどな。
俺はこの入試が楽しみになっていた。
次の試験は防御試験
先端を布で覆われた矢が俺達を狙う。
布で覆われていると言っても当たると痛いらしい。
最後まで立ってたら合格というシンプルな内容だ。
テイカーが弓の担当官に耳打ちをしていく。
馬鹿め、どんどん不正を続けろ!
試験が始まると、5人居る受験者の内、俺に矢が集中する。
だが、俺はすべての矢を避けきる。
制限時間が過ぎても矢が打たれ続ける。
後ろに居た騎士が大声を上げる
「もう制限時間はとうに過ぎている!」
これにより矢が止まる。
最後は受験者同士の戦いだが、負けても合格になったりする。
相手が強い場合もある。
3回戦い総合的に判断されるが、ここは一番不正をしやすい。
テイカー、何をやってくる?
俺はにやにやと笑う。
1回戦目
相手は木の両手剣、俺は木の包丁を使い対戦が始まる。
俺は相手の剣が振り下ろされる前に相手の小手に打ち込み、無力化する。
相手は剣を落とし、拾い上げようとするが、あごを蹴り上げて気絶させる。
「ケリーがやられた!嘘だろ?」
「あいつ包丁で剣を落としてたぞ!」
俺は後ろの騎士を見つめるが、目を逸らされた。
「ケリーってなんだ?」
「剛剣のケリーだよ!知らないのか?ブラック領期待の新星だぞ。」
人が集まってくる。
テイカーが口角を釣り上げて近づいてくる。
「ハルト!お前不正したんだろ!お前がケリーに勝てるわけがない!どういう手を使った!どんな汚い手を使ったんだ!?」
一気にみんなの注目がこちらに集まる。
「不正はしていない。」
「嘘をつくな!ノーマルスキルが2つともバッドスキル!さらに料理人の不遇職にケリーを倒せるわけねーだろうが!」
テイカーはわざと大きい声を出し、みんなの注目を集めているようだった。
「だから不正はしてない!」
「嘘をつくな!無能がケリーに勝てるわけねーだろうが!」
こいつしつこいんだよな。
同じ話を何度も繰り返し、自分が不利になるとすぐに話題をすり替えるか殴ってごまかす。
だが、
「不正してない!」
黙ると『罪を認めたんだろ!』とか訳の分からないことを言ってくる。
俺とテイカーは同じやり取りを9回繰り返した。
ここで王の手の者と思われる貴族らしき人物が前に出て口を開く。
「それではテイカー君とハルト君二人で対戦してみてはどうかね?」
テイカーが不気味に笑う。
「こいつは貴族である俺に不遜な態度を取った!真剣を使った決闘を申し込む!」
「俺は質問に答えただけだ!」
「ハルト君、受けてみてはどうかね?」
「もし俺がテイカーの腕を切り落としたら俺が悪者になると思う。」
「よろしい!私が立会人を務めよう。貴族平民関係ない決闘だ。勝敗は相手が戦闘不能になるまで、ただし殺しは厳禁!ハルト君、テイカー君の腕を切り落としても罪にはならない。私が保証しよう!」
俺は騎士から愛用の包丁を渡され、二刀流で構える。
「ぎゃははは!追い詰められて気でも狂ったか!出来もしねー二刀流でカッコつけてんじゃねーぞ!ルールに救われたな!半殺しで許してやるよ!」
テイカーが真剣を取り出し両手で構える。
「それでは、始め!」
「おい!どうした?ビビってんだろ?早く来いよ!」
「そうか。」
俺は包丁を下からすくい上げるように斬り上げ、テイカーの腕を両断する。
テイカーの両腕と剣が宙を舞う。
「ぎゃあああああああああああ!」
テイカーは苦しみながら地面に這いつくばる。
「勝者!ハルト!」
「ぐあああ!殺せ!ハルトを殺せええええ!」
テイカーの合図で、数人の大人がハルトを取り囲むが、王の手の者と思われる騎士達が、取り囲んだ大人を斬り倒し、無力化していく。
「テイカー君!君が何をしようとしたか分かっているのかね!?決闘のルールを捻じ曲げたのだよ!」
テイカーがガタガタと震える。
「お、俺は気が動転してた!どうかしてた!それだけなんだ!」
「ふむ。」
男の合図で、騎士たちは剣を収める。
「大貴族であるテイカー・ブラックのこの失態、王から何らかのペナルティーがあるだろう。ハルト君、すぐに帰りなさい。暗殺を仕掛けられたら私でも守り切れない。護衛を付けなさい!」
合図された騎士の元に素早く4人の騎士が集まる。
馬車には俺とさっきの騎士1名
周りを4人の騎兵が囲んで護衛されつつ帰路に就く。
「危ない目に合わせ、迷惑をかけた。」
騎士が礼をする。
この人、真面目なんだな。
騎士への好感度が上がった。
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