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転生したから新世界を駆け巡ることにした  作者: 氷純
第四章  二人の世界は外界と交差する

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第二十七話  逃避行

 依頼内容はビスティを防衛拠点ボルスまで護送する事。

 ボルスであればラックル商会の影響は及ばないだろうし、何よりラックル商会からの連絡が届くより早くビスティを連れた俺たちが到着するだろう。

 ビスティを護衛してボルスに行ってしまえば、仮にロント小隊長から救援を求める伝令が出ていたとしても問題ない。何しろボルスにいるのだから。

 問題はビスティの意思だ。


「ボルス、ですか。前から行きたいなとは思ってました。軍の関係施設なので根を張っている商会もラックル商会より大きいですし、取引相手としては申し分ないので。でも、僕は狙われてますから、ガランクを出ても街道で襲撃を受けるだけじゃないですか……?」

「それについては考えがあります」


 方法に関しては関係者だけを集めた後に話すことにして、俺は西側ギルドの職員に向き直る。


「聞いての通りです。西側ギルドで依頼人ビスティを防衛拠点ボルスに送り届ける護衛依頼を受けたいのですが、かまいませんか?」

「東に一泡吹かせられるなら、協力しましょう」


 よし、これで第一目標はクリアだ。

 俺は荷物を持ってくるようビスティに言って、ボールドウィンに向き直る。


「青羽根にも依頼を出したい。いま暇か?」


 ボールドウィンがにやにや笑う。


「俺も東の連中の態度が気に入らなかったから、手伝うぜ。ついでにラックル商会の鼻も明かせるし」


 そうだろ、とボールドウィンが青羽根の仲間たちに声を掛けると、いたずらっ子みたいな顔でみんなが頷いた。


「この町で仕事をしたくばスカイの情報を渡せって言われた時からラックル商会に目に物見せたかったんだ。コトに全面協力する」


 青羽根の整備士長が笑いながら言う。かなりストレスが溜まっていたらしい。

 青羽根の協力も得られたことで、俺は西側ギルドの職員に向き直る。


「確認したいんですが、ガランク貿易都市に新種のハーブや香辛料の発見報告が来なくなったら東側ギルドの評価は落ちますか?」

「落ちませんね。周辺に新種がないと結論付けられるだけです」

「では、周辺とはどのあたりまでを言いますか?」


 続けての質問に、職員は考えるそぶりを見せた。


「明確に基準を設けているわけではありませんが、トロンク貿易都市との中間あたりやテイザ山脈、大工場地帯ライグバレドとの境、でしょう」


 ガランク貿易都市の管轄を訊いた俺に、ミツキが納得した顔で頷いた後、笑みを浮かべる。

 俺が何をするつもりか気付いたらしい。

 ミツキが笑みを浮かべたまま西側ギルドの職員に質問する。


「ガランク貿易都市を拠点にしていた人が亡命に近い形で防衛拠点ボルスに行ったかと思えば、新種のハーブや香辛料を持ち込んだり、新しい群生地の発見報告をしたら?」

「もちろん、ガランク貿易都市の利益をみすみす逃したことになりますから、東側ギルドの評価は下がるでしょう。亡命理由にラックル商会の妨害を前面に出せば、対抗する商会や我々西側ギルドの職員、官憲にとっても格好の攻撃材料になります」


 西側ギルドの職員は律儀に答えた後で首を横に振った。


「しかしながら、新種のハーブや香辛料などそう簡単には見つかりません。野菜なども同じです」

「もしも、の話ですよ」


 ミツキは笑って、ガランク貿易都市の地図をパンサーの収納部から引っ張り出した。


「植物図鑑が必要かな?」

「後は魔物と動物の図鑑だな。交通訴訟賞の奴もいる事だし、他に新種がいてもおかしくない」

「剥製候補だね」


 購入リストを作っている間に準備を整えたビスティがやってきた。

 ビスティは背中に大荷物を背負っていたが、これから町を出て生活の場を移すには身軽に見えた。

 俺が疑問に思っている事を表情から察したらしいビスティが苦笑した。


「昨夜ガランクを出るつもりでしたから、すでに持ち物は最小限に抑えています。他の物は最悪の場合、破棄しても構わないので」

「他に荷物があるならそれは後から運ばせればいい」


 俺はボールドウィンを見る。


「ビスティの運搬車両の点検が終わった後、他の荷物と一緒にボルスまで持ってきてくれ。運搬車両に何か仕掛けが施されてるかもしれないから、あらかじめ隅々まで調べておいた方が良い」


 目指すは完全勝利だ。ラックル商会から逃げるために荷物の大部分を捨てました、なんて痛み分けと変わらない。

 護衛依頼の手続きのために西側ギルドに向かって歩き出しながら、職員が不思議そうに俺を見た。


「てっきり、青羽根と一緒に行動すると思っていましたが」

「行動が制限されないようにしたいんですよ」


 整備車両や精霊人機スカイを持つ青羽根ではテイザ山脈を越えられないため、連れて行く事は出来ない。

 しかし、俺がテイザ山脈越えを考えているとは知る由もない職員は首を傾げる。


「待ち伏せされる可能性を考えた方が良いと思いますが」

「鉄の獣相手に待ち伏せを成功させる腕があるなら、商会の子飼いなんてやってないだろ」


 ボールドウィンが口を挟むと、青羽根の整備士長が頷く。


「広範囲の正確な索敵能力、地形を問わない高速機動、こちらの攻撃が届かない距離から高威力の狙撃能力。待ち伏せを仕掛けたところで躱されるか、発見されて返り討ちだ」


 港町防衛戦で俺たちの戦いを見た青羽根の証言に、職員は半信半疑のようだ。

 俺たちと精霊獣機に関しては新聞でも報道されているはずだが、あまり信用されていないらしい。

 西側ギルドに到着して、ビスティに依頼を出してもらう。

 すぐに俺たちが依頼を受けた。青羽根も荷物を配達する依頼を受ける。


「青羽根の出発は俺たちがビスティをボルスに届けて栽培方法の特許を取ってからだ。運搬車両が点検から返ってくるまでには全部終わってるだろうけど、気は抜くなよ」


 青羽根に言い含めてから、俺はミツキと一緒に食糧などの買い出しに向かうべく、足を外に向ける。


「俺たちが買い物をする間、ビスティはここで青羽根と一緒に待っててくれ」


 ミツキと並んでギルドを出て、開拓者が利用する店を避けてガランクの住人が利用する店に向かう。

 いくつかの日持ちする食品を買い込んで、隣の書店に入り、図鑑の類を買って店を出た。


「ボルスまでのルートはどうする?」

「行きと同じ道を使いたいところだけど、東側ギルドに報告書を出した後だからな。ここは別のルートで山を一つ越えてから、行きと同じ道に合流して、ボルスに向かおう」


 いくら踏破できる道順が分かっていようと、精霊獣機の索敵能力が無ければ安全にテイザ山脈を越える事は出来ないのだから。

 テイザ山脈を越えてボルスにビスティを送り届け、道中に発見した新種の生物や魔物、生育条件の分かっていないハーブ等のテイザ山脈における生息地をボルスに登録、発見報告する。それが俺の作戦だ。

 精霊人機がテイザ山脈へ入山できない以上、テイザ山脈を越えられるのは卓越した索敵能力を持った歩兵に限られる。

 ビスティを連れているとはいえ、精霊獣機に乗る俺たちを捕捉し、なおかつ捕えるのは難しい。テイザ山脈の中ならなおさらだ。

 ボルスに先回りする事も出来ない。どんなに急いでも、テイザ山脈を越える俺たちの方が圧倒的に早く到着する。

 人違いで俺たちを襲ったのが、ラックル商会の運のつきだったというわけだ。

 無事に買い物を済ませて西側ギルドに戻り、ビスティと合流する。


「それじゃあ、出発しようか」

「よろしくお願いします」


 ビスティの手荷物を受け取り、提げ紐をディアの角に引っかける。

 わざとゆっくりとガランク貿易都市を歩き、二重の防壁を潜って外に出た。

 目の前には幅三十メートルの大街道が長く続いている。

 そこで、俺は身体強化を施した腕でビスティの襟首を掴みあげ、有無を言わせずディアの背に乗せた。


「しっかり掴まってた方がいいぞ」


 俺は笑顔で告げる。

 何が起こったか分からないという顔で自分が何に乗っているのかを見たビスティは「うわぁっ」と情けない声を上げて転がるように降りようとした。

 しかし、身体強化した俺の腕に捕まえられているビスティが降りられるはずもない。

 そうこうするうちにディアが駆け出す。

 無論、大街道を走るはずがない。

 俺は大街道を横目に横の森へディアを飛び込ませ、一気に速度を上げた。

 当然、ディアの加速度に比例して周囲の景色が高速で後ろへ流れていく。左右正面の木々が急速に迫り、次の瞬間には後ろへ遠ざかる。

 精霊獣機に慣れない騎乗者にとってのそれは、安全装置のない絶叫マシンと変わらない。


「ぎゃあああああ」


 ビスティが森に悲鳴を響かせる。枝にとまる小鳥を驚かせたビスティの悲鳴は、ドップラー効果を小鳥に及ぼしただろう。

 ディアが鳴き、パンサーが唸る。

 すぐに索敵魔術の設定を弄って、反応を探る。


「ラックル商会の連中、慌てて森の中をこっちに走ってきてるみたいだな」

「もうとっくに後ろにいるけどね。あれ、ビスティが静かになった?」


 ミツキに言われてビスティを見ると、俺の腰に腕を回してがたがた震えていた。

 もう悲鳴を上げる勇気さえないらしく、顔を俯けて高速で過ぎ去る景色を視界に入れない様にしていた。


「こ、こんなの聞いてませんよ」

「大丈夫、大丈夫、テイザ山脈に入るまでの辛抱だから」

「テイザ山脈!?」


 驚愕をあらわにしてビスティが顔を上げかけ、すぐに視線を下げる。


「テイザ山脈に行って何をするんですか!?」

「決まってる。山越えだよ。俺たち、一回テイザ山脈を越えてきてるから」

「なんでそんなむちゃくちゃな計画だって話してくれなかったんですか!?」

「反対されたくなかったから」


 唖然としたビスティの気配に苦笑して、俺は言葉を続ける。


「どうしても嫌だって言うなら、街道に沿って森を突っ切る方法もあります。時間はかかるし、追っ手も諦めずにやって来るからあまり睡眠もとれませんけどね」

「眠れないのはテイザ山脈を越える場合でも同じでしょう?」

「いや、テイザ山脈越えの場合は追っ手を考慮する必要がないし、移動時間も短くて済むから余裕を持って予定を組める。テイザ山脈を越えるなら、どんなにのんびり行っても先回りされる心配がない」


 それに魔物は人間と違って俺たちを執拗に狙ったりしないし、待ち伏せていたりもしない。


「もちろん、テイザ山脈を使わない場合でも依頼を受けた以上きちんとボルスまで送り届けるよ。日数がかかるし、途中で食料を買う必要もあるけど」


 ビスティはしばらく悩んだ後、恐る恐る周囲を見た。


「こんなに早く移動しているなら、追い付かれる心配はないんじゃ……?」

「昨日の夜、ビスティはガランクを出ようとして失敗してる。ラックル商会はビスティにまた出て行かれた時に備えて、近くの街に部下を向かわせていると思う」


 少なくとも俺ならそうする。

 ビスティは小さく「身から出た錆だった」と呟いてから、決心したように顔を上げる。


「分かりました、テイザ山脈越えでお願いします!」

「了解。二日ほどで向こうに着くから、のんびり行こう」

「のんびり行くつもりがあるなら、速度を落としてくださいよ!」

「追っ手が来てるから、引き離すまでは無理」


 俺は背後を振り返る。追っ手の姿はないが、ディアの角に弾かれて折れたり曲がったりしている枝や、パンサーの尻尾がたまたま触れてしまって切れた草の葉が続いている。

 追っ手そのものはすでに撒いたとは思うけど、精霊獣機が通った後を辿って来られると面倒だ。

 テイザ山脈に入ってしばらくするまで、俺は速度を緩めないと心に決める。

 がたがた震えているビスティを励ますためか、ミツキが後ろから声をかけてくる。


「精霊獣機にきちんと乗った人は、私とヨウ君を除くとビスティが初めてだよ。乗り心地はどう?」

「怖いです!」


 間髪を入れずに答えてから、ビスティはふと気付いたように呟く。


「きちんと、ではない乗り方なんてあるんですか?」


 ビスティの言葉で思い出す乗り方は二通りある。

 デュラの偵察依頼で素人開拓者にやったみたいにパンサーが口に咥えるとか、俺がキリーの父親にやったように角に引っかけるとか。

 ミツキが笑ってごまかす気配がした。


「なんですか、その意味深な笑い!」


 ビスティの鋭い突っ込みが入る。

 なかなか賑やかな旅になりそうだった。



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