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転生したから新世界を駆け巡ることにした  作者: 氷純
第四章  二人の世界は外界と交差する

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第一話  デュラ奪還作戦始動

 デュラ奪還作戦の開始当日、俺はミツキと共に借家を出発して港町の入り口に足を運んだ。

 他の参加者も集まっており、最終点検を行っているようだ。


「改めてみると、すごい戦力だな」


 俺は集合場所を見回す。

 開拓団〝飛蝗〟は精霊人機三機に運搬車、整備車両が各三両、歩兵人員が二百近くいる。これに加えて、デュラ周辺で先行偵察している者が五十名以上いるというから驚きだ。

 団長のマライアさんが愛機グラシアの肩に立って、周囲を睥睨している。

 開拓者ギルド登録機体の中でも一、二を争う攻撃型の精霊人機グラシアは全身に赤い遊離装甲を纏う小柄な機体だった。機体そのものの装甲は黒に近い赤で塗られており、纏っている赤い遊離装甲と合わさって威圧的だ。広域殲滅用の魔術を扱うと聞いているが、一応の武装として両手に半月状の刃がついたナックルを装着している。

 グラシアの左右には同じく飛蝗の所有する精霊人機が二機佇んでいた。一世代前の機体のようだが、あちこち改造されていて原型を特定できない。

 飛蝗から視線を転ずれば、開拓団〝回収屋〟が視界に入る。

 相変わらず細身の速度重視の精霊人機レツィア。マライアさんの愛機グラシアの真っ赤な姿を見た後だとずいぶん大人しく見える灰色の機体レツィアだが、その手に持つ大鎌は凶悪そうだ。

 いろいろと学んだ今だからこそわかるが、レツィアが纏う二重の遊離装甲は単純なようでいてかなり複雑な魔術式で維持している技術の塊だ。おそらくは回収屋が持つ独自技術だろう。

 回収屋の戦力は精霊人機レツィアともう一機、さらに整備車両と運搬車両が一台ずつ。戦闘員はおおよそ二十名。

 レツィアの肩に座ったデイトロさんが横の一団を見下ろして声をかけている。


「今のデイトロお兄さんは開拓団〝回収屋〟の団長なの! 青ジャケなんか着ないってば!」

「そいつは残念だ。また見たかったんだがな」


 涙目で言い募るデイトロさんに肩を竦めて返したのは開拓団〝竜翼の下〟団長ドランさんだ。

 竜翼の下は出発の準備を終えたらしく各員がのんびりとして、来るべく奪還作戦に向けて英気を養っている。

 防御偏重の精霊人機バッツェとガンディーロを有する竜翼の下は実力者だけあって程よい緊張感を保っていた。

 副団長のリーゼさんが今回の作戦における総指揮官であるマライアさんに準備完了の報告に走っている。


「ヨウ君、後ろ」

「……来たか」


 ミツキに言われて振り返ると、こちらに走ってくる整備車両が見えた。

 開拓団〝青羽根〟の所有する整備車両だ。精霊人機スカイは荷台に乗せられているのだろう。

 マライアさん率いる飛蝗に書類上組み込まれた青羽根は、新型機スカイの情報公開を免れて今回の作戦に参加している。

 そのため、ギルドは今回の作戦の戦果に注目しているらしい。今後青羽根に回すことのできる要請依頼の難易度を選定するためだろう。

 青羽根の整備車両が停止し、助手席から団長のボールドウィンが走ってきた。


「遅れたか!?」

「集合時間にはまだだいぶ間がある。どこの開拓団も人数が多いから点検その他の時間を多く取ってるんだよ」


 遅刻してマライアさんにどやされるのを恐れていたらしいボールドウィンがあからさまにほっとする。

 パンサーの上で本を読んでいたミツキが顔を上げた。


「到着の報告は早めに行った方が良いよ」


 ミツキがマライアさんを振り返る。

 しかし、マライアさんは報告されるまでもなく俺たちを見つけたらしく、手招いていた。

 俺はミツキと一緒にマライアさんの下へ向かう。

 精霊獣機の速度に生身のボールドウィンが追いつけるはずもなく、後ろから必死に走ってきていた。

 マライアさんの周りにはいつの間にか各開拓団の団長が集まってきていた。

 俺とミツキが精霊獣機から降りるとマライアさんは走ってくるボールドウィンに声を掛ける。


「トロいんだよ。若者なら元気よく素早く動きな!」


 肩で息をしていているボールドウィンが到着するなり、マライアさんはデュラ奪還作戦について説明してくれた。


「偵察に出した者の話では、ギガンテスが町に残り、配下のゴライアやゴブリンが度々外で餌を確保している。縄張りは拡大傾向だが、餌を取りに出た魔物の小集団は互いに連絡を取ろうとしていない」


 マライアさんが広げたデュラの周辺地図には赤い線で人型魔物の縄張りが描かれている。

 いくつかある周辺の村も、人型魔物に襲撃される前に避難が完了しているらしい。


「あたしらの仕事は人型魔物の殲滅と、デュラの奪還だ。しかし相手の数がかなり多い。そこで、縄張り内を徘徊しているゴライアやゴブリンを各個撃破、人型魔物の総数を減らした上でデュラへ攻勢をかける。鉄の獣、回収屋、そしてうちの戦闘員がこの役割だ。他はあたしらと一緒にデュラでギガンテスと小競り合いでもしてもらおうかね」


 餌を取りに出たゴライアたちが帰ってこない事を不審に思ったギガンテスがデュラから出てきたところを闇討ちしていく作戦らしい。

 マライアさんが愛機グラシアを振り仰ぐ。


「こいつでデュラごと焼き払っちまえばすぐなんだが、そうもいかないからね」

「当たり前だよ。姉御、そんなんだから飛蝗なんてあだ名がつくんだ」


 額を抑えるデイトロさんに、マライアさんが笑う。


「特徴を捉えた良いあだ名じゃないか。付けた奴には感謝してるんだけど、いつまで経っても名乗り出やしない。ジャケットも用意してるのにね」


 どんな恥ずかしがり屋だろうね、と笑うマライアさん。

 多分、怯えているのとジャケットを無理やり押し付けられる予感から名乗り出ないんだと思うけど、俺は口を開かないでおいた。

 ちなみに、書類上とはいえ飛蝗に組み込まれた青羽根にもジャケットが渡されているらしい。当然というべきか、ボールドウィンを始め誰も着ていなかった。

 マライアさんが俺とミツキに視線を向ける。


「大型魔物と遭遇したら回収屋に合流して片付けな」

「デイトロさんって大型魔物の討伐数が少ないですよね。大丈夫なんですか?」


 不安に思って訊ねると、デイトロさんは苦笑した。


「少ないだけさ。回収屋なんてやってると、大型魔物と戦闘する意味がないからね」


 戦おうと思えば十分戦えるらしい。

 まぁ、いざとなれば完成したばかりのカノン・ディアもある。討伐できなくても撤退くらいは十分可能だ。


「鉄の獣、後はデイトロと打ち合わせな」


 役割分担に従って、デイトロさんや飛蝗の戦闘部隊の隊長と集まった。

 遊撃組としてのメンバーは回収屋と飛蝗の戦闘部隊約三十名、そして俺とミツキだが、すぐに二手に分かれることが決まった。


「アカタガワ君たちの速度を殺すくらいなら、二手に分かれた方が良いからね」


 精霊獣機の機動力を知るデイトロさんがそう言って、地図を広げる。


「車両を持っているデイトロお兄さんや飛蝗の戦闘部隊だと森を抜けるのが難しい。アカタガワ君とホウアサちゃんならその点、森の中の魔物を一方的に襲撃できるだろう?」

「開けた場所で戦うよりも森の中の方が俺たちは楽ですね」


 人型魔物は手が使えて器用な反面、二足歩行の関係上速度はそれほどでもない。

 木々が天然の盾となり投擲を防いでくれる森の中であれば、精霊獣機で一方的に襲撃することも可能だ。

 特に、鬱蒼とした森の中ではギガンテスやゴライアの動きがかなり制限される。以前、森の中のゴライアを狙撃して倒したこともあった。


「ゴブリンに囲まれても私のパンサーで切り抜けられるからね。新兵器もあるし」

「森の中でパンサーの新兵器をぶっ放す気か?」

「囲まれた時にね」


 まぁ、乱戦時に活躍する兵装ではあるんだけど。

 俺はため息を吐いて、飛蝗の戦闘部隊長に声を掛ける。


「味方を誤射しない様に、定期的に位置を確認し合いましょう。それと、俺やミツキを見かけても近付かないようにお願いします。パンサーの射程に入ると最悪、死にますから」

「うちのパンサーは物騒だからね」


 乗り手のミツキが言うんだから間違いないな。

 ちなみにディアの射程に入らないように注意は出来ない。カノン・ディアの射程を考えたら、俺たちを見つけた時点で射程範囲内だ。肉眼ではなく双眼鏡などを使っていたとしても同じこと。

 うちのディアも物騒だからな。

 一人頷いていると、ミツキがくすくす笑う。


「私たちは要注意人物って事で、しっかり逃げてくださいね」


 ミツキが念を押すと、飛蝗の戦闘部隊長は困惑顔で頭を掻いた。


「おかしなやつらだとは聞いてたけど、姉御や兄貴とは毛色の違ったおかしさだな」

「――待ってくれ。このデイトロお兄さんが姉御と同類扱いされたように聞こえたよ?」


 デイトロさんが口を挟んでくるが、今は作戦会議中だ、と部隊長は取り合わない。


「とりあえず、速度差を考えて二手に分かれるのはいいとして、担当を決めよう。今日の俺たちは先行して姉御たち奪還組の野営地を確保するのが第一目標になる。まずはこの村だな」


 部隊長が地図上の村を指差す。


「すでに村人は避難した後と聞いてますけど、野営地として使う許可は取ったんですか?」

「ギルド経由で許可を取ってある。人口二百人ほどの村だったらしい。家の使用許可は取れなかったが、集会場や教会の使用は許されている」

「教会かぁ。精霊教会だよね、それ」


 デイトロさんが気乗りしない様子でため息を吐く。

 デュラでの回収依頼に同行した際、胸の大きなけしからんお姉さんが精霊教会を嫌っていた事を思い出す。


「何か嫌な思い出でもあるんですか?」

「村に精霊教徒が乗り込んできたことがあってね。バランド・ラート博士を出せって言ってさ。もう村を出発した後だったから事なきを得たんだけど、あの横柄な態度を思い出すと精霊教会と聞くだけで少し色眼鏡で見ちゃうね。温和なデイトロお兄さんも怒る時は怒るんだよ」


 姉御の方が先に怒るけど、と付け足してデイトロさんはため息を吐いた。怒ったマライアさんが暴れた後の片づけをするデイトロさんの姿が容易に想像できて、俺はデイトロさんの肩をたたいて慰めた。

 ミツキが俺の耳に口を寄せる。


「バランド・ラート博士を殺した容疑者も精霊教徒だったけど、生前からかなりしつこく追い掛け回されてたのかな?」

「そうみたいだな。しかし立ち寄った村にまで手が回るとなると、研究資料が教会に渡ってそうだ。俺たちの転生が人為的なものなら、研究資料に書かれている可能性もある」

「この世界に転生者がいるっていう情報が拡散しているかもってこと?」


 ミツキの不安そうな疑問に頷きを返す。

 いまさらながら、ディアにパンサー、果てはスカイや関連特許など、悪目立ちしすぎたかもしれない。


「私はヨウ君と出会う前に銃の開発をしているから、結局は同じだよ。バランド・ラート博士にもそれで嗅ぎつけられていたみたいだし」

「それもそうか……あ」

「どうかした?」


 不思議そうに尋ねてくるミツキに、俺は記憶を掘り起こしながら言葉を返す。


「俺が目撃した容疑者、ウィルサムは現場を立ち去る時に革のスーツケースを持っていた」

「……バランド・ラート博士の研究資料が入った革のスーツケースだったり、する?」


 そこまでは分からない。分からないが……。


「仮に研究資料が入っていたとしたら、バランド・ラート博士が転生者であるミツキを見つけた事を資料に残している可能性もある」


 俺が到着した当日にギガンテスたち人型魔物にデュラは陥落したが、もしも陥落していなかったとしたらどうなっていたのだろう。

 背筋にぞわぞわと嫌な予感を覚えて、俺は考えを振り払うため頭を振った。


「いまはデュラ奪還作戦に集中した方が良い。いままで何もなかった以上、すぐに状況が変わる事はないだろう」

「そう思いたいね」


 俺たちはデイトロさんたちに向き直り、いくらか打ち合わせた後、マライアさん達デュラ奪還組に先行する形で町を出発した。



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