ルチル
カラ……ッ
コロ……ッ
アーダン老の放った言葉に静まり返る会議室。
奇妙な音が響く。
それは会議のあいだ中微かに聴こえてはいた。聴こえてはいたが皆が無視していた音だった。
今、その無視されていた音の主を皆が注目している。
ぶっっ!
と、ルチルの口から何かが勢いよく吐き出され、卓上を跳ねる。
それは飴玉より大きな石だった。
「……そぉ。疑惑だけでも駄目なら、貴女は完全に継承権を失ったわエレクトラ」
口から石を吐き出した後、ルチルは流暢に言葉を紡ぐ。
「……なにしろクリスタを殺したのは貴女ですものね」
「な!?ルチル、貴女……」
妹がまともに話せる、その驚愕に目を見開いたエレクトラの視界に映るのはルチルの浮かべる冷笑。
「連れてきなさい」
傍らの侍女にルチルは命令を下す。
ややあって連れて来られたのは、エレクトラ付きの侍女。両側を近衛兵に抑えられ一堂の許に引き出された。
「細作の腕は悪くなかったみたいだけど、王宮で暗躍するには慎重さに欠けたわね」
「ぐっ……は、放せ」
いまだ逃亡をはかろうと『侍女』はもがくが、近衛兵に足をかけられその場に倒されてしまう。こうなっては逃げようがない。
「これはこの者が持っていた薬包でございます。調査の結果、ルチル殿下・クリスタ殿下に盛られた毒と判明しました」
くしゃりと握り潰された紙くずを、ルチル付きの侍女が一堂の卓上に置く。
「それから、これはエレクトラ殿下の宝石箱でございます。二重底になっており、同じ薬包が入っておりました」
彼女の後を継いでアーダン老が口を開いた。
「この毒薬を仕入れた商人も押さえており申す」
「……そういうわけで、暗殺指示を出した貴女には継承権争いから外れてもらうわ。元々エンドラ王国に輿入れする予定だったんですもの、要らないでしょ?継承権」
ルチルの冷ややかな眼差しにエレクトラは青冷めながら呟いた。
「まさか……あの時毒を飲まなかった?今までずっと演技を」
「あら、飲んだわよ貴女の毒。乾杯のグラスだったわよね?……ただ前もって毒消しは用意していたけど」
エレクトラの視線がルチルからアーダン老へ移る。
アーダンは王宮の魔導師・文官を束ねている重鎮。つまりは王宮の暗部をも握っている男だ。
そんな男が孫のルチルを護らないわけがない。
「でもまさかクリスタのお祝いに毒を盛るなんて『私の時』と同じじゃない。少しは工夫すべきだったわ」
ルチルが云い終わると同時に近衛兵が入室してくる。
囲まれたエレクトラは、近衛兵らを一瞥すると静かに云った。
「自分で歩けるわ『介添え』は不用よ」
後日の事である。
護衛の兵が並ぶなか、王宮を前にルチルとエレクトラが向かい合っていた。
「……ではご機嫌よう、エレクトラ姉上」
「してやられたわルチル。この借りは返すわよ、必ずね」
「せいぜい足掻くといいわ、きっと貴女のことだからエンドラの王太子をたぶらかすつもりでしょうけど」
「……既に手は打っている、というわけ?なんとかしてみせるわ」
エレクトラはそう云うと、馬車に乗り込んだ。
これからエレクトラはエンドラの老王の許へ向かう。
馬車の扉に鍵をかけたルチルは、御者にではなく護衛の部隊長へ渡した。
「エンドラの王城に着くまで開けないこと」
護衛部隊が進んでいく。
内情を知る者には輿入れの行列ではなく囚人の護送に見えた事だろう。
エレクトラは借りを返すと謂った。
数年後、数十年後エレクトラはエンドラ軍を率いて攻めてくるかもしれない。
「その時を楽しみにしていますわ姉上」




