15話 家のダンジョン
とうとう来ました、初ダンジョン突入の日(家のダンジョン限定)。チョット寝不足気味かな。ま、大丈夫。
取りあえず地下に降りて先ず、『転移』のための集合練習を行った。
緊急の場合、『転移』で逃げるには俺に接触している必要がある。だから、その為の練習だ。
「集合!」
かけ声と共に碧は俺の肩に手を掛け、ぺんぺんは左足に全身で抱きついた。
「OK~、こんな感じか?」
「良いんじゃない? 取りあえずプロテクター越しでも良いのは助かるよね。生身に接触しなくゃならなかったら面倒だから」
『転移』スキルは、プロテクター越しだろうが、服の上からだろうが、接触さえしていけば転移出来る。これは何度も試しているから間違いない。
結構助かる設定だ。
……
「で、ぺんぺん、お前は何をしてる?」
先程足にしがみついた状態から、何故か、よじよじと爪を立てて俺の身体を登ってくる。
腰の辺りから背中側に回ると、リュックをよじよじしたまま肩まで上がりきった。耳元で「むふぅー」と息を吐き出す音が聞こえた。
「えっと、その位置で参加したいの?」
ペン
……そうらしい。
「いや、危ないぞ、俺も魔法だけ使う訳じゃ無いからな」
ペンペン
また頬を叩かれた、今度は2回。
「大丈夫じゃない? ダンジョンに入れば『空歩』も使えるから、おっこっても大丈夫よね」
今度は一発、ペンと叩かれた。
……まあ、『空歩』が有るから空中を歩けるけどさ、アレって、2歩でHP1消費するんだぞ今のスタミナ値だと。HP30のぺんぺんには多用はさせたくないんだけどな。
まあ、無理があったら降りるか、なんせ、デフォで知力9だからな。
「分かったよ、危ないようだったら直ぐに降りるんだぞ。…んじゃ、行くか、準備は良いな?」
「あ、待って待って、スキル取るから」
いきなりそんな事を言うと、碧は水晶柱に手を掛け、操作を始めた。
「オイこら、スキルって何を取る気だよ。『鑑定』だよな!、『鑑定』を取るんだよな!」
だが、即座に操作を終えた碧は、俺の方を振り返って、にへらぁ~っと笑う。こ、こいつ、絶対『鑑定』以外のスキルを取ったな…
「『ステップ』取ったど~♪」
……『ステップ』か、まあ、まだ良いか、『ステップ』は移動系スキルに属していて、その上に『瞬歩』、『縮地』、『空歩』など同系統を多く有するスキルだ。
能力としては、前後左右360°に2メートルの範囲でその時点の2倍の速度で移動できるというものだ。
試しに実行させると、現状のスタミナ10の状態で、1回ごとにHPが-2と成るようだ。
「使いすぎると危ないから、考えて使えよ。随時HPには気を配ってな。あ、ぺんぺんもそうだからな」
「だ~い丈夫、大丈夫! レベル4にしたから、HP40だよ。10回連続は余裕だね」
こいつは、また相談無しで……
「だから、かってにすんなって! パラメーターアップ以外は相談しろっての!」
しばらく文句を言ったが、馬耳東風状態だ。やはり、手綱は握れそうにない… 黒王号に手綱は無理だ。
結局、微妙に変更があって、現在のステータスはこうなった。
・氏名 鴻池 稔
・年齢 20歳
・Level 3
・生命力 30
・魔力量 30
・スタミナ 14
・筋力 14
・知力 14
・素早さ 13
・魔法 転移・サンダー・ボール
・スキル マップ
・経験値 0
次回UPに必要な値(パラメーター) 303
次回修得に必要な値(魔法・スキル) 33
・氏名 鴻池 碧
・年齢 17歳
・Level 4
・生命力 40
・魔力量 40
・スタミナ 10
・筋力 14
・知力 13
・素早さ 20+3(疾風のネックレス)
・魔法 錬金術 ファイアー・ボール
・スキル ステップ
・経験値 144
次回UPに必要な値(パラメーター) 897
次回修得に必要な値(魔法・スキル) 33
・氏名 鴻池 ぺんぺん
・年齢 0歳
・Level 3
・生命力 30
・魔力量 30
・スタミナ 05
・筋力 05
・知力 09
・素早さ 06
・魔法 アイス・ボール
・スキル 空歩
・経験値 2
次回UPに必要な値(パラメーター) 24
次回修得に必要な値(魔法・スキル) 9
見て分かるとおり、碧のパラメーターアップに必要な値が半端ないことに成っている。
もう直ぐ4桁に突入するのは間違いない。
ちなみに、この必要経験値の増加分は、現在の値が5の倍数ならそれを5で割った値、そうで無ければ5の倍数に増やした状態で5で割った値となっている。
つまり、30だったら30÷5=6で、次回は36が必要となる。37だったら、40÷5=8、次は48と成る訳だ。無論、他系統を取った場合は元の値が3倍になる。
当然、今の碧の897の場合は、900÷5=180、つまり次は1167と成る訳だ。確実に4桁。
レベル6のモンスターを相手にするとしたら、195匹は殺さないとポイントに届かないことになる。システムの罠にどっぷりとはまりだしているんだと思う。
こう言う場合は、先にレベルを上げて、魔法やスキルを入手する方向で行くべきだろうな。もちろん別系統は無しで。
今後の成長方針を本気で詰めなきゃな。言う事聞かないけどさ…
「色々言いたいことは有るけど、ま、それはそれとして、とにかく気を付けていくぞ」
そう言って、俺達は設置後初めてワイヤーネットのカラビナを外し、中央部分の通路を開けて内部へと入った。
「碧、監視よろしく」
俺は碧にダンジョン側を監視させている間に、外したカラビナをワイヤーネットの隙間から手を入れて固定し直す。
俺達がいない間に地下室側まで行かれたらマズいので、開けっ放しにする訳にはいかない。
カラビナのロックも、キツく成りすぎない程度に締めておく。
コボルドやオークと言った、ある程度知能があり手先が器用なモンスターに開けられないように、フック型ではなくねじで止めるカラビナにしてある。
「良しOK、じゃあ行くか、『マッピング』」
俺は『マップ』のスキルを起動する。これは、1時間の間移動した道程を記録するスキルだ。
マップは頭の中に表示され、意識するだけで見ることが出来る。ただ、これを実行している間は脳の処理速度の一部がそれに使用される為、動体視力などに多少影響が出てしまう。
これを緩和するのは『知力』のパラメーターを上げることだ。『知力』は大事なんだよ。『知力』を上げたのはこの意味が有るからなんだよ!
あと、このマップは、右手のホログラムスクリーンにも表示出来る。つまり他の者にも見せることが出来るって事だ。
でも、なんか変な感じなんだよ。頭の片隅にマップが有るって。ある種の偏頭痛に似てるかな? もちろん痛みは無くって、頭の一部に違和感がある感じ。
この『マップ』スキルのHP消費量は現状で-5だった。ただ、1時間で-5なので、その間に十分自然回復する。
そうそう、HPの自然回復だが、スタミナ値で変わることはない。スタミナ値はあくまでスキル使用時の値を減らす効果だ。
実際、この自然回復量に関わって来るのはレベルで、レベルが高ければ高い程一定時間に自然回復する値は高くなる。
ただ、この自然回復量は、その際の身体の状態で変化する。ケガをしていればその度合いによって少なくなり、一定以上で回復しなくなる。
まあ、常識で考えれば当たり前って事ではあるんだよな。閑話休題
俺達は15メートルの狭い洞窟は一列で移動し、広くなった所で横に並ぶ。
このダンジョンは『大阪ダンジョン』と全く違い、鍾乳洞の様相を呈していた。
広さは左右5メートルはあり、高さも同じぐらい有るのだが、地面は平らでは無く、方々に岩や石筍が有り、天上からは鍾乳石が垂れ下がっている。
だが、鍾乳洞に有りがちな『水』が存在しない。通常鍾乳石は、水で溶け出した石灰分が固まって出来るので、逆説的には水が無い所には出来得ない訳だ。
無論、出来た後水が涸れるケースは有るだろうが。まあ、ここは『ダンジョン』なんだから、常識で考えても意味は無いか。
「ほえ~~、結構綺麗だね」
碧はキョロキョロと天上や壁を見回している。俺も似たような状態だ。
こんな状況で唯一冷静だったものが居た。ぺんぺんだ。
ペンペンペンペン
突然左頬をペンペンされて驚くが、直ぐに意味を察して碧に声を掛ける。
「モンスターだ」
「おっ来ました~♪」
碧は右手に包丁槍を構えると、お気楽な声を出した。
こいつは、どんだけ余裕があるんだよ。
俺も包丁槍を構え、30メートル程先に有る岩陰を見る。そこに居たのはタイガー・スパイダーだった。
ワイヤーネットを設置する際、対峙したのもタイガー・スパイダーだったから、直接対峙は2回目だ。有る意味縁があるのかな?
「来た来た、200円♪」
何時ものように、名称では無く魔石代で呼称する碧だ。
「一匹だな、一匹ならぺんぺんに任そうか」
「了解、ぺんぺんはまだまだパラメーター伸ばせるもんね」
おお、碧の分際でちゃんと理解してるじゃ無いか、…何故、その思考が自分の事には出来ないんだよ…まったく。
そんな事を考えている間に、俺の左前方に野球ボール程の水球が発生し、20メートル程の距離に近づいていたタイガー・スパイダーに向かって放たれる。
放たれた水球は、ど真ん中とまでは行かなかったが、タイガー・スパイダーの顔右部分にぶつかり、一瞬で白い冷気を伴う液体窒素のように成る。
そして、タイガー・スパイダーの前半分は完全に氷結し、自重で前足4本が折れる。
前足が折れた為に前方に倒れ込んだタイガー・スパイダーは、顔の部分が地面にぶつかった時点でその部分にヒビが入り、それを期に黒い靄と成って消えた。
「おおっ、一撃だね」
「死亡判定も速いな、ま、倒れて頭が割れたからって事か?」
俺は左手で左肩のぺんぺんを撫でようと思ったが、ごつ目の手袋をしているので止めておいた。
「ってもう次来た、クズ来たよクズ」
イエロー・キャタピラーだ。器用に岩や石筍を避けながらタイヤのように転がってくる。
ただ、その為に速度ほとんど出ていない。
「今度私行くよ!」
そう宣言した碧は、一気にダッシュすると、イエロー・キャタピラーが横向きになっている瞬間を狙って側面を突き刺した。
包丁槍が刺さったイエロー・キャタピラーは、芋虫状態に伸びると、そのまま痙攣して動かなくなる。
碧の包丁槍は頭部を貫いていた。
アノ転がってい状態で、頭部を狙う余裕が有ったらしい。こいつは、どれだけ冷静なんだよ。
離れすぎるとマズいので、俺も直ぐに碧の元へと向かう。その間にイエロー・キャタピラーは黒い靄と成って消えていた。
初っ端としては良い感じかも知れない。
後は、分岐が有った後の前後の警戒だな。『気配察知』スキルが欲しい。でもあれレベル15制限なんだよな… 先にレベル上げするか?
次に出て来たのは同じくイエロー・キャタピラー、ただし2匹だ。
今度は俺がサンダー・ボール2連打で止めを刺した。
「こんな感じで焦らず行くからな。今日は特に慎重にな」
「ほいほい、了解だよ」
軽い、軽すぎる。でも、実際の戦闘を見るとかなり冷静なのは見て取れる。大丈夫そうでは有るんだよな。まあしばらくは、様子見だ。
ダンジョン内は、飛び出た岩や、石筍などで、見通しはあまり良くない。その為、岩陰などもかなり警戒を要する。
ここは、『大阪ダンジョン』より難易度は高そうだ。あそこはほぼ四角い通路だったからな。
俺達は手分けして周囲の確認をしながら進む。
漫画や小説のように、犬が無条件で敵を察知するなんて事は現実にはある訳は無く、まして、生後1ヶ月弱のぺんぺんにそんなマネが出来る訳も無い。
それでも、大きなつらら石の裏に隠れていたジャイアント・バットは見つけてくれた。
そして、ジャイアント・バットが飛び立とうとした瞬間には、アイス・ボールをぶつける。
アイス・ボールが直撃したジャイアント・バットは落下と共に身体の半分以上が凍った状態でバラバラに砕け散り、一瞬で黒い靄と化した。
ダンジョンに侵入して、15分程経った。この時点である程度は慣れたんじゃないかと思う。
俺も、この当たりからMPの消費を抑える方向で行動しようと思う。
そして、集団で現れるモンスター以外は、出来るだけ包丁槍を使用し、ダンジョン内での直接戦闘にも慣れるようにする。
ちなみに、ぺんぺんは未だに俺の左肩の上にいる。何故かピッタリへばり付いて落ちない。
最初は気を使って動いていたんだが、徐々に気にせず動くようになった。それでも落ちない。吸盤でも有るのかよ、と言いたくなる。
まあ、ぺんぺんの現在のステータスで動き回るよりは、俺にへばり付いていた方が移動は速いし、直接攻撃の手段を実質持たないことも有って、固定砲台と考えれば今の状態で良いのかも知れない。
しっかし、お前は九十九さんちのシャモンか、と言いたい。あっちは猫だからまだ分からんでもないんだが…
そして、15匹固まっていたエッジ・ラットを全員の魔法で殲滅し、進んだ先に初めての『部屋』が有った。
「ここが『部屋』? でも『宝箱』無いよ」
「『宝箱』はそうそう無いの! この間の『大阪ダンジョン』は奇跡! 普通はこんな入り口に近い所には無いから」
「ざ~ん念。もっと奥?」
「もっともっともっと奥!」
「まじか~」
マジなんだよ。無論、それまでにも出現する可能性は有るけど、圧倒的に少ないから無いのと同意だ。
と、俺は思ってたし、それが一般でのダンジョンの常識だった。でも、そうじゃない事をその日には実感することになった。
だって、宝箱を3個もその日のうちに見つけたんだから…
一個目は、最初の『部屋』から20分程移動した所にあった『部屋』に有った。
「お兄ーの嘘つきー! 有るじゃん、『宝箱』」
碧に罵倒されたが、実際有った。今回は、包丁槍で突く事でミミック判定を行ってから中を見ると、銅の塊が入っていた。
野球のボール程の銅塊だ。鉄よりは高いし、初めての入手物なので記念の意味も有って重くても持ち帰ることにする。俺のリュックの中だ。
マジックバッグが欲しい。発見されたって話は聞かないけど… 切実に欲しい。
そして、その後、連続して2ヶ所の『部屋』で『宝箱』が発見された。入手したものはナイフと低級回復薬だった。
最初の銅塊は外れだが、後の2つは当たりだ。とくに低級回復薬はありがたい。売っても2万は堅いし、何よりいざダンジョンでケガをした際には非常に心強い。
「で、お兄ー、言い訳は?」
3ヶ所目の『宝箱』が有った『部屋』だ。低級回復薬を取りだした後『宝箱』はモンスターと同様に消えている。
2個目の『宝箱』が発見された時点で考えたことが有る。それが事実なら嬉しい誤算ではあるんだが……。
「あのな、可能性の話なんで確実じゃ無いけど、もしかしたら、最初だからそうなのかも知れない」
俺は、自分が考えた可能性を話した。
それは、『宝箱』もモンスター同様『湧いて出る』。と成れば、ダンジョン爆発が発生するような状況であれば、モンスター密度が上がるように『宝箱』の密度も上がるのかも知れない。特にダンジョン発生直後は。
そして、そのダンジョンに最初に入った者、たいていの場合は軍は、その宝箱を得ていたのかも知れない。
現在の『宝箱』出現率に関しては、民間が入る様になった後に検証されたモノで、最初の状態はデータは入っていない。
当初の状態は軍機の名の下にほとんど概要しか公開されていないから、実は『宝箱』が大量に有りました、って事もあり得る。
なんたって、当初は『宝箱』の存在自体秘密にされていたのだから…
一般公開後、その件についてはあえて伏せられた可能性がある。なぜならば、最初に入って大量の『宝箱』を独占したと誹られる可能性が有るからだ。
「……何かあり得るね。民間が入るまで自衛隊ですら『宝箱』の事公開しなかったもんね」
「だろう」
「それっぽい。……って事は、私たち、宝箱取り放題?」
「取り放題かどうかは分からないけど、初めて入る『部屋』に『宝箱』が有る確率はかなり高いと思うよ」
「おおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!! 夢と希望がざっくざくだぁぁぁ!!!」
現金な夢と希望だな……。
ともあれ、魔石以上の現金収入が得られる可能性が高くなったのは確かだ。
場合によっては3ヶ月もあれば、今までの出費をまかなえる可能性も有る。
まあ、そこまで都合良く行くとは限らないし、死んだら終わりなんだけどね。
希望は持ってみるか。
「『宝箱」を見つけて、風呂用ガス湯沸かし器を買うぞぉぉぉぉ!!!」
碧はガス湯沸かし器が欲しいらしい。風呂焚き、大変だからな。




