六十七話 超絶急展開スワッピング(1/2)
皆で海に遊びに行ってから一週間は経っただろうか。繭奈と貝崎はいつの間にかすっかり仲良くなっていたようで、連絡を取っていたようだ。
だからいつの間にか、俺と茂の与り知らぬところで "とある話" が進んでいたらしい。それも結構ビックリする話が。
俺と貝崎はホテルの一室に二人で入り、緊張をしたまま部屋のソファに座る。今は繭奈と茂が二人でいるのか……なんか変な気持ちになってくるな。冬夏だってまだここまでやっていないんだぞ。
「緊張してる?」
「当たり前でしょ、貝崎さんはしてない?」
俺の左隣に座っている貝崎の問いかけに、俺も同じ質問を返す。彼女は微笑んでいるが、それは余裕から来るものなのか、それとも緊張を誤魔化すためなのかは判らない。
だがその答えは、意外とすぐに返ってきた。
「まさか。いくら私が提案したとはいえ、今から浮気エッチするわけでしょ?興味はあるけど、さすがにするって。でも、シゲくんが白雪さんとこれからするって考えると、なんか胸が苦しくなる。でも、少しだけ身体が……変に疼くっていうか」
「あぁ……そういうことね。まぁ、悔しいけど分かっちゃうな。その気持ち」
自分の好きな人が他の男に抱かれるというのはあまり気分の良いことではない。
だけど、変な話かもしれないが、何故かそれを考えると苦しさと興奮が同時に現れるんだ。
たしかに創作物には、NTRモノが一大ジャンルとして存在しているが、まさか現実にも似たようなことがあるなんて思わなかった。俺たちの場合、スワッピングと言った方が正しいかもしれないが。
そしてだからこそ、色々と想像してしまう。
見えない構図というやつだろうか、想像を掻き立てられて仕方ない。
「アハッ、意外と乗り気かな♪」
「そのつもりはないんだけどね」
心と体は必ずしもイコールではないのだろう。
俺の大きくなったアレをズボン越しに見た貝崎が、少し嬉しそうに笑う。俺の微かな抵抗はその用を成さず、彼女はゆっくりと首に腕を回してきた。
「少なくとも、身体は正直だよね。興奮してるなら、私で沢山発散してよ。私も龍彦くんでスるからさ♪」
俺に対して貝崎は非常に乗り気だった。そんな彼女の唐突な名前呼びに面食らってしまう。
驚き困惑してなにも言えない俺に、少し間を空けて彼女は続けた。
「──ねぇ、今から名前で呼び合おうよ。私の事、タカネって呼んで?龍彦くん」
抱きついた貝崎が吐息混じりに耳元でそう囁く。まるで誘惑するように、より興奮を誘うように。
赤く染った頬とトロンとした瞳は、あまりに暴力的に見えた。
「タカネ」
「ふふっ、嬉しい♪」
俺の名前呼びに喜んだタカネは、そのまま唇を重ねてきた。
これが俺たちの合図であることは、言うまでもない。
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龍彦くんは貝崎さんと同じ部屋にいる。
対する私は彼の友人である蓮くんと同じ部屋だ。
まさか一晩だけとはいえ、互いの恋人を交換するなんて……そう思った。でも、頷いてしまった身としては、それに文句を言えないだろう。少なくとも私はできない。
胸中にあるのは少しばかりの緊張と後悔、そして少し不安と不快感、最後に言い知れぬ感情であった。
緊張は不安を、後悔は不快感を携えて現れたものの、何故か形容しがたい感情があった。
好きな人が、他の異性に抱かれているという事実に、胸が締め付けられるようになる。けれど、同時に身体が疼いてもしまう。ほんの少しだけ。
何かいけない扉を開いてしまいそうだと思うと、わずかながらの恐怖も頭角を現し始めた。
年頃の男女が二人でホテルの一室に入ったというのに、互いに緊張しているためか沈黙がこの場を支配していた。
そのまま時間が過ぎても良いかななんて、そんな卑怯な考えをした私にようやく彼が口を開いた。
「えっと、白雪さん?」
「なにかしら?」
やっと口を開いたかと思えば、蓮くんは伺うように声をかけてくる。
「白雪さんは、緊張してない?俺は結構してるんだけどさ……」
「してるわよ。当たり前じゃない」
何故か蓮くんは当たり前の質問をしてきた。
この状況で緊張しないという人がいるとすれば、その人はかなり軽い性格だろう。
少なくとも、私にその質はない。
「そうか……なんか、いつも通りに見えたから、意外と余裕なのかなって……」
「失礼ね、私は龍彦くん以外に抱かれたことはないわ……ずっとそのつもりだったくらいだし」
思わず愛しの龍彦くんについて、思い切り語りそうになってしまった。けれど、今はそんな場じゃないとグッとこらえる。
いつか語っても良いかもとは思うけれどね。龍彦くんに早く会いたいな。
「だよな。俺もまさか、こんな事になるなんて夢にも思わなかったよ」
「そう……ね」
苦笑して語る蓮くんに返す言葉が思い浮かばず、ただ私はゆっくりと頷いた。そうして再び訪れる。
ふと彼のアソコに視線を向けると、ズボンの中から " ナニカ " が突き出ていた……まぁ、ナニとわざわざ言うことでもないけれど。
「なぁ……今だけさ、俺たち名前で呼び合わないか?白雪さんが俺の事をシゲルって呼んでさ、俺も白雪さんのこと名前で呼ぶから……ダメかな?」
たしかに、今からすることを考えれば、堅苦しいすぎるのも考えすぎだろう。蓮くんの主張は尤もだ。
俯いてそう逡巡している私の沈黙を、彼は否定と認識したのか あはは…と力無く笑った。
「そうね。もちろん今だけだけど、そうすることにするわね、シゲルくん」
やっと口を開いた私に彼は嬉しそうに顔を上げた。意外と彼も私と同じように不安なのかもしれない。
「あっ、ありがとう!しらゆっ──繭奈さん!」
名前を呼ぼうとして一瞬噛みつつも、シゲルは名前を呼んできた。
今から私は、彼と行為をするのだ。




