六十四話 告美のコンプレックス
日焼け止めを塗り終えた俺たちは、各々別れて好きに泳ぐことにした。茂と貝崎は相変わらず二人でいるとして、繭奈も今日は冬夏と二人でいるようだ。
昨日は独占したから、告美たちに譲るということらしい。まぁ昨日は夜も楽しんだからなぁ……
告美も麗凪それを断ることなく喜んで受け入れたわけであるが、一緒に海で泳ぐくらいしかやることないだろうに、不思議なものである。まぁ嫌ではないので、全然構わないのだが。
ちなみに、告美は運動が好きな子であるから分かるのだが、意外にも麗凪は水泳が得意らしい。
そのため、二人とも浮き輪はいらないらしく、レンタルをしてこなかった。
麗凪曰く水泳自体は好きなのだが、その他運動はなぜか得意ではないのだとか。まぁ人それぞれだよね。
それは良いのだが、水の中で二人して距離が近すぎる。はしゃいでいるのか抱き着いてくるために、柔らかい物がすごく気になって仕方ないのだ。
三人で好きに泳いでは、その勢いで抱き着いてくる。俺としてはちょっと控えて欲しい気持ちもあるが、この楽しい雰囲気に水を差すのは憚られた。
特に不愉快というわけでもないから、わざわざ拒絶するのもちょっと可哀相かなとも思ってしまうのだ。
「ふふっ、龍彦くんはおっぱい好きかしら?」
「えっ」
「麗凪、なにいってるの?」
足が着くくらいの深さの地点まで戻ってきた麗凪が、俺の腕を抱きながらそんなことを聞いてきた。そんな問いかけに困惑していると、告美が低い声で麗凪に詰め寄った。
そういえば、告美の胸は……
「龍彦くんはいったいどこを見てるのかな?ねぇ、なにが言いたいかな?」
「いや別に、ちょっと気になっただけだよ」
今まで特に気にしていなかったが、告美の胸はAもないくらい小さい。触れれば柔らかい感触があるものの、力を入れたら実は胸筋でしたと言われても驚かないぞ。
そんなことを考えながら、彼女のソレについつい目をやってしまったせいで睨まれてしまった。
「そういえばさ、胸って揉むと大きくなるって言うよね。そんなに大きいのが良いなら揉めば?龍彦くんなら良いよ?ほら、ねぇ大きいのが良いんでしょ大きくして」
「やめなさいこんな外で」
なにを勘違いしたのか、告美が胸を張ってぐいぐいと押し付けてくる。すごい、全然嬉しくない。
嫌でもないが、わざわざ揉むほどでもないんよなぁ。あくまでここは外で、公共の場なのだ。もし人に聞かれたら気まずいことこの上ない。
「もしかして遠慮してるの?龍彦くんって意外とむっつりさんなんだね。でもそんな龍彦くんも可愛くて良いと思うよ」
「いやそうじゃなくてね」
「ほらほら、龍彦くんが困ってわよ告美。別に大きいのが良いとか言ってなかったじゃない」
さっきからずっとネジが外れ気味の告美に困っていると、麗凪が助け船を出してくれた。しかし、告美は つーんとしている。
「良いよね麗凪は大きくて。羨ましーなーあーいいなー」
「なんでいじけてるのよ」
いつまでこんな話題を続けるつもりなのだろうか、麗凪もいい加減困ってしまっている。実はコンプレックスだったのかもしれないが、とはいえどうすれば良いのやら、俺にゃー分からん。
「別に大きさだけで告美の良さは測れないだろ。大きければ良いとかってのは、誰かが勝手に決めた価値観なんであって、俺たちには関係ないよ。告美は可愛いんだから、胸で勝負しなくたって良いんだよ」
そう言って告美の頭にそっと手を添えると、彼女は そっかと微笑んだ。気を取り直してくれたようでよかったよ。
「じゃあ、取り敢えず揉んでよ♪」
「だからってさぁ」
「アンタも揺るがないわね……」
少しは納得したかと思ったが、嬉しそうに押し付けてくる告美であった。俺がそれをするのは繭奈と冬夏だけだっての。
そんなこともありつつ、海で泳いだり休憩を挟んだりしていると、気が付けばお昼になっていた。お腹も空いてきたし、そろそろご飯でも食べようかと話すと、二人とも うんと頷いた。
海に来てお昼を食べるといえば海の家、そうなればやはり食べるのは焼きそばだよな。ちなみに告美はカレー、麗凪はたこ焼きとフランクフルトを選んでいた。
途中で あーんをしながら分けあったりしながら、楽しくお昼を済ませて泳ぎを再開しようと思ったところで、同じくお昼を済ませたらしい繭奈たちと顔を合わせた。




