五十九話 卓球
露天風呂で夜景を楽しんで、温泉を出た俺たちは少しだけ旅館を見て回っていた。ちなみに、せっかくなので浴衣を着てみた。
祭りの時の浴衣と違って華々しさはないものの、風呂上がり特有のホカホカした雰囲気が、繭奈を色っぽく見せる。
「おっ、旅館と言えばやっぱりコレだよな」
「卓球だね」
二台並ぶ卓球台を見つけた茂と貝崎が、遊ぼうと近付く。学校以外でソレを見るのは珍しいので、面白そうだと思った。
そんな時、隣にいる繭奈がボソッと呟く。
「ここでわざと胸チラさせたら、龍彦くんは直しに来てくれるわよね。そのまま見せたら喜ぶ──」
「きこえてんぞ」
「あらっ、バレたら仕方ないわね。見る?」
「あとで」
アホな事ばかり言っている繭奈である。しかし、そんなやりとりを聞いていた告美が首を突っ込んできた。後ろにいるの忘れてた……
「あとで?あとでなの?あとで白雪さんのおっぱい見るんだ龍彦くん」
「んぇー」
ぐいぐいと詰め寄ってくる告美に思わずしまったと思った。彼女の勢いに変な声を出すことしかできない。
軽率な発言に後悔していると、繭奈が余計なことを言った。
「当然じゃない、同じ部屋なのよ?それも龍彦くんとね。ふふっ、羨ましいかしら?」
「煽るなバカ」
「うぎぎぎ……うらやまぢぃ……!」
調子に乗って告美を煽るな繭奈と、血の涙を流しそうな勢いで悔しがる告美、ちなみに麗凪もちょっと悔しそうだ。
っていうか、羨ましいってあくまで部屋が同じことに対してだよな?
「じゃあこうしない?私と告美、白雪さんと笹山さんの二対二で卓球して、勝ったら明日は龍彦くんとたくさん遊ぶの。一日中とは言わないけど、せめて午前中だけでもね」
「別に良いわよ。ね、冬夏?」
「んえぇ?まぁ別にいいけどさぁ……」
麗凪の提案に告美がフンブンと頷いており、冬夏は巻き込まれた感じがすごい。彼女が不憫に思えてくるな。
───そう思っていたけど、全然そんなことなかったわ。始まるや否や冬夏がものすごく乗り気になって、なんなら普通に活躍していた。
告美も頑張っていたが、冬夏の勢いに押し返されてしまったようだ。
「なんで冬夏が一番頑張ってるのよ」
「だって手ェ抜きたくないし、全力って楽しいじゃん」
勝負が終わり、汗を滲ませた冬夏がニッコリと笑った。綺麗な笑顔が輝いて見えるが、思わず目を逸らす。
なんで目を逸らしたのかって?察してくれ。
「ん?んー?どうしたの龍彦?なんで目ェ逸らしちゃうのかな?」
「確信犯かコノヤロウ」
「アタシには何のことか分かりませーん♪」
惚けながらやたら距離を詰めてくる冬夏である。コラ屈むんじゃない見えるだろバカ。
なにやらをチラチラと見せてくる彼女を視界の端にやり、卓球で負けてしまった二人の元へ行く。
「おつかれ、二人とも凄かったじゃん。今回は負けちゃったけど、気にすることないって。明日は楽しもうね」
せっかく遊びに来たわけだし、どうせなら楽しい思い出を作りたいだろう。ちょっとしたお遊びで負けたからって、寂しい思いをしてほしくない。
「そうよ。別に龍彦くんを独占といっても、最近はずっと遊んでたわけだし、アナタたちも龍彦くんと楽しめばいいわよ」
「そーだよ。アタシは運動とか好きだからはしゃいだだけだし、龍彦はアタシのもんだ!ってんじゃないからさ」
そう言って笑う二人に、落ち込んでいた告美も麗凪も笑った。なんだかんだ繭奈も楽しんでいたみたいだし、先ほどの賭けみたいなこともそこまで気にしてはいないだろう。
「なんか、申し訳ないわね。こっちから始めたことなのに……」
「別にいーって!なんならアタシらが負けても強引に遊んでたし!」
「ありがとね。白雪さん、笹山さん」
お礼を言った告美に、二人は笑みで返す。というか、俺も卓球やりたいぞ。
ちなみに、隣の台で楽しくラリーをしていた茂たちは、先ほどのバトルを見て目を剥いていた。しっかり見入っていたようである。
「なんかすごい勝負してたね。思わず手を止めちゃったよ」
「まぁね!でもちょっと張り切りすぎて疲れたし、アタシは見てるわー」
「私もー」
張り切っていた冬夏と告美が、横に置いてあるソファに座った。二人とも汗をかいているので色っぽい。
「私も少し見てるわね。せっかくなら山襞さんは龍彦とやりたいでしょう?」
「えっ、いいの?」
気を利かせた繭奈、さすがだよ。圧倒的余裕を感じるが、それはわざわざ言うまい。
そういうことなので、俺は麗凪と楽しくラリーをして遊ぶことにした。




