五十六話 海水浴
クッソ暑いこの夏に皆で海にやって来た。まずは日焼け止めクリームを塗ることなり、茂と貝崎、告美と麗凪のコンビで分かれていた。
じゃあ繭奈と冬夏はどうなんだということなのだが、俺を含めて残りは三人。ペアを組むとなると、一人余ってしまう。
なので、俺が彼女らの背中にクリームを塗ったのだが、じゃあ俺は誰に塗ってもらうのかと言う話だ。繭奈と冬夏の背中の感触を堪能した後に、二人はとんでもない提案をしてきたのだ。
「ほいほい、塗り塗り~♪」
「二人に日焼け止めを塗ってもらうだなんて、随分と偉くなったものね」
そう、俺は今 繭奈と冬夏にクリームを塗ってもらっているのだ。うつ伏せになっている俺の背中と繭奈が、脚は冬夏がクリームを塗っている。なにしてたんだかね。
「そんなこと言うなら、後はアタシが全部塗っとくからいいよ。任せな、ほらほらどいて」
「ふざけないで。背中を塗ってもらった分のお返しくらいなんてことないわ。少しからかっただけよ。龍彦くんがもし不愉快になったのならごめんなさいね?」
「いっいや別に…」
謎にバチバチやっている二人は無事に背面を塗り終え、今度は俺をひっくり返して仰向けに寝かせた。困惑するばかりであるが、そんな俺を無視して繭奈が俺の顔を跨いだ。
俺の視界が十八禁に染まる中、今度は前面にクリームを塗り始めた。この光景はやばすぎる。
「すーぐ終わるから待ってなねー」
「少し息苦しいかもしれないけど、すぐ終わるわ」
「あーうん」
二人が何やら話しているのだが、全く頭に入ってこない。とにかく身体が反応しないようにすることで精一杯だ、こんなところでナニを大きくさせてしまったら恥さらしである。
「ぅぅぅぅっう"ら"や"ま"し"い……」
「共有……ね、明日はそうしましょう告美。私たちで争ってても仕方ないわ、よりによってあの二人もライバルなんて……」
告美も麗凪の声が聞こえる。ただ、聞こえるだけだ。内容までは分からん。
だってやばいもん。眼福も過ぎれば毒にもなるだろう。今すぐにでも顔を上げたいよ。
しかし、こんなところで盛るような趣味はないし、なにより今 告美たちに俺たちのことを明かすつもりはないのだ。
そのために必死に色々を抑えていれば、そっちに集中するのが当然であろうと言える。あ"ぁ"ーやべぇ……
とんでもない試練をもたらしてくる繭奈なのであった。
そんなこんなで準備が終わり、やっとこさ海に入れることになった。なんか三十分くらい経った感じする。十分も経ってないのにね。
ちなみに浮き輪もあるよ、貸し出しサービスがあったから使わせてもらった。いやー頼りになるわ。
繭奈は浮き輪に両手を添えながら、俺と一緒に海を楽しんでいた。告美と麗凪も好きに泳いでおり、貝崎は浮き輪で浮かびながら茂と一緒にいる。
あれ?冬夏は?と思っていると、水中で誰かが思い切り抱きついてきた。その人物は水面から顔を出す。
「やほー龍彦♪もしかして、アタシを探してたかな?」
「あぁ、いないなぁとは思ってたよ」
その正体は冬夏であった。彼女は俺の返答に そっかそっか♪と答えながら、その豊かな双丘を押し付けるような抱き締めてきた。ぎゅー。
可愛らしくはしゃいでいる冬夏を、繭奈はじっと見つめながらなにやら考えているみたいだった。なに企んでるんだコイツ。
「っと、あんまりこうしてると繭奈に怒られる!ほいじゃ、アタシ皆のとこ行ってくるっ!」
そう言って離れた冬夏が繭奈を一瞥すると、さっさと泳いで行ってしまった。楽しそうで何よりである。
「はぁ、冬夏もすっかり龍彦くんを気に入っちゃったわね」
「なんでなんだ……」
接点もロクになかったのにね。いくら繭奈が間にいるとはいえ、それにも限度があるというものだろう。
「それだけ龍彦くんが魅力的ということね」
「マジでそう思っちゃいそうだよ」
そんな俺の言葉に返ってきたのは、繭奈の微笑む声だけであった。




