五十四話 お披露目
夏休みに海へと一泊二日の小旅行にやってきた俺たち七人は、荷物をロッカーに預けて水着に着替えた。更衣室の前で茂と二人で待っていると、告美たち三人が先に出てきた。
そこまで間を置かずに繭奈と冬夏も出てきて、水着姿を見ることができた。繭奈は先週にショッピングモールで買ったものだから知っているが、冬夏の水着を見るのは初めてだ。
彼女の水着は黒色のビキニだ。装飾の少ないシンプルなデザインだが、それが大人っぽさを演出しよりセクシーに見える。
元々スタイルが良いのもあって、その魅力を存分に発揮している。おかげで周囲の男からの視線も凄い。
「どう?結構自信あるんだけど」
冬夏は腰に右手を当て、まるでモデルのようにポーズを決めた。彼女のフランクな態度を見た繭奈を除く四人は、ギョッとした顔でこちらを見ている。
「冬夏は元々スタイルが良いからな、充分似合ってるよ。はっきり言ってエロいと思う」
「さすが龍彦、見る目あんじゃん♪」
「そりゃどーも」
俺のコメントに喜んでウインクで返す冬夏だが、他の四人は絶句している。そりゃあ、褒めるにしたってエロいだなんて言うのは普通に考えれば非常識だ。
しかし、それは関係性が進んでいなければの話。俺と冬夏の関係性なら、それくらいハッキリ魅力を伝えた方が良いのだ。
要は、俺たちなりのコミュニケーションってことだな。
「ねっねぇ龍彦くん?ちょーっとストレート過ぎない?しかもそれってその……せっセクハラなんじゃ──」
「まぁまぁ、春波ちゃんもそんな堅いこと言わなくていーじゃん!アタシは龍彦にそう言って貰えて嬉しいから♪」
思い切り動揺している告美に対し、当の本人たる冬夏がそう笑った。本人がそう言っているのだから、他のメンバーも特に何も言うことはなかった。
なんなら繭奈も涼し気な表情をしている。
「私はどうかしら?ねぇ龍彦くん」
顔を赤くして喜んでいる冬夏を遮るように、繭奈が前に出た。彼女が着ているのは、先週買った水色と白色の、リボンの付いた可愛らしいビキニだ。だが、試着室で見るのと砂浜で見るのでは、圧倒的に魅力が違う。
「ハッキリ言うぞ、一番可愛い」
「っしゃああ!」
繭奈の魅力が俺の冷静さを破壊し、沸騰してしまった俺の頭が端的に告げた。確かに他の四人も可愛いよ、それは間違いない。
ただ、自分の恋人が一番可愛く見えてしまうのは、仕方のないことではないかと思う。俺は彼女の様々な姿を見ているし、それこそ内面も知っている。
関わっている時間の密度が圧倒的に違うのだ、そりゃ一番にもなるだろう。
そんな俺の答えに、繭奈は両手で拳を作りながらガッツポーズをして喜んだ。面影ぶち壊しである。
なので、冬夏以外の四人は完全にフリーズしている。まるで理解できないものを見てしまったような感じ。
いやまぁ、間違ってないけど。
「一番ね、一番♪さすが龍彦くん、冬夏の言う通り見る目あるじゃない♪」
「そりゃどーも」
先ほどのガッツポーズがまるで幻であったかのように、繭奈が髪をかきあげて言った。頬は朱に染まっており、纏う雰囲気はベッドインする直前のようだ。要するにエロいことする時のソレ。
「そうまで言われたらアレね、せっかくだし二人きりの時間を用意したいわね♪ご褒美にね♪」
「それはまたおいおいな。今日は皆で来てるし、タイミングあったらね……って皆大丈夫?」
「龍彦くんって意外と精神強いのね……」
完全に固まってしまった皆に向けて尋ねると、麗凪が震えた声でそう言った。そういえば、彼女と告美は俺たちが付き合っていることを知らないんだったな。まだ明かす気はないが、いつか言わないといけないな。
「まぁアタシは繭奈の友達だからアレだけど、春波ちゃんも山襞ちゃんも、そっちの二人も知らないもんね。繭奈って心開くと結構おもしれーっしょ」
「おもしれーとは失礼ね、ノリが良いって言いなさい」
「まぁおもしれーのは間違ってないけどな」
「龍彦くん?」
付き合ってからというもの、過去の繭奈に対する認識がバグっていくばかりだ。もっと真面目でお堅いと思っていたものだが、実際はかなりノリが良いし面白い。
「とりあえず、せっかくだし泳ごうぜ。暑くてかなわねぇって」
「茂に賛成だ。色々と気になるかもだけど、繭奈くらいぶっ壊れてないと楽しめないからな。見習っていこう」
「龍彦くん?」
茂に便乗してそう言うと、繭奈がジト目でこちらを見る。まぁ元々ジト目っぽいんだけど、最近は違いがよく分かるようになった。
今はしっかり睨んできている、後でちゃんと埋め合わせしよう。
俺の言葉に皆も そうだねと頷いて、皆で海に向かった。今日は楽しむぞ!




