五十三話 一泊二日
カフェでひとしきり話をした後、俺たちは店を後にして夕陽に照らされながら帰路に着いていた。繭奈のノリにすっかり慣れてしまった茂たちであった。
繭奈と貝崎が話しており、その後ろに俺と茂が着いていく。自分の恋人が友人の恋人と仲良くしている所を見ていると、こちらとしても嬉しい気持ちになってくる。
ちなみに、二人とも俺たちが付き合っていることを隠していることを理解し、協力してくれることになった。周りに繭奈と俺が付き合っていることを知られてしまったら、面倒ごとは避けられないだろうしな。
「ねぇねぇ蔵真くん、今度海に行かない?」
繭奈と話していた貝崎が、振り返えるなりそう言った。
そうして一週間が経過し、俺と繭奈はうだるような暑さの中で最寄り駅で人を待っていた。この綺麗な晴天に恵まれた今日は、皆で海に行く日である。
俺たちが駅に到着してすぐに、告美と麗凪の二人がやってきた。彼女たちは俺を見るなりパァッと笑顔の花を咲かせ、こちらに駆け寄ってくる。
「おはよう龍彦くん!待たせちゃったかな?」
「来たばかりだよ、おはよう」
「おはよう龍彦くん、白雪さんもおはよう」
元気よく挨拶した告美と、落ち着いた様子で挨拶した麗凪に、俺と繭奈で挨拶を返す。猛暑日である今日、二人とも薄らと汗を滲ませており、そのせいで何となく色気を感じる。
「おっ、集まってんじゃん。おーっはよ」
声をかけられそちらを見ると、そこには手をフリフリとしている冬夏がいた。その挨拶に四人で返す。
そして少し間を空けて茂と貝崎がやってきて、これで全員集まった、これから電車に乗って海へと向かい、一泊二日のちょっとした旅行だ。
と言っても県内の旅行なのでそこまで大層なものではないけど、楽しみだ。
乗り換えをしつつ電車に乗ること二時間と少し、無事目的地に到着する事ができた。とはいえ、近くの旅館にチェックインをするにも早い時間なので、少し早めの昼食を食べた後、荷物を近くのロッカーに預けて海へと向かった。
夏休みシーズンであるからか、海水浴場には随分と人が多く、カップルや家族連れもたくさん。
そんな人混みの中、着替えを終えた俺と茂は更衣室からほんの少し離れた場所で皆を待っていた。
「いやぁ、まさか今年は彼女と海に来れるなんて、去年は思いもしなかったなぁ……なぁ龍彦!」
「確かに」
そう思わないか?とでも言うような顔で、茂がこちらを見た。なんならすごくキラキラしている。
「思えば、今回のメンバーは皆 可愛いコばっかりだよな!全員それなりに男子の中でも噂になってる子たちなんだぜ!」
「そういや、確かにみんな人気あるよな。学校の連中が聞いたら腰抜かす……というか、嫉妬で血の涙を流しながらブチギレそうだ」
少なくともまともな学校生活を送ることはできないだろう。特に繭奈と冬夏に至っては、他学年でさえ名前を知られてるくらいだ。
俺たちと同じようなことをしたいと言う奴は、男女問わずたくさんいるだろう。そう考えると、優越感に浸れて気分が良い。
「おまたせ、龍彦くん!」
そんな声が聞こえてそちらを見ると、そこには告美と麗凪、そして貝崎がいた。学校でもよくつるむ三人が仲良く並んでいる。
「えへへ♪どうかな?」
少し恥ずかしそうにしている告美が、両手を後ろにして水着をアピールする。つまり感想を求めているわけだ。
きっとアピールの為に選んだのだろう、告美の明るさと調和した可愛げのあるパステルカラーのビキニだ。淡い青色やピンクが可愛らしい。
「うん、すごくかわいい。よく似合ってるよ」
「えっへへ……嬉しいな、ありがと♪」
変に選んだ言葉はいらないと思い、ただストレートな感想を述べると、告美は照れつつも嬉しそうにはにかんだ。
「わっ私は、どうかな?」
そう言ったのは麗凪である。赤い花柄に彩られた、少し派手にも見えるパレオだ。
こうしてみると、普段は落ち着きのある麗凪も情熱的な女の子なのかもしれない。そんな雰囲気を感じる柄だった。
「とっても似合ってる。綺麗だよ、麗凪」
「はぅ……っ!ありがと……♪」
胸を押さえてお礼を述べた麗凪は、小さく俯いてこちらに来た。二人して好意ダダ漏れである、俺はどうすればいいのやら。




