五十一話 カフェにて
繭奈とデートをしている最中、せっかくならば水着を買おうということにした。その為にショッピングモールへやってくると、なんと茂たち二人と会ってしまったのだ。
そのため俺たちが付き合っていることが二人にバレてしまい、吹っ切れたことで急遽ダブルデートをすることにした。
「そういえば、二人が知り合ったのって中学からなんだっけ?」
「そうよ、私が一目惚れしたの」
「あれ話がちげぇな?」
貝崎の質問に胸を張って答えた繭奈だが、思い出す限りどう考えてもあれは一目惚れではないだろう。思わず首を傾げてしまった。
咳払いをして気を取り直す。
「ゴホン……知り合ったのは中学の時だな。同じクラスだったのが二年と三年だったから、実は四年間同じクラスだったりする」
「おぉー凄い偶然だね!じゃあ蔵真くんって、白雪さんのクールな感じは慣れてたんだ?」
「まぁ……ね」
「慣れてたというより無関心だったわね」
答えづらくなって間を空けてしまったのは、最後に語った繭奈の言葉が答えであるからだ。慣れたが故にどうでもよくなった。
どうせ嫌われてるし、嫌な扱い受けるしと思って、開き直ったみたいな感じ。
「蔵真くんの方が無関心だったんだ。じゃあ白雪さんの方がずっと蔵真くんをのこと好きだったんだね」
「その通りよっ」
若干食い気味でハッキリと力強く答えた繭奈に、二人が少し気圧されている。
「そっそういや、二人が付き合い始めたのはいつからなんだよ?」
「もうひと月になるかな?学校であった揉め事というか、告美たちと少し離れてた時あるだろ?」
俺がそう言うと二人は一瞬首を傾げたものの、すぐに あっと声を出した。
「その時だったな。俺たちが付き合い始めたのは」
「そうね。付き合ってから春波さんたちと仲直りしてたわね」
「それじゃあ結構最近なんだな、付き合ったのって」
どこか納得したような、驚いたような二人の反応は見ていて少し面白いが、またも貝崎がニヤリと口角を上げた。
「それにしても蔵真くん、遂に告美たちのこと名前で呼んだんだね。じゃあ麗凪も?」
「そうだね、二人から頼まれてお互い名前で呼ぶようになったんだ」
俺の答えに、貝崎が ふんふんと頷く。ちょっと嬉しそうな反応だが、俺たちの関係が進展したとして一体なにがあるというのか。
あの二人の好意に俺は応えることができないから、俺のやってる事はただ無駄に馴れ馴れしいだけとも言える。
「──あれ?そういえば、告美も麗凪も二人が付き合ってることって知ってるの?」
「いや知らないと思う。少なくとも話してはいないからね」
「あの様子じゃ知らないでしょうね」
繭奈がそう言って気まずい沈黙が走る。茂は首を傾げているが、かといってそちらに構うつもりはない。というか、教えることでもないだろ。
「────っていうことは、二人が付き合ってることを知ってるのって……私たち、だけ?」
「いや、その前に冬夏が……だから、笹山が知ってるよ」
まさか冬夏が知ってるとは思っていなかったようで、二人とも驚いたような声を出した。最初の時を思い出せば分かると思うが、彼女は学校でもツンケンしてるところがあるのだ。
繭奈に媚びる連中にも嫌悪する連中にも属さない小春は、他人との関わりが少ない人物として知られている。
それでも繭奈ほどではないが、人気のある人物なのだ。
「えっ、もしかして蔵真くん笹山さんとも仲良し?」
「まぁ、友達ではある。繭奈繋がりでね」
まさかの答えに二人がまたも驚愕している。別にそこまで驚くことではないと思うが、思い返してみれば、最初に冬夏と喋った時はめちゃくちゃキツい態度だったもんな。繭奈がキレたからすぐに落ち着いたけど。
「そういや、中学の時に龍彦が白雪の物をパクったとの話って、いったいどういうことなんだよ」
思い出したように茂が言った。告美との関係が悪くなったあの時のきっかけも、その事件の犯人が始めたことだったな。
その真相を詳しく知らない二人からすれば、気になる事柄なのかもしれない。
「別に大したことじゃないって。繭奈の机にあったペンが、体育から戻ってきた時に無くなってたって話。しかも、そのペンが俺の机から出てきたから色々とややこしくなって」
「えぇっ?なんで蔵真くんの机から?」
「そうよ。どうして龍彦くんが持って行ってくれなかったのかしら?」
貝崎の素朴な疑問が出てきた直後、何故か繭奈が変なことを言い出した。そのおかげで沈黙に満たされてしまい、変な空気となってしまった。
「繭奈?ややこしくなるからちょっと黙ってて」
「はい」
おバカな繭奈はほっといて、話を続けることにした。




