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傾国の死後、私と妹【連載版】  作者: 小林晴幸
私と妹と、隣国の王族
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『風に揺れる白いリボン』

お兄様が従弟の王太子さんと昼餐の席でオハナシアイをしている最中。

彼らの目の届かないところで、事件は起きた。

 こんなこと、するつもりもさせるつもりもなかった。

 こんなことになれば良いなんて、ちっとも思っていなかったのに。


「――ティアラアンナさま、ティアラアンナさまー!」

 息を弾ませて、満面の笑顔で走って来る子たちがわたしの名前を呼んだ。

 ちょっと不躾ではなくて?

 あんなに離れた位置から、あんなに大声でわたしの名前を呼ぶなんて。

 わたしはこれでも、王国の第2王女なのよ?

 あのふたりがどういうつもりか知らないけれど、あんな無作法が許されるとでも思ったのかしら。

 ふたりの男の子は、見覚えがある。

 年が近いから、一緒に学んだり遊んだりする相手にって、王宮に招かれてる中にいた子たち。

 ちょっと早とちりで、思い込みが激しい子たちだったと思う。

 だけど学友候補として集められた子ではあるけど、特に親しい仲という訳でもない。

 むしろ、あまりお話したことの無い子たちだったと思うんだけど……

 あんなに、まるで獲物を咥えた猟犬みたいにわふわふと駆けて来るなんて。

 わたしに何か用なのかしら?

 どんな用だとしても、王女たるわたし相手に礼儀がなってないわ!

 

 ただでさえ、リューお兄様が連れてきたとか言う子のことでむぅってするのに。

 こんな時に何の用なの。

 ろくでもない用件だったら、か、か……か()よう?にはなれないかもしれないわ。


 わたしの前まで、まっすぐに走り寄ってきた男の子たち。

 2人だけかと思ったら、なに、5人もいるの?

 一度にたくさんで来られても、困るんだけど。

 突撃されたら駄目だから、ユピルスや護衛が男の子たちの足を止めさせた。

 わたしとの距離は、3mってところかしら。

 これ以上の距離を縮めることは許さず、何の用かと護衛が問いかけた。

 鋭くきちゅ(・・)もん?するようなそれに、男の子たちはちょっとだけ怯えながら、でも同時にちょっとだけ不機嫌さを出して緊張を誤魔化しながら。

 先頭にいたジャガイモみたいな男の子が、言うことには。


 ジャガイモみたいな男の子の差し出した右手。

 そこには、真っ白なリボンが握られていて、手のひらからこぼれた端が風に揺れていた。


 リボンに刺繍されているマークは……わたし、何度も見たことがあるから知ってるわ。


 それは、隣国の王家の紋章だった。


 護衛たちが紋章を目にして、ざわりと気色ばむ。

 わたしの側に立つユピルスの顔が、はっきりと引き攣った。

 それまでは子供が相手だからと、無礼ではあってもどこか広い心で接していたのに。

 リボンに刺繍された紋章を見た途端、護衛の大人げが消滅した。


 迫力満点につめよる、護衛たち。

 その迫力から、自分達がシャレにならないことをしたと、やっと気付いて顔を青くする男の子たち。

 震えて互いに身を寄せ合っておびえても、もう遅い。

 ……遅いの! 遅いのよ!

 なんてことしてくれたのよ、あなたたちはーっ!!


 

 勝手に思い込んで、余計な気をまわして。

 本当に、本当の本当に余計なお世話!

 思い込みが激しいって、みんなが言ってたイミをあらためて思い出したわ。

 こんな風に、思い出させてほしいなんて思ってなかったのに!


「ぼ、ぼ、ぼくたち……ティアラアンナさまの憂鬱の原因、『その子(・・・)』だって、聞いて……。ただ、ただ、ティアラアンナさまがお辛そうな顔、してたから」

「だ、から……その、原因の子をどうにかしたら、ティアラアンナさまが喜んでくれるって……!」

「……勝手に思い込んで、やってくださったの」


 わたしを思っての行動。そういわれたら、言い訳できなくなる。

 わたしは全然、全く、欠片もそんなことしてほしいなんて思ってなかったのに……!

 なのにこの子たちが、その馬鹿な行動のた、たいぎめーぶん?をわたしに押し付ける。

 わたしに、全部ぜんぶ押し付ける。自分たちで、行動の意味もわかってないで。


 男の子たちは、わたしが『その子』のために嫌な思いをしていると思ったからって。

 きっと、その子をどうにかすればわたしが喜ぶとおもった、なんて言って。


 大人たちの目を盗んで、女の子を泣かせてきたって言うの。

 

 イジメたの? 嫌がらせをしたの?

 何をしたのか護衛が詳しく聞こうとしたけど、たくさんの大人に怖い顔で囲まれた男の子たちは、混乱していて。何を言っているのかも不鮮明で、要領を得なくって。

 何があったのかは、よくわからないけど。

 大人たちが入り込めない状況で、女の子を泣かせるなんて最低のことをして。

 しかもその子の大事にしていたリボンを、()ってきた。

 それだけは、確かなことで。

 護衛たちの顔が、ますます難しく、険しくなった。


 この馬鹿な子たちが、わたしを理由に馬鹿なことをやったから。

 指示なんて1度も下したことないのに。

 なのに、わたしがこの一件の主犯にされてしまった。

 

 きっと、リューおにいさま……怒ってる。

 今はまだ気付いてなくても、怒ってなくても、知ったらきっとわたしのことを怒って、嫌いになる。

 そんなの嫌。

 いやなのに……どうしたらソレ(・・)を避けられるのか。

 わたしじゃない。わたしがやれって言ったんじゃない。

 そう言って、リューお兄様は信じて下さるかしら……信じてくれなかったら、どうしよう。

 いくらどれだけ考えたって、こたえがわからなくって。

 わたしは男の子達に押し付けられた白いリボンを手に、すわりこむ。

 顔の表情が、勝手に動いて……自分でも、そうとわかるくらい。

 わたしは、今にも泣きそうな顔をしていた。



 

 第二王女ティアラアンナ様に、取り巻きを使ったミンティシアへのイジメ及びリボン強奪の疑い発生(冤罪)。

 ちなみにリボンはお兄様のお手製。ミンティシアの髪を結ぶために、手持ちのハンカチから作った。

 紋章の刺繍もお兄様の力作です。

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