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傾国の死後、私と妹【連載版】  作者: 小林晴幸
私と妹と、隣国の王族
35/39

15.5/わたしとおにいさま

隣国の王宮についた初日の夜、就寝時のヒトコマ。




 ここがあたらしいおうちって、おにいさまが言った。

 前にミンティシアが住んでたところとは、ぜんぜんちがう。なにもかもちがう。

 そんな場所で、だけどおうちって言われても、こわくて。

 しらないひとが、たくさんいるの。

 しらない場所が、すこしこわいの。

 おにいさまには、言えなかったけど。

 だけどおにいさまは、ミンティシアのことをわかってくれていたの。

 ミンティシアのきもち、おにいさまには見えるのかな?

 わかってくれて、うれしかったの。


「そろそろ夜も遅い。ミンティシア、寝る時間だ」

「おにいさま……」

 おやすみの時間、って言われて。

 だけどここは馬車じゃなくって。

 おもいだしたのは、おにいさまがむかえに来てくれる前のこと。

 ……あのさむくって、とてもさむくって。

 すごく、さみしい……ミンティシアの、前のおうち。

 ハンナさんはいたけど、さみしくてこわかった。

 馬車でおやすみする時は、いっしょに、おにいさまもおとなりにいてくれたけど。

 ここは、馬車じゃないから。

 あの前のおうちの時みたいに、ミンティシアはひとりでねるのかな。

 まっくらで、さむいお部屋で。

 ひとりぼっちで。


 なんだか、とても。

 それがこわくて。


 きづいたら、おにいさまのおそでをにぎっていた。


「ミンティシア?」

「あ……、ぅ、ご、ごめんなさっ」

「……良い、構わない。私も今夜はもう休むつもりだった」

「……?」

 おこられるかな?

 おにいさまに、いやなおかおされるのかなって。

 ずっとずっと前に、おなじことをして、おこられたことがあったから。

 ……だれにおこられたのか、おぼえてないけど。

 でもおにいさまも、おこるかなって。

 今までにも何度もおなじことをしてたけど、はじめての場所でこわいって思ってたから、かな。

 今になって、おにいさまも他のひとみたいにおこるのかなって……こわくなった。


 だけど、おにいさまは。

 ミンティシアの手を、上からぎゅってしてくれて。

 そのまま、わたしをだっこしてくれたの。


「おにいさま……?」

「長旅で疲れている筈だ。元々体力もそう無かろう」

 そう言って、おにいさまは。

 ミンティシアをどこかの、ひとりぼっちのお部屋につれて行くんじゃなくって。

 そのままいっしょに、おにいさまのお部屋のベッドにつれていってくれたの。

「今夜はゆっくり休みなさい」

「……うんっ」


 これからは、ずっと。

 ずっと、ずっと、いっしょ。

 ミンティシアは、おにいさまといっしょ、なの。


 前に、おにいさまも言ってくれたこと。

 思い出した、ら、なんだか、なんだかすごく。

 いつもはさむいって思っていたはずの、ベッドの中がなんだかぽかぽかして。

 なんだかすごく、あたたかいって思えて。

「おにいさま、ずっといっしょ、ね……」

「ああ。心配せずとも、お兄様が朝まで隣にいる。安心しなさい」

 あたたかいなぁってなったら、なんだか急に……ねむくって。

 いつのまにか、からだもくたくたで。

 ねむくて、ねむくって。

 おにいさまの言葉が、うれしくって。

 こころが、ふわってなった。

「おやすみなさい……」

「お休み、ミンティシア。良き夢の訪れを」

 おにいさまがぎゅってしてくれたから。

 ミンティシアはもっとうれしくなる。

 ねむいなぁって思いながら、おにいさまのむねにぐりぐりして。

 その日の夜は、おにいさまがえほんをよんでくれる夢を見た。



 この日、から。

 ミンティシアとおにいさまは夜もいっしょで。

 まいにち、いっしょにおやすみするようになったの。




お兄様は何もなければ夜の九時には就寝します。(夜更かしの習慣がない)

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