12.5/わたしとおにいさま
あの衝撃的な場面から意識回復して、恐慌状態に陥ったミンティシア。
そんな妹に対して、お兄様は……?(追っ手の目を避けて逃避行中)
めが、さめると。
そこはまっくらで、なにも見えなかった。
ここ、どこ……?
おにいさまは、どこ?
おにいさま。
――『ミンティシア……!!』
ぐわん、と、頭の、なか、に、
思いだした、こえ。
頭がまっしろになる、まえに。
ひびいた声、が……
あのとき。あの、とき。
ミンティシアは、どうしてた、の?
おにいさま、は、どうなったの?
こわいものが、こわい、もの、が……
ミンティシア、を。
おにいさまから、ひきはがした。
「い……やぁぁあああああああああああっ」
「っ!?」
「やあっやぁぁああっ おに、ぃさっ おに……あぁあああああっ」
「ミンティシア、」
「おにいさまっ おにぃさまぁぁああああっ」
「私は此処にいる。ミンティシア」
「あぅ、あ、あぁぁっ」
おにいさま。
おにいさま。
どこ……?
おにいさまが、どこにいるのか、わからなくて。
あのこわいのが、こわいのが、こわい、の、が……
まっくらやみで、なにも見えない。
こわくて、こわくて、こわくて。
おにいさまが、いない。
あのこわいのが、おにいさまとミンティシア、を……
「ミンティシア!」
「っ」
がくん、って。
からだが、ゆれた。
「お兄様は此処にいる。ミンティシアの、目の前に」
「うそ、うそ……なにも、見えな……っ」
「……今は、夜だ。見えないのは、夜だからだ」
これ、ユメなのかな。
おにいさまの、声がする。
やさしくって、しずかな声。
しずかに、すって胸に入ってくる、みたいな。
とんとんって、誰かがミンティシアのせなかをぽんぽんしてくれた。
あたたかい、手。
ミンティシアのやさしい、手。
おにいさま……?
「ミンティシア、お兄様は此処にいる」
なんども、なんども。
おにいさまの声、が、近くから。
だけど、なにも見えない。
「ミンティシア……怖いのなら、存分に泣きなさい」
「う、うぅっく、ひぅっ」
「泣きたいのなら、お兄様が側にいよう。だから、お兄様の胸にいなさい」
あったかい、温度。
なんにちも、何日も。
ずっとミンティシアをあたためて、くれた。
このあたたかいの、は……おにいさまの、体温。
おにいさまの体温が、ミンティシアをぎゅってしてくれた。
おにいさま、おにいさま。
おにいさま、ほんとに?
ほんとう、に、そこにいる、の……?
だけど、おぼえてる。
おぼえて、る、のは……
あのこわい、こわ……
「ミンティシア」
こわいのが、頭いっぱいに。
だけどそれがわかった、みたいに。
「ミンティシア、怖い思いをさせた。済まない……」
ミンティシアがこわくなったのが、わかったみたいに。
おにいさまの手が、ミンティシアをいっぱいぎゅってしてくれた。
「済まない、ミンティシア。お兄様は何処にも行かない、から……」
なんでか、な……ミンティシアの顔、ほっぺ。
ぬれた感じがして、べたべたする。
おにいさまがべたべたを、手でぬぐってくれた。
そのまま、頭をなでなでして、くれて。
おにいさまが、すごくやさしくて。
「おにい、さま……っ」
「怖かったのだろう。泣くな、とは言わない。だからもっと泣きなさい」
目の前に、おにいさまがいる。
だって、おにいさまが、いる。
ミンティシアも、ぎゅって。
おにいさまの、お胸に、ぎゅうって。
こわいのから逃げたくって。
おにいさまがいるって、わかりたくて。
がまん、できなくって。
しがみついて、顔をぐりぐりこすりつけた。
おにいさまのいちばん近いとこに、いきたかった。
だってそこが、いちばんあたたかくって。
いちばん、ほっとできるところだったから。
ミンティシアの頭を、おにいさまがぽんぽんってしてくれる。
ミンティシアの背中を、おにいさまがぎゅってしてくれている。
もう、こわくないって。
あのこわいのは、ユメだったのかなって。
そう思った。
だけど、ほっぺがじんじんするのは、なんでかなぁ?
この後、安心したミンティシアは寝落ちしました。




