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冒険家になろう! スキルボードでダンジョン攻略(WEB版)  作者: 萩鵜アキ
2章 冒険家レベルが上がっても、影の薄さは治らない

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『ちかほ』の8階を探索しよう!

 翌日、起床した晴輝はすぐにホテルから借りたパソコンを立ち上げる。


「どれくらいPV回ってるかなぁ…………お!?」


 なんとPVが12も回転している!

 閲覧者はいつもの3人に加え、なんと3人増えて総勢6名となっていた!


 おまけにコメントがなんと10件も!!


「……あれ、もしかして俺、今日死ぬのかな?」


 こんなに幸せなことが、あっていいのだろうか?

 あまりの出来事に、うっかり昇天してしまいそうだ。

 晴輝は意識を確かに持ちつつ、コメント欄を開く。


 そこには、


『雑魚のクセに捜索依頼受けてるとかwww』

『雑魚が調子乗ってんじゃねぇよ!』

『文体キモすぎ』

『人の命かかってるってのに顔文字使うな』

『遭難した人馬鹿にしてんのか?』

『ダンジョンで亡くなった人がいるってのに軽すぎ』

『被害者煽ってんのか?』

『冒険家なんて辞めちまえ』

『日本から消えろ』

『死ね死ね死ね死ね死ね死ね』


 感想欄に書かれた名無しの心ないコメントの群れを見て、晴輝は拳を固めて小刻みに震える。


「くそっ……」


 顔を赤くした晴輝は、椅子からガタッと勢いよく立ち上がった。


「なんて素晴らしい一日の始まりなんだ!! こいつらは神か!!」


 歓喜に打ち震えて晴輝は叫び声を上げた。


 当然ながら、コメントは称賛ではなく誹謗中傷だ。

 それは晴輝も理解している。

 通常であれは喜ぶなどあり得ない。


 だが存在が空気であれば、そもそも誹謗中傷など受ける余地がない。


 コメントは受動的ではなく能動的。

 文面を読んで、時間を使って文章を書いて、送信しなければ届かない。

 つまりコメントは、相手側が時間という貴重な対価を払うことで得られるものなのだ。


 そしてなによりコメントは、

 見られていなけりゃもらえない!


 だからこそ彼は歓喜に震える。


 誹謗中傷でも、意見は意見。

 ああ、自分もついに、コメントをもらえるような冒険家になってしまったかぁ!


 晴輝は胸で熱くなった息を、震えながら吐き出した。


「しまった!」


 こうしちゃいられない。

 早速コメントに返信だ!


 晴輝は勢いよくキーボードを鍵打する。


『ありがとうございます!』

『コメントをいただけてすごく幸せです!』

『ご指摘、感謝いたします!!』

『まさにおっしゃる通りです!』

『文章を再考いたします!』

『本当に有難うございました!!』


 一通りコメント返しをして、胸で熱くなった息を吐き出した。


「ああ。反応があるって、こんなに嬉しいものなんだな……。よーし、今日も頑張るぞ!!」


 誹謗中傷のコメントをやる気に変えて、晴輝はテキパキと準備を開始するのだった。


          *


 晴輝はニコニコ顔のまま7階の調査を再開した。


 ムカデの鎧はやはりミドルクラスモデルということもあり、かなり付け心地が良い。

 シルバーウルフとじゃれ合っても、まるで危険を感じない。


 さらに魔剣もこのところの連戦で成長した。

 始めて手にしたときはまっすぐだった刀身が、現在は根元から先端までで1センチほどの反りが入っている。


 若干扱いが難しくなったが、明らかに切れ味が鋭さを増している。


「いいね。実にいい!」


 シルバーウルフの隙を探しながら、晴輝は笑みを浮かべて回避を続ける。


 ――殺気?

 一目散に晴輝は飛んだ。


 晴輝の真横を白い塊が通過した。

 瞬間。

 シルバーウルフ3頭の頭部がほぼ同時に破裂した。


「……うわぁ」


 酷い現実に、晴輝はつい呆然と立ち尽くす。

 あんまりだ……。

 もう少し戯れていたかったのに。


「空星さん、さくさく捜索を進めましょう!」

「あ、はい」


 やる気が満ちあふれる火蓮の声に、晴輝はつい反射的に返答してしまう。

 だが、言うべきことは言っておかねば……。


「なあ火蓮。いまの攻撃はちょっと危な――」

「空星さん。攻撃は私に任せてください!」

「えっと……」

「シルバーウルフは私の攻撃で、一発で倒せますから。安全に、遠距離攻撃で倒しながら進んでいきましょう!」

「あ、はい」


 火蓮の意気に晴輝は圧された。


 たしかに彼女の言う通りだ。

 1撃で魔物を倒せれば迅速かつ安全に捜索が出来る。


 しかし、晴輝らはチームだ。

 任せきりでは負担が釣り合わない。


 だが晴輝は攻撃の一切を火蓮に任せることにした。

 火蓮に任せて、動きに合せることにした。


 晴輝は誰かに動きを合わせてもらった経験がほとんどない。

 空気すぎて誰も晴輝に気づかないので、合せてもらいようがないのだ。


 だから晴輝は、ほとんどのシーンで誰かに合せて生きてきた。


 体育の授業だって仕事だって運転だって、すべてが他人の間合いを縫うように行ってきた。

 だから他人に合せてもらうより、他人の動きに合せるほうが得意である。


『い、いつの間に!?』とか、『あれ? 何故か仕事が上がってる……』とか。


 仕事のサポートをしたって誰一人晴輝には――――辞めよう。

 これ以上は心が折れる……。


「せめて、俺に魔法を当てないように心がけてね?」

「はい! 善処します!」


 いや、当てないって言って?

 怖いから……。


          *


 火蓮はいまだかつてないほど、やる気に満ちあふれていた。


 やる気が溢れているのは当然、スキルが上昇したおかげもある。

 だが張り切っている理由は、それが主ではない。


 一番は、遭難者救助の任務に就いていること。


 晴輝は始め、この任務を断ろうとした。

 だが火蓮は以前、『ちかほ』で晴輝に助けられている。


 出来れば同じ境遇にあるかもしれない大井素のことを助けてあげたいと、火蓮は考えた。

 助けて貰った分だけ、誰かを助けたいと思った。


 そこで晴輝に異見し、火蓮の我が儘が通るような形で依頼を引き受けることになった。


 決断したのは晴輝だ。

 だが決断を誘導したのは火蓮である。


 ここで手を抜いては、本当にただの子供の我が儘だ。

 おまけに晴輝には、まだ救われた恩を返せていない。


 晴輝とチームを組んでいる以上、自分が有益な存在であればあるほど、彼にとってメリットとなる。


 力を付けることで、恩を返せる。

 安易だが、火蓮はそう考えた。


 そうして火蓮は、スキルボードで力を得た。

 ずっと求め続けた、恩を返す絶好の機会である。

 張り切らないはずがなかった。


 いままで以上に張り切って魔物を倒して、晴輝に楽をさせる。

 そうして自分が救われたように、大井素を救出するのだ!


 火蓮はやる気をみなぎらせて、力みすぎてシルバーウルフを魔法で木っ端微塵にするのだった。


「……うっぷ」


          *


 ダンジョンに降りると晴輝は、魔法1発でシルバーウルフを粉砕する火蓮に合せるように立ち回る。

 魔法が組み上がるまではシルバーウルフを引きつけ、発射兆候を感じると隙を作って待避する。


 これまでの経験から、晴輝が火蓮の動きに合せるまでにそう時間はかからなかった。

 1撃必殺の攻撃に連携がかみ合っているからか、先日よりも殲滅速度が目に見えて上がった。


 おかげで昼前には7階のほとんどを捜索し終えることができた。

 だが大井素の姿は見つからない。


「やっぱり8階に向かったのか……」

「そうみたいですね」


 8階には7階層と同じ魔物が出るが、シルバーウルフの割合が減り、『飼い主』の割合が増える。

 一気に難易度が上がる階層だ。


「仕方ない。ひとまずボスを倒して8階に向かおう」

「はい」


 出来れば8階までは降りていて欲しくはなかったのだが……。

 そう思ったところで、大井素が8階に行ってしまったならば仕方がない。


 シルバーウルフの素材が目的ならば、わざわざ個体数が少なくなる8階まで潜る必要はない。

 なにか狙いがあるか、あるいは予期せぬ事態が起って8階までたどり着いてしまったか。

 あるいはもっと別の素材を手に入れようとしていたのかもしれない。


 いずれにせよ、大井素は危機に陥りゲートまでたどり着けなかった。


 依頼は8階層までの捜索。

 この層を探してもダメならもう一度6階からすべてを回って隈無く探す。

 ダメなら……そう報告するしかない。


 出来れば悪い報告はしたくないものだ。



 ボスを倒した後、ゲートをアクティベートして少し進むと、早速シルバーウルフが現われた。

 シルバーウルフ――銀狼という名前が付いているが、既にその体毛は黒に近い。


 さらに身体能力も7階よりは微妙に上。

 6階のものと比べると違いは明らかだ。


 攻撃を回避し、防御し、受け流し、隙を見て斬りつけ、蹴り飛ばす。

 晴輝が蹴り飛ばすと丁度火蓮が魔法を放ち、シルバーウルフを絶命させる。


 ……いい。

 実にいい。

 動きがかみ合っている。


 もうこの程度の魔物ではつけいる隙はない。

 そんな自信を付けた矢先のことだった。


 晴輝の目の前に、新たな魔物の群れが現われた。


 手が異様に長い――日本の中で最も浅い階層に出てくる、見た目が醜悪な亜人。

 飼い主と呼ばれるその魔物は、シルバーウルフ2体と共に現われた。


 何故飼い主と呼ばれているかはその魔物の構成から。

 ソレは必ずシルバーウルフと共に徘徊している。その姿が犬を散歩しているように見えることから飼い主だ。


「火蓮、距離を取れ!」

「は、はい!」


 晴輝は短剣を2本引き抜き、油断なく身構えた。


「グルルル」

「……?」


 少し妙だな。

 魔物の群を眺めながら、晴輝は内心首を傾げる。


 シルバーウルフも飼い主も、すぐに襲いかかってこない。

 その原因はおそらく、体に付いたいくつかの傷。


 シルバーウルフが体中に切り傷を負っている。

 飼い主も多少の傷を負っているが、シルバーウルフほどではない。


 ――狩りかけか!

 晴輝は内心舌打ちをした。


 車庫のダンジョンと違い、『ちかほ』には多数の冒険家が訪れる。

 冒険家は魔物を狩るが、狩り切れずに放置することもある。


 大けがをした、武器が壊れた。逃げる理由は様々だ。

 そうして冒険家が狩り途中で放置した魔物は、体に傷を負ったままダンジョンを彷徨い続ける。


 手傷を与えた、人間への憎悪を増幅させながら……。


 手負いとなった魔物との戦闘を晴輝はまだ経験したことがないが、無傷の魔物と戦うよりも厄介だと噂されている。


「火蓮」

「はいっ」


 攻撃は任せる。

 そんな意思の籠もった晴輝の言葉に、火蓮が力強く頷いた。


 魔物の群れと見合って1秒。

 晴輝の横を、殺意の塊が通過した。


「ヒャィンッ!!」

「キャゥン!!」

「グギャッ」


 相手が注意深かったおかげで、チャージ時間は十分稼げた。


 それぞれ3体に1秒間チャージした火蓮の魔法が命中。

 シルバーウルフは足と胴に当たり、それぞれ魔法の接触範囲を消し飛ばす。


 2体ともまだ息があるが起き上がらない。

 明らかに致命傷だ。


 しかしそれだけ威力のある魔法でも、飼い主には大したダメージを与えられなかった。


 飼い主は片手を魔法が直撃した顔に当て、もう片方の長い腕を持ち上げる。

 憎悪が向けられているのは火蓮。


「させるかっ!」


 二人のあいだに、晴輝が踏み込んだ。


 火蓮に向いた憎悪を引き剥がす!

 晴輝はやや強引に懐に潜り込み、2本の短剣を力任せに振るった。


 脇腹に入るはずだった攻撃が、しかし飼い主の機敏な動きで防がれてしまった。


 攻撃は2度、飼い主の腕を切りつけた。

 ダメージはほぼ皆無。


 辛うじて魔剣の方が長さ1センチほどの切り傷を与えられた。

 シルバーウルフの短剣は……だめ。


 散々シルバーウルフを殺してきた晴輝の攻撃が、ほとんど飼い主には通用しない。


 それもそうだ。

 飼い主は上層で出てくる魔物としては一線を画す実力の持ち主。

 中層で現われるはずの、亜人系の魔物なのだから。


 晴輝の攻撃が終わった直後、

 飼い主の腕が真横に振るわれた。


「グギャァァァ!!」

「――ッ!」


 咄嗟に晴輝は短剣を構えて僅かに地面を蹴った。


 瞬間、

 ――重!


 激しい衝撃。

 視界が揺れる。


 手元で短剣が軋む。

 自然と奥歯がギリギリと鳴った。


 勢いを逃がしてもコレか……。


 いまの攻撃で、腕が軽く痺れてしまった。

 これはあまり、攻撃を受けない方が良いかもしれない。


 しかし相手は腕が長い。

 間合いが極端に広いので、短剣では対応が難しい。


 おまけに攻撃は強力。

 1撃でもまともに食らえば昏倒するだろう。

 慎重に攻撃をかいくぐり中に踏み込んでも、堅くてダメージを与えられない。


 そして、飼い主は亜人だ。

 これまでの魔物よりも、知恵が回る。

 戦闘で、学習する。

 何度も同じ手は使えない。


 難しい戦いだ。

 だが、難しいは面白い!


 晴輝は笑った。


 いいね。

 実にいい。


 笑いながら、意識を深く深層に潜らせる。

 集中し、集約し、観察し、想像し、想定し、試行する。


 相手の筋肉。重心の変化を見極める。


 1つ、2つと、予備動作を見抜いていく。


 知力の違いか。

 これまで魔物よりパターンが多い。


 それでも晴輝は丁寧に、一つ一つの動作を記録していく。

 記録し、記憶する。


「――くッ!」


 攻撃が胸を掠った。

 衝撃でバランスが崩れた。

 膝が折れそうになる。


 だが、怪我はない。

 ムカデの胸当てが良い仕事をしている。


 晴輝は自らの足に活を入れる。

 攻撃直後の飼い主に、三度の斬撃を見舞う。


「足りない!」


 傷が浅い。

 ダメージが低い。


 攻撃のやり方が悪いのか?

 相手の動きのパターンを記憶しながら、

 刃の角度を変えていく。


 4度、5度。

 一回の攻撃での手数を増やす。


 飼い主に向かう晴輝の首筋がチリチリと騒ぐ。

 晴輝は感覚を信じて地面を蹴る。


 瞬間。

 晴輝の真横を圧縮された魔法の塊が通過した。


 それが激突。

 狙いが逸れたか、あるいは回避されたか。

 魔法は飼い主の側頭部を僅かに削って後方に消えた。


 やはり魔力ツリーにポイントを振っただけあり、チャージ時間さえ稼げれば火蓮の攻撃が最も通じる。


 だがその分、ヘイトを大きく稼いでしまった。


 こめかみから血液をしたたらせながら、飼い主がギロリと細長い黒目を火蓮に向けた。


「グギャァァァ!!」

「――火蓮ッ!」

お読み頂き有難うございました。

評価、ブックマークをしていただけると嬉しいです。


次回、いよいよパワーアップする晴輝くんにご期待ください!


※2章が終わるまで更新は偶数日です。

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