Data.96 最後に残った闘士は
トラヒメとハッカクが天守で戦っている頃、マキノとリオのコンビは苦戦を強いられていた。リオによる奇襲が成功したまでは良かったものの、その後リオに攻撃技能が1つしかないと早々にバレてしまったのだ。
その唯一の技能の名は【蒼牙龍火】。
蒼炎龍砲の装備技能で炎熱属性、階級は上級。牙のように鋭く貫通力のある弾丸を発射し、着弾後はその周囲を一定時間燃やし続けるという非常に攻撃的な性質を持っている。
この技能自体は非常に強い。それは間違いない。だがしかし、これ1つだけでは攻撃パターンが単調で、敵も容易に対処できてしまうのだ。
もちろん、そんなことはリオだけでなく仲間たちもわかっていた。しかし、技能は装備と違ってプレイヤー間で気軽にやり取りできるものではない。簡単には増やせないのだ。
唯一方法があるとすれば、それはツジギリ・システム。罪を背負って奪うことでのみ、技能はプレイヤー間を移動する。
このルールは技能が巻物の状態でも一緒だ。装備を分けてくれたゼトにもリュカにもどうしようもない。ゆえにリオは装備の技能のみでバトロワを戦うことになった。
これだけでも相当に重いハンデだが、今この戦いにおいては【蒼牙龍火】が炎熱属性であることも良からぬ方向に働いている。
マキノが得意とするのは植物を操って戦う『草樹属性』。豆の林を作ることで大活躍した【豆撒林々】も草樹属性である。
そして、この属性が苦手とする属性は……炎熱属性。リオが持つ唯一の切り札【蒼牙龍火】は、マキノの技能と相性的に連携が取りにくいのだ。
実際、豆の林の中に【蒼牙龍火】を撃ち込んでしまったせいで、あんなに頑丈だった豆の木たちはすっかり燃え尽きてしまった。これが相性のなせる業である。
一方で、草樹属性が得意としている相手は土石属性。クミンがあまり積極的に攻撃しなかった理由にも属性相性が絡んでいるのだ。地面に深く根差した豆の木には、彼女の広範囲かつ高威力の土石妖術もあまり効果がない。
そんな豆の林の呪縛から解放されたクミンは今……リオが隠れている渡櫓を片っ端からぶっ壊していた!
渡櫓とは城を取り囲む石垣の上に建てられた櫓なので、渡り廊下のように長い通路が内部に存在する。リオはそこを全速力で走って逃げているのだが、外からはガンガン岩石が飛んでくる!
「ひぃぃぃ! 蒼牙龍火っ!」
直撃コースの岩石は弾丸を当てて砕く。危機的状況でも彼女のエイムは冴えわたっていた。
「トラヒメちゃんに言われて胸を元のサイズに戻しておいてよかった……!」
しかし、唯一の逃げ道である渡櫓はもうボロボロ。これ以上の逃亡劇は地上に降りてから繰り広げなければならない。
だが、いくらリオに砲を扱うセンスがあるとはいえ、真正面からの戦いとなればクミンの方に分があるのは明らか……。
マキノもまたガラムとの忍者対決の真っ最中で援護は期待できない。丸薬による強化で能力差がある現状、1対1でガラムを抑えているだけマキノも頑張っている。
「そろそろ決着をつけてくれると嬉しいんだけどなぁ……トラヒメちゃん!」
その時、天守の一部が砕け散り、中から1人のプレイヤーが吹っ飛んできた。
「あれは……ハッカク!?」
「リーダー!? まさか……!?」
突然の出来事。クミンとガラムの動きは止まり、落ちてきたハッカクに視線を奪われる。逆にリオとマキノにとってそれは、突然でもなんでもない出来事だった。
1対1の勝負に持ち込んだ時点でトラヒメが負けるわけがないと2人は信じていた。むしろ、思っていたよりハッカクを倒すのに時間がかかったなぁとすら考えていた。
「蒼牙龍火!」
隙をついたリオの砲撃がクミンに直撃する。
「ぎゃあああっ!? しまっ……ああっ!?」
青い炎に包まれるクミンの目に映ったのは、【雷兎月蹴撃】で天守から飛び下りてきたトラヒメの姿だった。クミンがそれを理解した時には、すでにトラヒメの攻撃は終わっていた。ゲームオーバーである。
そして、トラヒメは流れるようにガラムに向かう。こちらも落ちてきたハッカクに気を取られ、隙を晒したところにマキノが攻撃を加えているところだった。
「大葉手裏剣……葉刃斬々舞!」
マキノの手から放たれた大葉手裏剣の周りを、無数の細かな葉が舞い踊る。その葉の1つ1つが高速回転する鋭い刃で、触れるものをズタズタに斬り裂く凶器となる。
「ぐおおおおおおおおおッ!? む、無念ッ!」
葉の刃にズタズタにされた後、トラヒメの刃にもズタズタにされ、ガラムもあえなくゲームオーバーとなった。
これにて『新参者限定三位一体生存競争』、通称ルーキートリオ・バトルロイヤルのチャンピオンはトラヒメ・マキノ・リオのチームに決まった!
消えゆくクミンとガラムは、悔しさのあまり膝をついてうなだれる。しかし、その悔しさはただ単に負けたことに対する悔しさではない。
「くっ……! あの男に従って、汚い手まで使ったのにこのザマなんて……!」
「我が本当にやりたいことは……本当にこんなことなのか……?」
迷い苦しむ2人の目に映ったのは、純粋に戦いを楽しむトラヒメの姿だった。
「あー楽しかった! 初心者限定と聞いて油断してたけど、なかなか歯ごたえのある勝負が楽しめたね!」
汚い手段で仕組まれた勝負の後とは思えない笑顔。クミンとガラムがこの笑顔から何を感じ取ったのかは、今度の彼らの行動で明らかになるだろう。
戦いを終えた闘士たちは光に包まれ、元いた町へと戻っていった。





