Data.90 走れ、稲妻
残りパーティが見る間に減っていく――。
違和感を覚えつつも確証を得られないトラヒメたちは、丸薬を求めてマップ中央へと移動を続けていた――。
……他のパーティと出会わない!
流石の私もこれが異常事態だってことはわかる! 無双パーティを作り出すため、わざとやられに行ってるパーティがいるという推測はどうやら正解みたいね……。
おかげで5位以内に入ることができたけど、丸薬の集まりはあまりよくない。すでに探索された後の建物が多くって、運良く数個残っていた丸薬をみんなで分け合って、なんとか能力を強化していってる状況だ。
マキノの焦りは痛いほど伝わってくる。一番知識がある自分が打開策を考え、チームを導かないといけないという覚悟を感じる。
でも、人間追い詰められると視野が狭くなって、どんどん周りが見えなくなってくる。チームを導こうという意志とは裏腹に、先を急ぐマキノの足は次第に速くなっていった。
「待ってマキノ! そんなに急いだらリオが置いていかれる!」
そもそも忍者で動きが速いうえに、敏捷増強の丸薬を多く食べているんだもの。速さにこだわってないリオと移動速度に差がつくのは当然だし、先を急ぎたい気持ちもわかる。
でも、ここで単独行動はあまりにも危険! 敵が強いからこそ、みんなで固まっていた方がいいんだ。1人では簡単にやられてしまう……!
「マキノ! 聞こえないの!?」
少し前から余裕がない感じはしてたけど、これほどまでとは……! もっと早めに声をかけるべきだった!
マキノは私の言葉に反応することなく、どんどん先に進む。そして、彼女の背中は見えなくなった。
くっ……! 向かう先は見当がついてるけど、追いつくには時間がかかる。それまで何とか生き残っててよねマキノ!
「トラヒメちゃん! 残りパーティが……!」
「……ずいぶん早い最終決戦ね」
残り組数は2!
私たちと疑惑の無双パーティのみになった……!
◇ ◇ ◇
無意識のうちにトラヒメたちを置き去りにしたマキノが向かう先は、マップ中央に存在する『忍びの城』である。
ここはマップ内で最も大きな建物であり、それだけ丸薬も大量に配置されている。しかし、それは誰もが知っている事実なので、展開が早いとはいえマッチ終盤である今、城内に丸薬はほとんど残っていない。
では、なぜマキノが急いでこの場所へやって来たかというと、それは敵を待ち構えるのに適した地形だからである。城というだけあって周りは堀と石垣に囲われているし、天守に立て籠れば上から飛び道具で敵を牽制できる。
能力が相手より劣っている以上、地の利だけは絶対に味方につけたい……。その想いがマキノをひた走らせていたのだ。
マキノは城に到着すると内側から城門を閉めて回った。この門が閉まっていなかったということは、敵はこの城の中にいない可能性が高い。
「まだ、まだ希望を捨てる必要はない……!」
自分に言い聞かせるように門を閉め終えたマキノは、天守の最上階を目指す。立派な天守はそれだけ高さがある。最上階から周囲を見渡せば、敵がどの方向からやってくるか把握できる。
「敵は……いた! かなり近い……!」
肉眼でもおおよそ装備や背格好を判別できる距離に最後の敵……ハッカク率いるSpicieSがいた。
まだ向こうは城門が閉まっていることに気づいていないため、臨戦体制というわけではない。射程の長い砲ならば先手を取れるかもしれない……。マキノはそう考えた。
「リオ、あなたの出番よ!」
振り返った先にリオはいなかった。当然である。リオはマキノが知らぬ間に置いて来てしまったのだ。
だが、周りが見えなくなるほど追い詰められていたマキノは、今その事実を目の当たりにした。現実を受け入れられず、数秒間フリーズした後、彼女は乾いた笑い声を発した。
「何やってんだろう、私……」
空回り、空回り、空回り……。思えば『電脳戦国絵巻』を始めてからずっとそうだ。憧れのリュカとの冒険でも、迷惑ばかりかけてしまった。
そんなマキノでも優しく受け入れてくれたリュカに報いるために優勝を目指していたのに、ついに仲間を置いてきてしまった。
おそらく大量の丸薬を持っているであろうあのパーティにソロで勝つことは不可能だ。トラヒメとリオを待つにしても、そこまで長く生き残れるとは思えない。
頭の中に浮かぶのは『詰み』の文字のみ。いや、そもそも3人揃っていたからといって、勝てる確率は限りなく低い。最初から詰んでいたんだ……とマキノは思った。
最後のパーティは城門の前までやって来た。
「おっ、城門が閉まってるじゃないか! こりゃ誰か立てこもってるな! 立派な城で最終決戦なんて盛り上がるねぇ!」
天守にいてもやかましくて耳ざわりな声が聞こえてくる。彼らの強化された能力なら正面から城門を破るのにそう時間はかからないだろう。
最後まで希望を捨てないなら、今すぐ天守のどこかに隠れた後、奇襲で1人1人狩っていくしかない。絶望的な作戦ではあるが、勝ち残れる可能性はゼロじゃない。
リュカに報いるため、やらなければならない。城門が破壊される音を聞きながらマキノは決心した!
……が、心と裏腹にマキノの体は動かなかった。そんな作戦では無理だと頭が判断したのだ。こうなったら小細工はやめて、正面から敵に突っ込んで散る……!
そんな玉砕覚悟の攻撃を仕掛けようとした、その時――。
「うっ……! この光は……!?」
忍びの城の天守に、稲妻走る――。





