Data.88 疑惑の急展開
◆プレイヤー〈トラヒメ〉の丸薬一覧
攻撃増強×5
防御増強×3
敏捷増強×1
無限念力×1
◆プレイヤー〈マキノ〉の丸薬一覧
攻撃増強×2
敏捷増強×4
高速走法×1
◆プレイヤー〈リオ〉の丸薬一覧
敏捷増強×2
射程増強×2
硬化忍術×1
私が手に入れた丸薬の中で攻撃・防御・敏捷は強化丸薬。無限念力は特殊丸薬に分類される。
戦闘スタイル的に防御増強はそんなにいらないけど、敏捷増強はもっとほしいところね。となると、マキノかリオから譲ってもらうことになるけど、忍者から敏捷性を奪うのは申し訳ないし、リオの方からもらうとしよう。
「ねえ、リオの敏捷増強と私の防御増強を交換しない?」
「うん、いいよ。私が素早さを上げても攻撃を避けれないし、それなら防御を固めておいた方がいいもんね」
リオに防御増強の丸薬を3つ渡し、敏捷増強の丸薬を2つ受け取る。これでちょうどいいバランスになったんじゃないかな?
「私は交換せずにこのままでいいわ。好みの丸薬がかなり手に入ったし、初動は大成功よ。後はこれを食べればいいだけ。でも、間違って特殊丸薬まで食べないように」
「はーい!」
私たちは丸薬を口に運ぶ。まずは赤い攻撃増加の丸薬からだ。
「いただきまーす……」
丸薬と言うだけあった薬のように固く苦いのかと思いきや、その食感はグミそのもの! そして味は……!
「コーラ味だ!」
「防御増強は青くてソーダ味だね」
「敏捷増強は緑のメロン味よ」
私たちの世代はあまり馴染みがないけど、これはきっと古き良き駄菓子の味なんだろうなぁ~。大喜びするほど美味しいというわけではないんだけど、なぜかクセになる味と食感……!
「もぐもぐもぐもぐ……って、味わってる場合じゃないわ! グミの分配と食べる動作はサッと済ませて次の建物に移動するのが基本なんだから!」
「う、うん……。もぐもぐもぐ……」
マキノに急かされながらグミ……じゃなくて丸薬を完食し、私たちは次の目的地を決めるべくマップを開いた。しかし、マップを開いたところで急いでいたはずのマキノの動きが止まってしまった。
「どうしたの? 目的地が決まらない感じ?」
「……組数も人数も減りすぎてる!」
「えっ!?」
確かに現在の組数は12! スタート時点で33組いたはずだから、すでに半分近くパーティが全滅しているという計算になる!
「私たち、屋敷を1つ探索してグミを食べてただけなのに!」
「トラヒメちゃんが1パーティ全滅させてるとはいえ、他のパーティがそこまで好戦的とは思えません。マキノさんの言う通り、このバトロワは一度きりのチャンス。ここまで大規模な戦闘が各地で起こるにはまだ早い気がします」
「そう、そうなのよ……! まったく理由がわからない……。どうして私が参戦してる時に限ってこんなイレギュラーが……!」
マキノは想像以上に動揺している。情報を集め、よく学んでいるからこそ、予想外の事態には弱いのかもしれない。
それに純粋か不純かは置いといて、彼女のリュカさんへの想いは本物だ。ゆえに必ず優勝を捧げたいという気持ちも重圧になっている気がする。
「マキノ、悩んでても始まらないし、とりあえず前に進まない?」
「……ええ、そうね。私たちが多少出遅れているだけと思いたいわ」
前を向いて動き出す私たち。しかし、事態はマキノの願いと真逆の方に進んでいく。
マップの外側からじわじわ浸食を始めた闇から逃れるため、マップ中央に向かいながらルート上にある建物を探る。まだ丸薬が残っている建物もあれば、すでに探索された後の建物もある。
このマップ『忍びの里』はその名の通り、忍者たちが隠れ住む里をイメージして作られている。建物の数自体は多いが、密集している場所は少なく、丸薬を集めるには点在する建物を効率よく巡っていく必要がある。
そのためには険しい自然の中に隠れている忍びの道……いわゆる抜け道を使った最短ルートを覚えなければならないが、マキノはそれをすべて覚えていた。おかげで足が遅めのリオと一緒でも素早く移動ができる。
敵とも全然出くわすことがない。正直、私はすべてが順調に進んでいるような気がしていた。しかし、マキノの表情はどんどん険しくなっていく。生き残っているパーティの数を表す『組数』の減少が止まらないんだ。
でも、バトロワに詳しくない私は、早く数が減れば早く決着がついていいじゃないかと思ってしまう。なぜこんな険しい表情をしているのか……教えてくれたのはリオだった。
「このバトロワで優勝するには丸薬の力が必要不可欠。その丸薬を集める方法は今みたいに建物を巡る以外に、丸薬を持っている他プレイヤーをキルするという方法もあるの」
「それは知ってるよ。キルされたプレイヤーは所持している丸薬と、すでに食べた強化丸薬が入った宝箱を落とすんだよね」
「そう……。つまり、敵をたくさん倒した方が丸薬が集まる。いつもと違って序盤からこれだけパーティが減っているということは、リスクを承知で他のパーティに戦いを挑み、勝ちまくっているパーティがいる可能性が高い」
「それに対して私たちは、倒した敵の数の割に丸薬が手に入ってない……?」
「ほとんど何も持っていない序盤に倒しちゃったからね……」
「でも、それは相手も同じじゃない? 早い段階で数が減ってるんなら、他のパーティだって何も持ってない敵を倒してるはずだよ」
「その可能性もあるけど、さっき私が言ったように一度きりの限定バトロワでリスキーな作戦に打って出るパーティが同時にたくさん現れるとは思えないの。だから、早い段階で丸薬の確保に成功して強くなったパーティが無双している可能性の方が高い……とマキノさんも思っているはず」
「うーん、それもどうなのかなぁ。仮にかなり強くなったパーティがいるとして、それに倒されるパーティが近くに密集してないと、短時間でこんなに数は減らないと思うよ。それこそ、その無双パーティにやられるため、わざと集まってくる人たちがいなきゃ不可能じゃない?」
「……案外それが正解だったりしてね」
リオの目が冷たく光る。それは『案外』という言葉とは裏腹に、確信に満ちた瞳だった。





