Data.85 最速撃破と最多撃破
敵はそれぞれ刀、槍、斧を武具としている。一見バランスの良いパーティに見えるけど、全員近接武器というのはいただけない。攻撃範囲が被ってるから、誰が最初に攻撃を仕掛けるのか決めあぐねている。
その隙に私は手に入れたばかりの力を使わせてもらう!
「雷兎月蹴撃!」
脚からほとばしる稲妻が全身を駆け巡る! そのままジャンプ……するのではなく、今回はスライディングだ!
狙いは斧を持った男! 彼を最初に狙う理由は特にないけど、目と目が合ったので狙わせてもらった。稲妻のごとく素早いスライディングに斧の男は対応できず、そのまま正面衝突する!
「アババババババーーーーーーッ!?」
蹴りと稲妻をくらって全身を痙攣させつつ、斧の男は真上に吹っ飛ぶ! うーん、流石は異名持ちの必殺技だ。かなり性能を抑えたこの技能でも、直撃すれば恐ろしいことになる。
「火激流血刃!」
吹っ飛んだら次は落ちてくる。地面に転がっている男にトドメを刺すべく刃に血をまとわせ、プスプスプスと頭、首、胸を上から突き刺す。斧の男は消滅した。
「うわあああああああああっ!!」
まるでバケモノでも見るような目で私に突っ込んできたのは刀を持つ大男だ。さっきまでは私の蛮行に足がすくんで動けなかったみたい。
今は勇気を出して刀を振るっているんだろうけど、刀で私と勝負するには100年早い! 相手の斬撃を1回避けるごとに5回の斬撃で反撃していく。
ここで気にしないといけないのは、残った槍使いの動きだ。私が刀の大男との戦いに集中していると思っているのか、そろりそろりと私の背後に周りこんでいる。でも、全部見えちゃってるんだなぁ~これが!
それでも、気づいていないフリをして刀の大男とのチャンバラを演じる。そうして槍使いの気配が完全に背後に回り、攻撃を仕掛けてきた時に……!
「くらえっ、紫電貫通!」
「雷兎月蹴撃!」
「ぐわああああああっ!?」
私の背中を貫こうと槍使いが技能を繰り出す瞬間、こちらは【雷兎月蹴撃】のスライディングを発動し、刀の大男の股下を抜ける! 相手が体が大きいから、こういうこともできる!
槍使いは攻撃を止めることができず、味方である刀の大男に深く槍が突き刺さる!
普段のフィールドではツジギリ・システムを使わない限り他のプレイヤーを傷つけることはできない。しかし、バトロワでは当然デフォルトで攻撃が通るようになっている。そして、それは同じパーティの仲間に対しても同じだ。
つまり、バトロワは油断していると味方殺しが発生する! まあ、今回は私が味方殺しをするように誘導したんだけどね!
刀の大男が消滅し、残ったのは槍使いのみ。槍と同じように細身でひょろっとしたその男は、私と目が合った途端……逃げ出した!
まあ、生き残りをかけて戦うバトロワでは正しい選択よね。ラスト2パーティまで偶然生き残れば、不意を突いて優勝できる可能性があるもの。
ただし、それは私のようなプレイヤーに出会わなかった時のみ有効な戦術だ。
「残念だけど、私からは逃げられない!」
倒せる敵は倒せるうちに倒す。終盤戦になったら強化された状態で私たちの前に立ちはだかるかもしれないから!
「雷虎影斬! 連続斬り!」
背中を向けて一心不乱に逃げる敵を斬り捨てるのはあまり爽快感がないけど、動きが素早い私ならあの程度の敵は追いつけてしまうし、倒せるうちに倒すというのはみんなで決めたルールだものね。
なにはともあれ、これで1パーティ全滅だ!
『最速撃破と最多撃破の称号を手に入れました』
「うわっ! ビックリした~! ただのアナウンスか……」
確か『最速撃破』はこのマッチで1番最初にプレイヤーをキルした人に贈られる称号で、『最多撃破』は現時点で一番プレイヤーをキルしている人に暫定的に贈られる称号だったかな?
まあ、別にこの称号を持っているからといって、能力が強化されたりはしないんだけどね。貰えるとちょっと嬉しいおまけみたいなもんだ。
敵をキルして得られるものの本命はズバリ! キルと同時に出現するドロップ品……なんだけど、そんなものはどこにも落ちていない。
それもそのはず、ドロップ品はキルされたプレイヤーが所持していたものを落とすシステムなんだ。マッチが開始してすぐに私に襲われた彼らが何かを持っているわけもなく……。
まっ、この3キルで優勝に近づいたのは確かだから、前向きにいこう!
「こらっ! あなた何考えてるの!?」
「ひっ!? ……って、マキノじゃない」
引きつった顔のマキノと少し表情が固いリオが駆け寄ってくる。よかった、2人の方も無事だったみたい。
「ごめんごめん。カラスと一緒に空を飛ぶなんて初めてだったから全然制御できなくてさ」
「そんなサラッと……! これは一発勝負なのよ! もしキルされていたら、ごめんじゃ済まないんだから!」
「う、うん……。でも、結果的に勝ったしさ、今はこれからのことを考えようよ」
「……そういうことにしておきましょう。今は怒る時間すらもったいない。これからは単独行動を慎むように!」
「はーい! ふふっ、マキノも少しは私の力をあてにしてくれてるみたいね」
「そ、それは……っ!」
最初は1人の力で勝つからエントリーだけしてくれれば問題ないって言ってたけど、今は私の無事を本気で心配してくれていた。この心境の変化には私も思わず笑顔だ。
「……まあ、多少は期待できる強さだということは話し合いの時に理解しましたし、せっかくなので使えるものは使おうかと……。こ、これもリュカ様に捧ぐ優勝を確実に勝ちとるためですから、勘違いしないことねっ!」
「はいはい! そういうことにしておくよ、今はね」
この調子ならいける、勝てる。私たちはお互いのことを理解しつつある!





