Data.83 新緑の忍者
……と、意気込んでみたはいいものの、私たち3人の間を流れる空気は重い。明らかに気に入られていない私が、どう話を切り出せばいいのか思いつかない!
「あの……私はリオって言います。まだ初心者で足を引っ張っちゃうかもしれませんが、精一杯頑張りますので、よろしくお願いします」
「ご丁寧にありがと。まあ、そんなに気負う必要はないわ。私は私の力でバトロワを勝ち抜く。寄せ集めチームの力に頼ろうなんて思ってないから、エントリーだけしてくれれば問題ないよ」
「は、はぁ……」
リオにはそんなに塩対応じゃないな……。やっぱり、私だけが気に入らないのか。
でも、チームの力に頼らないってことは、私が実力不足で足を引っ張りそうだから気に入らないってことではないのよね? じゃあ一体、初対面の私の何が気に入らないのか……。
「ねえ、マキノ。さっきからふくれっ面だけど、私が何か失礼なことしたかな……?」
遠回しな言い方は解決への道を見失うだけだ。こういう時は直球勝負!
「失礼な……こと……? ええ、とっても私の気分を害することをしてくれたわね!」
「ご、ごめんなさい! 直せることなら直すから、何が気に入らなかったのか教えてくれないかな?」
「リュカ様に取り入ろうとしてることよ!」
「……リュカさんに取り入る?」
なんのことだかわからない……。フリーズする私とリオに対して、マキノの方はヒートアップしている。
「ああっ、リュカ様っ! 野蛮なネット社会において、あなたは優しすぎるぅ……! そんなあなたに憧れて、会いたくて! 私は『電脳戦国絵巻』を始めました! そんな私をすぐに組合に招き入れ、冒険に連れて行ってくれましたね……! なのに、あの時!」
マキノがキッと私をにらみつける。この話の流れ……読めてきたぞ!
「異名持ちを狩るための月読山遠征! 組合の他のメンバーは勝算が薄いと参加を断りましたが、私だけはお供しますと言いました! ですが、ゲームを始めて間もない私には負担が大きいとして、参加を許可してくれませんでしたよね……! なのに、私よりもゲームを始めて日が浅い女を連れて行った! 私だって強いのに……! 私の方が強いのに……!」
なるほど……。それならリオやうるみには何も思わず、私にだけ敵意を向ける理由がわかる。彼女はリュカの信頼が自分より私に向けられていることが許せないんだ。
しかも、今回のバトロワは私を強化することが一番の目的。本来なら参加条件ギリギリ、ゲームを始めて1週間ちょうどのマキノが主役になっていたはずなのに、突然リュカのアイデアで私がねじ込まれてきた。
さらに自分よりも弱いと思っている女に隠れ身の術を見抜かれたことだって、気にしてないとは言いつつ気にしていると思う。
ここまでくれば、ずっとふくれっ面なのも納得がいく!
でも、どれもこれも私を恨まれても困る理由だ! リュカさんが私を信頼してるのは強いからだし、私が強いということに間違いはないし、隠れ身の術も見破れてしまったんだからしょうがない!
それに彼女と私を比べても、私の方が強いと思う。このゲームを始めてからそこそこ多くのプレイヤーに出会ったけど、私に強い敵意を向けている今ですら、その威圧感はズズマレベル。おそらく実力もそのレベル……。
ゲームを始めて1週間でそれはすごいことだと思うけど、私には遠く及ばない。リュカさんが私の方を『月読山』に連れて行ったのは正解だ。今の彼女では飛脚の万雷兎に太刀打ちできない。
「なによ、その見下した目は?」
「あっ、別に見下してるわけでは……」
マズイ……。見下していると思われても仕方ないことを考えていた……! 考えていることが顔に出やすいというのも考えものね……!
「ああっ、こんな女にリュカ様は……! 恋人を寝取られた気分よ!」
「……リオ、『寝取られた』ってどういう意味?」
「えっ!? 知らないの!?」
「うん……。もしかして、知ってて当然の知識だったり……?」
「いやいや、知らなくていいよ! でも、簡単に説明するなら……トラヒメちゃんとうるみさんが仲良くなりすぎて、私のことをほったらかしにするような感じかな」
「うーむ、確かにそれはリオがかわいそう……って、要するにマキノは私とリュカさんが仲良くなりすぎて、自分のことがほったらかしにされてるって言いたいわけ!?」
「言葉通りなら、そういうことになるね」
うるみならまだしも、リュカさんとはそこまで親密になった覚えはない。それにリュカさんはマキノのことも期待してると思うし、ほったらかしになんて……。
「ああっ、私はリュカ様のお役に立って、いつかはリアルでお会いしたいのに……!」
むぅ、今は何を言っても通じそうにない。ここは落ち着くのを待とう。
「トラヒメちゃん……」
リオが小声で話しかけてきた。
「どうしたの?」
「あのマキノって人……ちょっと危ない人かもね」
「まあ、見ればわかるかなって……」
「それもだけど、リアルで会うことを目的に近づいてくる人をオンラインゲーム界隈では『直結厨』と言って、とっても危険視されているみたいなの」
「まあ、確かにあまりマナーが良い行為ではなさそうだけど、リアルのリュカさんに会ってみたいって気持ちはわからんでもないけどね。優しいし、ユーモアがあるし、かわいげもあるしね」
「その気持ちが暴走すると、ああなっちゃうってことだよ」
「う、うん……」
愛する気持ちが暴走すると怖いってことよね。私も身に覚えがあるような……。
「私が一番心配なのは、マキノさんの興味がトラヒメちゃんに向かないかってこと。トラヒメちゃん、人を惹きつける魅力にあふれてるから……」
「それはどうも……」
まあ、あれだけリュカさんに熱中してるんだから、急に私を好きになることはないでしょう。というか、現段階では嫌われているんだから、なんの問題も……ある!
私たちはこれから生き残りをかけて一緒に戦うチームなんだ! お互いに助け合わなければならない! それが会話にならないほどバラバラでは……!
「マキノっ!」
「な、なによ急に……」
「私のことをどう思っててもいいけど、今だけは協力しましょう。リュカさんは私たちが仲間割れしてバトロワで敗北することを望んでいない。力を合わせて優勝することだけを望んでる……違う!?」
「そ、それであってるわよ」
「だから、話し合いましょう。お互いに得意なこと苦手なことを把握して、最低限のルールを決めておけば、本番でも迷わずに動けるはずよ!」
「うん……わかった」
よし、これでとりあえず話ができる。私がホッと胸をなでおろしていると、リオが小声で『こういうところが人を惹き付けるんだよねぇ』とつぶやいた。意味はよくわからないけど、褒められている気がしたのでリオには笑顔を返しておいた。





