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Data.81 蒼龍の砲使い

 数分後、優雅蝶に乗ったリュカさんが森にやって来た。うるみはリアルの事情でまだログインできていないらしい。リオとの接触が先延ばしされて、私は少しだけホッとした。


「やあやあ、初めまして。あんたがトラヒメちゃんが連れてきたリオってプレイヤーだね。アタシの名前はリュカ! まあ、気軽にリュカさんとでも呼んでおくれよ」


「初めまして、リュカさん。リオと申します。いつもトラヒメちゃんがお世話になっております」


「あ、これはこれはご丁寧にどうも。まあ、お世話になってるのはこっちだったりして……あはは!」


 とてもなごやかな空気だ。リオがリュカさんにまで嫉妬している……ということはなさそうね。


「それで装備が足りてないんだったよね」


「はい。武具に関してはゼトさんから三つ星の砲をいただいたんですけど、それ以外がまだ……」


「ふーん、ゼトが武具をねぇ。流石にあいつはいいもん持ってるなぁ~。そういう私も実は良いものが……」


「良いものが……!」


「……ないんだよねぇ。私も仲間たちにめぼしい装備を配ったばっかりでさ! いやぁ、もう少し早めに言ってくれれば……というか、アタシがこのことを想定して装備を残しておけば良かったね……」


「いえ、私が悪いんです! こんな本当に初心者の状態でバトロワに参加しようとしているんですから!」


「いや、アタシが悪い! 戰に勝つためバトロワに参加してもらってるのに、こっちから出せる人員が1人しかいないから、わざわざリオちゃんの手を(わずら)わせることになっちゃったんだもの」


「いえいえ! 私はトラヒメちゃんと一緒に戦いたいから参加したんです! 私の想定が甘かっただけです!」


「いやいや、やっぱりアタシが……」


「ちょっと待って2人とも!」


 会話が堂々巡りしそうなので私が割って入る!


「リュカさん、もう一度持っている装備を確認してもらっていいですか? 配るまでもないと判断した性能の低い装備の中にも、実は使える装備が混じっているかもしれませんし」


「そ、そうだね。もう1回チェックしてみるよ!」


 リュカさんはステータスを開き、装備タブを最初からチェックしていく。


「これは弱い、これもダメ、これはうーん……」


 ここで良い装備が見つかればラッキー。見つからなければ、うるみに期待するしかない。あるいは、リュカさんが装備を配った人からバトロワの間だけ借りるというのも……。


「これはちょっと、これもダメダメ、これは……これは!」


 どうやら私の提案は間違っていなかったみたいね。


「あった! 実戦で使えるレベルの装飾が1個残ってたよ! その名も『龍の(つの)飾り』! 評価は二つ星で、装備技能は【防御増強Ⅱ】! 攻撃を受けた時のダメージを減らす効果があるから、どんな戦闘スタイルでも腐らない良い技能だよ!」


 リオはリュカさんから装備を受け取り、すぐに身に着ける。すると、頭からにょきっと白い角が2本生えた。なるほど、そのまんま龍の角みたいな飾りってことなのね。リオの本名は竜美だから、そういう意味でもピッタリの装備だ。


 ただ、リオの頭はボリュームのあるツインテールも存在感を放っているから、ここに角まで加わると頭の周りが少々騒がしいと思ってしまう。


「アタシから渡せるものはこれだけだね……。他は何度見直してもロクな装備がないよ」


「この角だけでも本当にありがたいです! 大切に使わせていただきます!」


「ああ! 上手く役立てておくれ!」


 これで3つの装備欄のうち2つが埋まった。残るは体の大部分を守る防具……! ここが初期の一つ星防具のままでは心もとない。最低でも二つ星の防具が欲しいところだ!


「トラヒメさーん! 遅れちゃってすいません!」


 その時、うるみの声が聞こえてきた。同時にリオの周りの空気が張り詰めるのを感じる……! ここは先手を打って2人の間に入るべし!


「うるみ、紹介するね。この子はリオと言って、リアルの私の友達なの。今回はバトロワにエントリーするために急遽参戦してくれたんだ」


「へー、リアルの……お友達……」


 リアルの私との関係性をちゃんと伝えることで、会ったばかりのリオを信頼してもらおうと思ったんだけど、この雰囲気は……もしかして逆効果?


「初めまして、うるみさん。いつもトラヒメちゃんがお世話になっております。うるみさんのお話はいつもトラヒメちゃんからよーく聞かされています」


「そ、そうですか……。それはそれは仲がよろしいみたいで……!」


「はい、私とトラヒメちゃんはとっても仲良しなんですよ!」


 リオとうるみの間に火花が散っている! それはリュカさんにも見えているようで、2人から距離を取って数歩後ろに下がっている!


 ええい! この状況を収められるのは私しかいない! 強引に話題を変えるんだ!


「それでうるみは良い防具を持ってないかな? 装備で埋まってない場所はあと防具だけなの」


「あっ、そういう話でしたね。私もそれなりに装備は手に入れてきたのですが、いらないものは必要なものと交換したり、売ってお金にしたりして、早めに整理整頓してしまうタイプなんです。だから、あまり良いものは……」


 そう言いつつも、うるみは明確な意思を持って装備タブを開いた。


「ただ、見た目が綺麗で残しておいた防具がありまして……。これがその『群青の半着(はんぎ)』です」


 うるみは鮮やかな青の着物をリオに手渡す。リオはそれを礼を言って受け取り、早速装備する。


「うわっ! 確かにこれは綺麗な着物ですね!」


 夜明け前の空のような少し白んだ青の生地。とても鮮やかで見る者を魅了する。それに加えてこの装備には下にはく袴がない。そう、まるで裸にワイシャツみたいな……上の服だけでギリギリ下半身を隠すような装備になっている!


 しかし、しかしだ。そのギリギリ見えちゃいそうな下半身を覗き込むと、ホットパンツのような丈の短いズボンをはいていることがわかった。私の『春雷の姫衣』のようにパンツ丸出しではない!


 やはり、『春雷の姫衣』は特別! 明確にセクシー装備として作られているんだなぁと改めて認識した私だった。


「群青の半着の評価は二つ星で、装備技能は【敏捷増強Ⅰ】と【水氷属性Ⅰ】です。使いどころが限られる技能ではありますが、フィールドを駆け回るバトロワでは移動速度を上げられる【敏捷増強】は相性がいいとされています」


「なるほど……。でも、この装備って綺麗だから残しておいたんですよね? 私が貰っちゃってもいいんですか……?」


「ええ、構いません。残しておいたのはいいものの、装備することはあまりなかったので」


「では……ありがたく使わせていただきますね」


「これくらいしか協力できることはありませんが、トラヒメさんのことをよろしくお願いします。トラヒメさんのことをよく知っているあなたになら、安心して任せられます」


「うるみさん……! ええ、絶対に優勝させてみせます!」


「それと……後でリアルのトラヒメさんについて少しお話を聞かせていただけませんか?」


「もちろん、よろこんで! 私もゲームの中でのトラヒメちゃんについてもっと知りたいので!」


 なんか急に仲良くなってる……! さっきまでバチバチだったのに、どこで意気投合したの!?


 というかリアルの私の話を勝手に……まあ、うるみが相手ならいいか。そもそもリオをリアルの友達だって言っちゃったのも私だし、うるみのことはもう十分に信頼している。


 なにはともあれ、これで3つの装備が揃い、プレイヤーとしてのリオが形になったわけだ! 急遽寄せ集めた装備にしては、カラーリングも髪と同じ青と白で構成されてるし統一感がある。


 本名は竜美で、プレイヤーネームもリュウオウを略してリオという彼女にピッタリの角が頭に生え、武具は蒼炎龍砲の名の通り、銃身は龍の長い体、銃口は龍の口がモチーフのデザインになっている。


 うーん、見れば見るほど完璧で負ける気がしない! さながら『蒼龍の砲使い』と言ったところか!


 でも、私たちがバトロワで優勝を目指すには、あと1つ乗り越えなけらばならない問題がある。それはバトロワへのエントリーに必須である3人目の存在! 一体どこの誰が3人目なのか……!


 その答えを知るのはリュカさんのみ。もはや時間的猶予はあまりない。すぐにその正体を聞き出さねば!

※2022/07/12追記

文章が粗かった部分を少々整えました。

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