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Data.79 射撃のプロフェッショナル

「……そこに誰かいるの!?」


 突然背後から気配を感じて振り返る。これは魔物の気配ではない。論理的に説明出来ないけど、これはプレイヤーの気配だ!


「音を消していたのに、よく気づいたな」


 気配の主が姿を現す。口元を隠す赤いマフラー、マントのようにまとったボロボロの布、腰には2丁の銃……。その格好を一言で表すなら、サムライ・ガンマン!


「ゼトさん……ですよね?」


「いかにも」


 組合(ギルド)『烏合の衆』の中でも指折りの強者。『月読山』では頂上にいる異名持ちのことや、山中に潜んでいる『惨堕亞暴琉斗(さんだーぼると)』のことを教えてくれた人。そして、リュカさんに対してなかなか素直になれない人である!


「どうして、こんなところに?」


「町でお前を偶然見かけたので(あと)をつけてきた。戰の前日となれば、いらぬ横槍が入る可能性もある。そういう輩を見つけ次第排除しようと考えていたんだが……杞憂(きゆう)だったようだ」


「私のことを心配して来てくれたんですね」


「今日死ぬと戰までデスペナルティが残ってしまうからな。お前はリュカが認めた切り札だ。万全の状態で戦ってもらわねば、俺としても困ったことになる。そして、それはこの後18時から始まるバトロワも同じだ。最後まで生き残って報酬を勝ち取り、さらに強くなってもらわねば困る」


「バトロワのことリュカさんから聞いたんですか?」


「いや、直接は聞いていない。ただ、『1週間以内にこのゲームを始めた知り合いはいないか』と、手当たり次第に聞いて回っている姿を見れば察しがつく。トラヒメをさらに強くするため、ルーキー限定のバトロワに参加させようとしている……とな」


「ああ、なるほど!」


「残念ながら俺にそんな都合のいい知り合いはいなかったが、お前たちをバトロワで優勝させるためにできることはある」


 そう言ってゼトさんはリオに近づき、真正面に立った。


「俺の名前はゼト。閑散銃士なんていう異名も持っている。以後、よろしく」


「よ、よろしくお願いします! 私の名前はリオです!」


「お前にこれをやろう」


 自己紹介が終わっていきなり何かをリオに手渡しゼトさん。その何かとは……深い青色の銃だった! いや、銃と言うにはいろいろ大きいか? 銃口が人の拳くらいあるし、銃身も1メートルくらいある気がする。


 しかし、砲と言うほど大きくもない。肩から掛けるためのベルトが見当たらないし、重量はリオが装備している見習いの砲ほど重くなさそうだ。


 このどっちつかずの武具は一体何なんだろう?


「こいつの名前は『蒼炎龍砲(そうえんりゅうほう)』。砲カテゴリーの三つ星武具だ。砲カテゴリーの中には、連射が利かず武具本体が重い代わりに一発の威力が大きい『砲』と、連射に優れ武具が軽量な代わりに一発の威力が低い亜種『銃』が存在するが……こいつはその中間に位置する特殊な砲だ」


 そこまで説明した後、ゼトさんは『まずは撃ってみろ』とリオに太い木の幹を狙わせる。


「……撃ちます!」


 ドンッと音を立てて放たれた砲弾は、ゼトさんが示した木の幹に命中すると同時に青い炎の爆発を起こした!


「この武具……さっきの見習いの砲より断然撃ちやすいです。軽いし、反動も少ないし、砲と銃の中間ということは連射もそれなりにできますよね?」


「ああ、砲に比べればな」


「それでいて威力は上がっている気がします。この武具ならトラヒメちゃんの役に立てるかも!」


「威力が高く感じるのは一つ星と三つ星のレアリティ差のせいだ。同じ三つ星の砲が相手となると、威力に関してはそちらに軍配(ぐんばい)が上がる」


「その威力の差を連射や本体の軽さを生かした機動力でカバーするんですね」


「そうだ。逆に銃が相手の場合は連射や機動力では勝てない。火力と射程の差を相手に押し付けるように立ち回る必要がある」


「なるほど……勉強になります。でも、こんな良い武具タダで貰っちゃっていいんですか? ゲームを始めたばかりの私から返せるものは何もありませんし……」


「求めるとすれば、勝利だ。バトロワでトラヒメを優勝に導く。それだけで三つ星武具以上の価値がある。もちろん、負けたからといってお前を責めることはない。その蒼炎龍砲を返却する必要もない。俺の相棒はこの2丁の銃だ。蒼炎龍砲は重くて、俺のスタイルには合わないからな」


「わかりました! 必ずトラヒメちゃんを生き残らせてみせます!」


「期待している。お前はエイム……狙った場所に当てる能力に関しては天性の才能を感じる。このVR界隈にはまれ(・・)にいるんだ。訓練もしていないのに特異な能力を発揮するプレイヤーというのがな」


「いやぁ~、私にそんな才能なんてありませんよ。でも、勉強すればそれなりに上手くなる自信はあります。もっと砲を扱う上で大事なことを教えてください!」


「よし、次は立ち回りについて説明しておこうか」


「はい!」


 な、なんだか頭が良さそうな会話で入っていけないんだけど! まあ、私は刀しか使えないから、射撃に関してリオに教えられることはなーんにもないからなぁ……。


 でも、ここでゼトさんの指南を受けてすぐにリオが強くなるとは思えない。なぜなら、練習と対人戦ではまったく空気感が違うからだ。


 バーチャル世界とはいえ、生身の人間の意思が絡んだ殺し合いだもの。最初は必ずその空気感に呑まれて体が上手く動かせなくなる。


 そこでカッコよくリオを守るのが私ってわけだ! 私は逆にあの空気感を定期的に感じないと落ち着かないもんね!


 さあ、秀才同士の砲術指南が終わるまで、私は基本に立ち返って素振りをしよう! それ1、2、3……うぅ、寂しいから早めに指南を切り上げてリオにかまってほしい……!

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