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Data.78 リオの才能

 考え事をしているうちに私たちはあの森に到着していた。ここはいつも静かで心が落ち着く。でも、魔物や暴漢が出ることもあるから、敵がやってこないうちに基本的なことを竜美に教えよう。


「そういえば、竜美は最初の武具に何を選んだの?」


「それはね……これだよ!」


 リオが装備したのは白色の長い筒だった。金属製のようで、その重さを支えるために肩掛けのベルトが用意されている。筒には手で握って支えるためのグリップもあり、グリップの付け根には指で引くトリガーがある。


「なるほど、砲を選んだのね」


「うん! 近接戦闘用の武具だとトラヒメちゃんと役割が被っちゃうし、扱いも相当難しいってネットに書いてあったんだ。でも、砲は狙った敵に直撃しなくても爆風でダメージを与えられるから、初心者にオススメなんだって」


「そうね。接近戦で初心者と経験者が戦えば一瞬で勝負がついてしまうけど、射撃戦ならまだチャンスがあるかもしれない。それに後ろから適当に撃ってるだけでも相手への牽制になるしね」


「ただ、思った以上にこの『見習いの砲』が重くって、弾があらぬ方向に飛んでいくんじゃないかって心配で……。せめて敵の近くに当たらないと爆風も意味ないし……」


「まあ、まずは試し撃ちよ! 撃ってみたら案外当たるかもしれないし!」


「うん、そうだね!」


 少々環境破壊ではあるが、太くて狙いやすそうな木の幹を的にしてリオに撃たせてみる。的までの距離は……まあ、最初だし5メートルってところかな!


「よし、撃ってみて!」


「うん!」


 ドンッという轟音が森の中に響き、砲弾はあらぬ方向に飛んでいった!


 というか、このゲームの砲弾って飛ぶスピード遅いな……。私の動体視力が良いのもあるけど、割とハッキリと軌道を視認することができた。こりゃ手練れ相手だと見てから回避されるな。


 その代わり威力は高いようで、外れた砲弾が遠くでドカンッと派手に爆発した。弾が遅いけど威力が高く、攻撃範囲が広いのが砲。球が速いけど威力が低く、攻撃範囲も狭いのが銃って感じかな。


「ドンマイドンマイ! もう1発!」


 その後、何度か砲を撃ってみたけど1発として的を捉えることはなかった。もしかして、完璧な竜美もゲームだけは苦手だったり……?


 いや、そうと判断するにはまだ早い。確かに弾は的に当たっていないが、最初の1発以外は大きく外しているわけでもない。本当に少しずつズレているような感じだった。


 十分に練習すれば修正できる気がするけど、その十分な時間が私たちにはない。さて、どう対応すべきか……。


「ごめんねトラヒメちゃん……。私、結構上手く扱える気がしてたんだけど……」


「大丈夫! 私だって最初にVR居合を遊んだ時は負け続きだったもん! 練習すればきっと上手くなるはずだから!」


「そう……? 頑張るね……」


 珍しく自信を失っているな……。本当に自分なら砲を上手く扱える自信があったんだろう。私だっていつもの竜美ならこれくらい簡単にこなせると思っている。


 じゃあ、どうしていつもの竜美と違うのか。その原因はどこにあるのか……。


「……わかった!」


「ど、どうしたのトラヒメちゃん……?」


「わかったのよ、砲弾が当たらない原因が! ズバリ、これのせいよ!」


 私は竜美の薄っぺらい胸を指さした!


「竜美言ってたよね? 身長を変えると重心が変わるって」


「う、うん……」


「それは胸でも一緒だったのよ。大きい人って片方でも何キロって重さがあるんでしょ? それを急に失ったもんだから、リオの重心はめちゃくちゃになってるってこと!」


「うーん、本当にそうなのかな?」


「絶対にそう! だから、今から町に帰ってログアウトして、胸だけリアルと同じサイズに作り変えよう! それで全部解決するからさ!」


「まあ、ゲームに関してはトラヒメちゃんの方が信用できるから従うけど……下心で言ってるんじゃないよね?」


「えっ!? そ、そんなことあるわけないじゃん! だって、私はリアルに戻ればいくらでもいつもの胸を見ることができるわけだからさ! ねっ?」


「それもそうね。じゃあ、作り変えるために町に戻りましょ!」


 リオをなんとか言いくるめ……じゃなかった、説得して『いろはに町』に戻る。そして、ログアウトしてアバターの胸を盛った後、すぐに森に戻る。


 うんうん、見慣れたサイズになるだけで一気に竜美とリオが同一人物に見えてくるし、親近感も湧いてきた! 後は私の理論が正しいことを祈るだけ……!


「じゃあ、またあの木の幹を狙って撃ってみるね。本当に効果があるかな~?」


「う、うん……大丈夫だと……待って!」


「な、何っ!?」


「魔物が近づいてくる!」


 低い唸り声、かすかに漂う獣臭、ズシッと重く響く足音……。


 現れたのは以前戦ったことがある茶色い毛の熊だった。立ち上がれば2メートルは優に超える巨体に加えて獰猛な目つき。すでにこちらに襲いかかろうとしているのは明らかだ!


「リオ、あの熊の頭を狙ってみて」


「えっ!? いきなりそんなの無理だよ!」


「大丈夫、私を信じて」


 リオの手をギュッと握ると、その顔つきが不安から覚悟へと変わる。


「うん、やってみる!」


 見習いの砲を構え、ズシズシと迫りくる熊に狙いを定めるリオ……と思いきや、いきなりリオは砲弾をぶっ放した!


 砲弾の軌道は……熊の頭部に一直線! すぐさまドカンッという爆発が起こり、熊は巨体をのけ反らせる! しかし、倒れるまではいかない!


「リオ、追撃を……!」


 私が指示を出す前にリオは次弾を放っていた! それもまた頭部にクリーンヒットし、さらに追加でもう1発も頭部にお見舞いする!


「すごい……! 全部当たってる……!」


「やっぱりトラヒメちゃんはすごい人だね! 当たらない原因は胸を削ったことだったみたい!」


「ふふっ、でしょ?」


 ああ、いろんな意味で予想が当たっていて良かった……! これならバトロワでも十分戦力になってくれるはず!


《グオオオォォォーーーーーーッ!》


 咆哮(ほうこう)

 頭部に砲弾を3発受けても熊は倒れていなかった!


 それもそのはず、リオの武具は最初に貰える一つ星武具で攻撃技能も使っていない。いくら弱点をついても、3発で魔物を撃破するのは不可能だ。


 いきなり当てられるようになって驚いたのと、爆風で頭上に表示される体力ゲージが見えなくなっていたから、私もすっかり倒せたと思い込んでしまった。


「も、もう1発……!」


「いや、ここは私が!」


 怒った熊はこちらに突っ込んでくる。こうなったら私の出番だ!


「雷虎影斬!」


 四足歩行で突っ込んでくる熊の頭上へ飛び、上から首に向かって刃を振る!


 私の攻撃は初心者のリオとは比べ物にならない威力だ。一太刀で熊を撃破し、着地も華麗に決めた!


「か、カッコいい……! 近くで見ると一層カッコいいよトラヒメちゃん!」


「ふふっ、どうもどうも! ただ、喜んでばかりもいられないんだなぁ、これが」


「うん、今のままじゃ私の攻撃力が低すぎるね」


 いくら射撃が上手くなっても、初期武具に技能ナシでは戦力として数えにくい。もちろん、私は戦えるのが私1人でもバトロワに勝つつもりだけど、それではリオが満足しないだろう。


 とはいえ、私は砲カテゴリーの良い武具なんて持ってないし、ご厚意(こうい)で譲ってくれる人がいきなり現れたり……しないよなぁ~。

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